Withコロナのミラノ発、コーヒーテイクアウトの新しい様式 Kōhī – Tokyo 1982
ロックダウンからFASE 2に進み、少しずつ日常を取り戻しつつあるイタリアだが、もちろん、元の暮らしに戻れるわけではない。それどころか、飲食業界は新たなる苦難の時代にある。マーケティングデザイン及びフード・エクスペリエンス業界で30年の歴史を持つミラノの
Marketing&Trade社の代表取締役、カルロ・メオ氏によれば、現状三つのグループに分かれるという。一つは再開の目処の立たない店、二つ目が再開しても感染防止策で手いっぱいの店、そして三つ目が新しいことにチャレンジする店である(
Gambero Rossoの記事より)。
新しいこと、その端的な例がテイクアウトだ。店内滞在をなるべく避けたいと考える人々が増えている今、テイクアウトは最も利用率が高まっている分野である。ことに、ミラノのようなビジネス都市では、元から時は金なりの考えが定着しており、短時間で手軽に食事をとることに抵抗が少ない。そして同時に、よりクオリティの高いもの、よりヘルシーなもののためには多少の出費は惜しまない傾向がある。この点に注目して新たに誕生したのが、コーヒースタンド「Kōhī– Tokyo 1982」だ。

カフェではなく、あえて“コーヒー”と読ませるのは、今までとは違うというイメージを打ち出すためだろう。白木のカウンターに白いタイル張り、日本人はまず選ばないだろうフォントのロゴ。外国人の目を通してみるニッポンのイメージが垣間見える。そして、余分な装飾を省いた潔いデザインにミラノらしさが滲み出る。
基本コンセプトはよりシンプルによりクオリティの高いコーヒー・エクスペリエンスを提供すること。“street grab-and-go”をテーマに、テイクアウトでプアオーバー(つまりハンドドリップ)のコーヒーと軽食を販売する。カフェ・エスプレッソやカプチーノももちろんあるが、若い世代を中心にスペシャルティコーヒーへの関心は年々高まっており、特にその傾向が顕著なミラノでは、厳選した豆を使ったプアオーバーのコーヒーに注力することは、決して無謀ではない。ちなみに豆はドリップにもエスプレッソにもベストなパフォーマンスが発揮できるよう調整されたオリジナル・ブレンドで、コールドブリューも提供している。また、コーヒーマシンはマルゾッコ社のテクノロジーが詰まったModbarを採用している。
フードは、よりgrab-and-goを意識し、シンプルでわかりやすく、またヘルシー指向でもある。朝食に好まれるドルチェはパンオショコラやマドレーヌ、塩味好みならブレッツェルやセナトーレ・カッペッリ小麦を使ったフォカッチャ。ランチや軽い夕食用としてポキやスシもある。そして支払いは、アプリを使ったキャッシュレス決済を選べばよりスピーディで手間いらずだ。

1号店は地下鉄M3線のポルタ・ロマーナ駅構内にオープン。これから徐々にプレミアム・ハイ・ストリートと呼ばれるようなファッショナブルな街角、百貨店、フードホール、高級食品専門店、コンセプトストアはもちろんのこと、住宅街やオフィス街にも展開していくという。広さ15〜20平米のコンパクトな規模ゆえ、瞬く間に広がる可能性もある。
実はこのKōhī– Tokyo 1982、コロナ以前からプロジェクトは始まっていた。たまたまwithコロナのこの時期に1号店がオープンしたのだが、まさに時機を得たと言える。バールで陶器のカップのカフェを飲む習慣が、on-the-goのカップで“コーヒー”を飲む習慣に成り替わったのが2020年、と後世語られることになるかもしれない。
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