コロナ後の未来へ6 「レストランは終わった」ヴィッサーニの場合
ジャンフランコ・ヴィッサーニ Gianfranco Vissaniは普段から歯に衣着せぬ物言いで賛否両論はあるものの、イタリア料理界において良くも悪くも最も影響力あるシェフの一人である。1951年スポレートに生まれたヴィッサーニはホテル学校を卒業後、イタリア各地でのステージを経て1973年に父のレストランを受け継ぐ。するとやがて頭角を表しミシュラン2つ星はじめ多くの賞に輝いた。イタリア全国を旅して郷土料理を紹介するテレビ番組「リネア・ヴェルデ Linea verde」には2002年から出演。イタリアで最も多くテレビで目にする機会がある料理人のひとりであり、かつて「料理の鉄人」に登場したことを覚えている人もいるかもしれない。 そのヴィッサーニが経営するレストラン「カーサ・ヴィッサーニ Casa Vissani」はコルバーラ湖に面したウンブリア州バスキにある。都市部と違ってカントリーサイドにあるレストランは、人々の移動が制限された現在はより深刻な状況にある。過日イタリアのTV番組TG7にテレワーク出演した際、ヴィッサーニは例によって激しい口調でこう訴えた。 「もはやレストランは終わった。たとえコロナが収束したとしても誰もレストランに出かけたりはしないだろう。うちには18人の従業員がいるが今は何もできない。いまできるのは店を閉めること、それだけだ。」 テイクアウトとか、他の方法で活動を続けるシェフもいるが?との司会者からの質問に対しては 「テイクアウト?デリバリー?そんなことをしてもうちのレストランの前を通るのはイノシシぐらい、バスキはオルヴィエトからもトーディからも20km離れた田舎だ。ここはミラノでもローマでもフィレンツェでもないんだ。」とはげしくまくし立てた。 ヴィッサーニの言葉はある意味正しくもある。ロックダウンの第二段階「ファーゼ・ドゥエ」を迎え、イタリアでは6月1日からレストランの再開が許可される予定だ。とはいえ、テーブル間の距離を離すなどソーシャルディスタンスを遵守することが求められる他に、ある意味日本よりも厳しいEUの衛生基準であるHACCPからはより一層厳しい感染防止対策が課せられるはずだ。ある統計によれば、おそらくローマでは6月1日になっても3分の1のレストランが営業再開できないだろうといわれている。また、現在は資金繰りに行き詰まった多くのレストランが二束三文で売りに出しており、そうした機会を利用して反社会的勢力が資金洗浄先としてレストラン買収に積極的に乗り出しているともいう。FIPE(Federazione Italiana Pubblici Esercizi)2017年の統計によれば現在イタリアには330,000件のレストランがある。そしてミシュラン3つ星は2020年度版で11件。「3分の1のレストランが閉店する」という説をイタリア全土に当てはめてみると、衝撃的な数字となる。果たしてジャンフランコ・ヴィッサーニもコロナ後に生き残れるかどうか?それはあと1ケ月ほどで見えてくるはずだ。

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