徳吉洋二の新プロジェクトBENTOTECA

ヨーロッパでいち早く新型コロナウイルスの感染が広がり、世界で最も早く都市封鎖「ロックダウン」に突入したイタリアだが、現在は緩やかな解除第二レストラン業界の動きも活発になりつつある。ミラノでただひとりミシュランの星を持つ日本人シェフ徳吉洋二は5月14日にデリバリーに特化した「ベントーテカ Bentoteca」をオープン。コロナ後の生活様式の変化にあわせ、自然派ワインと組み合わせて楽しむ新しい弁当の提案をミラノで開始した。

徳吉シェフと新型コロナウイルスを巡る動きはなんともめまぐるしかった。世界ベストレストラン50で世界一にもなったモデナの有名店「オステリア・フランチェスカーナ」でマッシモ・ボットゥーラ・シェフの右腕として10年働いた後に独立。2015年ミラノに「TOKUYOSHI」をオープンすると同年早くもミシュランひとつ星を獲得。2019年には神保町に「アルテレーゴ」をオープンするなど、日本とイタリア両国で活躍を続ける徳吉シェフの未来は順風満帆に見えた。昨年秋からの改装がようやく終了した新生「TOKUYOSHI」も2020年2月にリニューアル・オープン。まさにこれから、という矢先にミラノで新型コロナウイルスの感染が急拡大。ミラノ含むロンバルディア州全体での都市封鎖が始まったのだ。 3か月にわたる改装を終えて2月にリニューアル・オープンした「TOKUYOSHI」だったが、その直後に新型コロナ・ウイルスの感染拡大が始まった。再開したばかりの「TOKUYOSHI」は3月に入ると全面的に休業。徳吉シェフも自宅待機が続き、日本に帰ることはおろか、ミラノ市から一歩も出ることができなくなったのだ。ロックダウン開始直後に電話で話した際には「ミラノをめぐるレストランの状況は本当にひどい。このままでは多くのレストランが潰れてしまうでしょう。デリバリーを始めるにしても、注文しても2〜3時間待ちもざらだし、料金も高い。現状ではデリバリーも難しいです」と語っていた。しかし自粛期間中も徳吉シェフは徐々に活動を再開。ミラノのサン・ジュゼッペ病院で働く医療従事者たちのために毎日50食の食事を作り、届ける運動も始めた。そしてこの経験が新しいプロジェクト「ベントーテカ」となった。
「実は今回の新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前から、日本食をテーマにした食料品店を開きたいとは思っていたのです。もちろん、この状況は予測できませんでしたし、おそらく「TOKUYOSHI」9月になるまで再開できないでしょう。なぜならば、マスクをしてサービスするような空間では、お客さんに料理を楽しんでもらえないからです。なので弁当とウドンに特化したテイクアウトとデリバリー専門店「ベントーテカ Bentoteca」を始めることにしたのです。」 徳吉シェフは日本人である出自とイタリアでの経験をクロスさせる「クチーナ・コンタミナータ」の旗手としてミラノでも評価が高い。日本とイタリア双方の食材や調理法、文化、歴史を組み合わせた一連の徳吉料理は、単なるフュージョンにはない説得力に満ちている。弁当はもちろん日本伝統のテイクアウト料理ではあるけれど、徳吉シェフはイタリア料理のアプローチで弁当に取り組んだ。 それは「TOKUYOSHI」の人気メニューから生まれたスピンオフ的な料理であり、ユーモアとウイット、そして独特の世界観が詰め込まれた徳吉式ランチボックスだ。 現在のラインナップは「SABAKATSU BENTO 鯖カツ弁当 16ユーロ」「ANGUILLA KABAYAKI BENTO ウナギ蒲焼き弁当 22ユーロ」「YAKITORIBENTO 焼き鳥弁当18ユーロ」そして「UDON KIT うどんキット16ユーロ」の4種類。 これに自然派ワインの組み合わせ「アッビナメント」を提案している。徳吉ファンならば「ウナギの蒲焼き」と聞けば「オステリア・フランチェスカーナ」時代に遡るウナギのバルサミコ・グリルを思い出すだろうし、焼き鳥弁当に使われるスキヤキソースは、徳吉シェフがしばしば肉料理に使う人気のソースだ。これらは公式サイトから注文でき、テイクアウトかミラノ市内中心部限定のデリバリーを選択できる。
イタリアにおける和食ブームの発信地でもあるミラノは、日本料理店も多く和食に慣れ親しんだミラネーゼも多い。しかし徳吉シェフの新しい弁当は、そうした従来の和食とは一線を画す、見て美しい、食べて美味しい、日本の美意識が詰め込まれた徳吉料理の最新形だ。
実際に現地に足を運んでこの弁当を味わえるようになるにはまだもう少し時間が必要だが、まずは長い自粛期間が開けつつあるミラノの人々に先に味わってもらいたい。それは2か月に渡って新型コロナウイルスと闘ってきたミラノの人々へ、徳吉シェフからの贈り物なのだから。 www.bentoteca.com Via San Calocero,3 MILANO

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Masakatsu IKEDA

Masakatsu IKEDA

池田匡克 Masakatsu IKEDA ジャーナリスト 1967 年東京生まれ。出版社勤務後1998年イタリアに渡り独立。旅と料理のビジュアル・ノンフィクションを得意とし、イタリア語を駆使したインタビュー、取材、撮影、執筆、講演活動を日本、イタリア両国で行う。主な著書に「シチリア美食の王国へ」「イタリアの老舗料理店」「サルデーニャ!」「フィレンツェ美食散歩」「Dolce!イタリアの郷土菓子」「世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ」など多数。2005年よりイタリア国立ジャーナリスト協会所属。2014年国際料理大会Girotonno、Cous Cous Festに日本人として初の審査員に選ばれる。2016年レポーター・デル・グスト賞受賞。2019年ピクトゥーラ・ポエシス文化部門賞受賞。Facebook,Instagram:Ikedamasa

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