コロナ後の未来へ4 チッチョ・スルターノの場合

南シチリア、ラグーサ・イブラにあるレストラン「ドゥオモ」オーナーシェフ、チッチョ・スルターノ Ciccio Sultanoは長年ミシュラン2つ星を維持するシチリアを代表する料理人であり、2020年のガンベロロッソでは年間最優秀レストランにも選ばれた。昨年5月にチッチョの元を訪れた時、最新プロジェクトである「カンティエリ・スルターノ」や生産者の元を訪ねては「ドゥオモ」でチッチョの料理を堪能する、そんな日々を過ごしたことがある。全てが順調ならばおそらく今年の秋にはシチリア史上初のミシュラン三つ星も視野に入っていると希望を込めて予測していたが、やはり「ドゥオモ」も現在休業中。シチリアの哲学者、チッチョ・スルターノからの手紙を紹介する。

チッチョスルターノからの手紙 毎朝目覚めるたび、夜眠りにつく前、時には1日に何度も何度も「どうすればいいんだ」そればかり考えています。コロナが収束したあとも料理人という仕事を変えようとは思わないし、スタイルを変えるつもりもない。もう50才だし、そんなことしたらお笑いですよ。いままで料理することで全てを築き上げて来ました。常にアンテナを張り巡らし、しっかりと準備に取り組み、仕事にはつねに誠実でありたい。たとえそれが必要とされていなくてもね。なのでわたしにもよくない点もありますが、料理人をやめるつもりは毛頭ありません。
いま目の前にある危機を乗り越えた時、次に自分に問うのは「どうすればいいんだ」ということです。どんなやりかたならば価格を維持し、生き残れるか。原価とサービスのバランスをいかに保つかというのはリアルな問題です。レストランに行ってきちんとしたフルコースを食べたい、という人間の欲求は自粛期間ぐらいではなくなるとは思えません。むしろその逆であり、外食したいという欲求は需要につながるはずです。それはまだお金のない若者が毎月少しづつお金を貯めて特別なレストランにいく、それとよく似ています。そうしたピュアで料理好きなゲストというものは、わたしたちにやる気とエネルギーを与えてくれます。そうしたゲストをがっかりさせないように本当にいい仕事をしたい、そういう気になるはずです。それが「どうすればいいんだ」ということの答えでもあります。 料理人とゲストとは互いの存在をリスペクトしないといけない、そう思います。二つの存在は相反するものではなく表裏一体なのです。純粋な気持ちで料理を味わいたい、知りたいという人にとって、レストランとはスペシャルな「招待状」になると思います。招待状を持って素敵な服を着て美味しいものを食べ、人生を堪能する、それがレストランへの招待です。
コロナが収束した後、料理とらおそらく新たな価値を持つはずです。値段ももはや関係なくなるでしょう。レストランに行くというその行為こそが全てなのです。 レストランは今までより少ない席数で、ソーシャルディスタンスを守って営業再開することになるでしょう。支払いの方法も変わるかもしれません。本当に素晴らしいサービス、料理、空間、そういうレストランだけが行く価値がある店として生き残るはずです。 大きな声で話すことも、おしゃべりに熱中することも以前より少なくなるでしょう。おばあちゃんのレシピだろうと有名シェフのレシピだろうと、料理について食卓で語ることはたいした意味がなくなる。泣いたり笑ったり、それまで抑えていた感情が自ずとほとばしる場となることでしょう。わたしたち料理人は誰もがみなレストランの再開を心待ちにしています。 「どうすればいいんだ」それはつまり、これからの未来に最善を尽くすことです。シンプルなものほど難しい。量ではなく質の世界、革新も愛情も必要です。レストランに行くということはその時間を有意義に過ごすこと。人生を楽しむために届く招待状、そうなることを切望しています。コロナ騒動が始まる前に「カンティエリ・スルターノ」について記録をまとめていたのですが、今回の件を受けて「非常事態を乗り越えるには」という一章を新たに書き足そうと思っています。  

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