ウィズ原宿EATALYの存在意義
新型コロナウイルスの影響で開業が遅れていたJR原宿駅前の新名所「ウィズ原宿」が6月8日正式にOPENした。地上9階建ての建物は眼下に広大な神宮の杜を見下ろす絶景ポイントで、そのハイライトは8階に誕生した「資生堂パーラー ザ・ハラジュク」である。銀座「資生堂ファロ」本多康史ソムリエが店長として就任、正統派洋食にイタリアワインの組み合わせは絶景ロケーションにふさわしい。そのレポートはすでに他の場所に書いたのでここでは同じ「ウィズ原宿」3階に誕生したEATALYについて考察したい。 アルバ生まれの事業家オスカー・ファリネッティが2004年に創設したEATALYは、それまでスローフードのガイドブックで見るだけだったようなイタリア各地の希少食材や郷土菓子、DOP食材、伝統の食品、大量生産ではない家内制手工業的イタリア食材を集めた画期的な食のテーマパーク的食料品店としてスタート。イタリア各地から徐々に世界へと広がり現在は世界中で36店舗を運営。日本は現在3店舗展開しているがこれは本国イタリアの13店舗、アメリカの6店舗に次ぐ世界でも3番目の規模だ。これはイタリアにとって日本がいかに重要なマーケットか、を示している。 イタリア本国のEATALYでもそうだし、NYのEATALYを訪れた時に感じたのは、イタリア食材や料理、ワインに関するスタッフの知識の深さで、なによりもイタリア料理に対する愛情と深いリスペクトだった。ワイン一本一本を愛でるように扱い、ショーケースの中のチーズや生ハムは常時手入れを怠らない。しかしそうしたイタリア食材に対する愛情は、日本のEATALYでは残念ながら希薄である。 公式サイトには、今回の原宿店については日本橋三越、東京駅につづく第3のEATALYがOPENとある。イタリア料理愛好家ならばまだ記憶にも残っているはずだが、かつて代官山にあったEATALYは一度事業を清算、日本におけるEATALYは現在の運営会社「イータリー・アジア・パシフィック株式会社」となって再出発した。つまり代官山のEATALYはなかったもの、として現在のEATALYの記録から抹消されているのだ。 代官山に関してはいろいろな問題があったが、EATALY史上世界で唯一の失敗例だったことは事実。その代官山でのやりとりは強く記憶に残っている。ある時パスタコーナーでスパゲッティを眺めていると若い女性スタッフが「それ美味しいですよ」と話しかけてきたので「じゃこれは?」と隣のスパゲッティを指差すと「それも美味しいですよ」という。「ではこれは?」とその隣のスパゲッティについてたずねると「それも美味しいですよ」とにっこりと笑顔で答えてくれたのだ。 イタリア食材に関していうならば、例えばイタリア料理店を訪れた時、食材や料理について熱く語ってくれるシェフやソムリエ、スタッフの姿が、イタリア料理愛好家にとっては愛すべき日常の光景である。なぜならば彼ら、彼女たちはイタリア料理が好きなので現在の職業を選んだ、という純粋かつ当然と言えば当然の選択の結果の上に日々の業務に携わっている。しかしEATALYのスタッフはどうだろう?果たしてイタリア料理が好きでその道を極めようとしてこの世界を選んだのだろうか?そこがイタリアやアメリカのEATALYとは決定的に違う点ではないか。実際に来店者と接するスタッフにイタリア食材や料理、ワインに関する情熱がなければ、日々知識や技術を磨いて営業を続けるイタリア料理店やイタリアワイン専門店、イタリア食材店には勝てないだろう。結果現在の立ち位置である「EATALYに『でも』行くか」になってしまうのである。 「ウィズ原宿」のEATALYは3階に位置しているので気持ちよいテラス席がある。これは地下にある他の2店舗にはない絶対的なアドバンテージであり、本来ならばイートインの楽しさを感じさせてくれるロケーションだ。まだ若いオープニングスタッフたちが、仕事やサービスについて学ぶのはまだこれからだろう、と思う。しかしその前に、これはおそらくわたしだけではなく多くの人が感じていることだと思うが「いらっしゃいませ、ぼんじょるの〜♬」と間違った陽気だけを売りにするようなスタイルはいい加減もうやめないか?せっかく素晴らしいロケーションにあるのだからきちんとセレクトしたグラスワインとチーズや生ハムを出し、プロとして説明し、サーブする。「EATALYにでも」ではなく「EATALYに行こう」そう思わせるような店へと成長していってほしい、とEATALY ファンとしては切に願う。 東京都渋谷区神宮前1-14-30 ウィズ原宿3階 03−6432−9080 11:00〜21:00

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