高田馬場ダイ・パエサーニ、無農薬野菜の喜び
「自粛期間があけたら行くよ」とジュゼッペには言っておきながら、6月はおろか7月になってもなかなか訪れることができなかった高田馬場のアブルッツォ料理店「ダイ・パエサーニ Dai Paesani」。とはいえ、コロナ自粛期間中もジュゼッペのFacebookからは、自家菜園で作る見事な無農薬野菜の様子が毎日のように目に飛び込んできていた。タマネギ、ジャガイモ、ナス、ズッキーニ、トウガラシ、そうした無農薬野菜を堪能したい、ジュゼッペにメッセージを送ると「いつでも待ってる」と言ってくれたのだ。
ある土曜日のランチに訪れた「ダイ・パエサーニ」は以前より席数は減らしたものの満席。毎週土曜日のランチには必ず訪れるという近所のご婦人の姿もあり、なによりも地元密着で愛されている姿を見るのが気持ちいい。ジュゼッペは店の入り口で一生懸命、収穫したばかりの青唐辛子をプラスチックのシートに差し込んでいる。聞けばこれは唐辛子を干すための器具で、その昔アブルッツォでは一本一本青唐辛子を糸で縛り、赤くなるまで家の中に吊るしていたという。料理だけでなく、こうした生活習慣、つまりはイタリアの空気そのものを伝えてくれる「ダイ・パエサーニ」は実に貴重だ。おおげさではなく、店に一歩足を踏み入れた途端、本当にイタリアの空気が流れているからだ。 この日の前菜盛り合わせは、フォカッチャ、ナスのパルミジャーノ、ムール界とスペルト小麦のサラダ、ジャガイモのベシャメル焼き、ロマネスコ、そしてチーズと卵で作るアブルッツォのポルペッティーネPallòtte Càsoe e òva。野菜は全てジュゼッペの自家菜園で作った無農薬だ。酸がマイルドなIlluminatiのPecorinoを飲みながらこの前菜をひとつひとつ味わっていると、自家製サラミの盛り合わせFellàta di salìéme abbruzzéseがやってきた。鹿児島産黒豚を使ったプロシュット、コッパ、パプリカやハーブを使ったオリジナルのヴェントリチーナ・ディ・ズィ・ペッペなどなど。日本のレストランではこうしたサルーミの盛り合わせ、いわゆるハム盛りはあまり出ないという話もあるが「ダイ・パエサーニ」はこの自家製サルーミを目当てに訪れる日本人、イタリア人も多い。 パスタは同じく無農薬畑で作ったグリーンピースのオレッキエッテとラグーのカヴァテッリ。カヴァテッリは想像していた形状とは異なり、サルデーニャのマッロレッドゥスを思わせるものだった。 セコンドはタマネギ、サルシッチャ、豚バラを串焼きにしたスピエディーノ、付け合わせの新じゃがのローストがとてもみずみずしい。さらに追加で羊の串焼きアロスティチーニを頼む。これはアブルッツォでよく食べるストリートフードだが、トラットリアでも出してくれる店は多い。大抵は冷めないようにとアルミホイルに包み、専用の器に立てて登場する。一本とってはアルミホイルを閉じ、また取るときは再び開いてつねに肉が冷めないようにする、と去年アブルッツォで教わったのを思い出した。味付けは塩のみ、粗にして簡だが卑ではない、というシンプル料理の極致。ワインはTenuta FauriのMontepulciano d’Abruzzo。最後のドルチェは自家製のペスケ、これは冷たいセミフレッドだった。 食後にしばしジュゼッペと語らう。「ダイ・パエサーニ」では自家製の無農薬野菜を使用しているのだが、畑仕事を続けるのは相当しんどいという。無農薬の場合は収量は6割減、キャベツなんかはあっというまに虫に食べられて一晩でなくなってしまうそうだ。来年以降も無農薬野菜作りを続けるかどうかは現在のところまだ不透明。しかしサルーミ作りにはその分情熱を燃やしている。スローフード協会のプレシディオにも指定されているアブルッツォのスプレッド・サラミ、ヴェントリチーナ・ディ・エンリコに似たオリジナルのヴェントリチーナ・ディ・ズィ・ペッペ(ジュゼッペの相性)はすでに商標登録し、今後はサルーミ製作に一層力を入れるという。これから8月にかけてはナスやトマト、ズッキーニなどの夏野菜が旬を迎える季節。梅雨が終わった頃にはそうした新鮮な野菜が「ダイ・パエサーニ」の食卓を彩るはずだが、来年も再び食べられるかどうか確証はない。ジュゼッペの無農薬野菜を「ダイ・パエサーニ」で堪能するなら、いまが食べどきだ。ダイ・パエザーニ Dai Paesani 東京都新宿区西早稲田2-18-19 Tel03-6457-3616 11:30〜15:00、18:00〜23:00 月休
SAPORITAをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。