地上39階で味わう「7つの美徳」のミクソロジー@ヴェルテュ, フォーシーズンズホテル東京大手町
世界47カ国、117のホテルと44のレジデンスを展開するフォーシーズンズ・ホテルズ・アンド・リゾーツ。言わずと知れた最高級ホテルの代名詞的存在であり、然し乍らそのサービスに驕り高ぶったところは微塵もなく、妙な言い方だがアットホームな空気さえ醸し出す、独自のホスピタリティを貫くグループである。ロケーションの選定にもこだわりがあり、イタリアではミラノ、フィレンツェのどちらもが、由緒あるパラッツォを生かし、街並みに溶け込むことを良しとしている。一見、変哲のない容貌だが、一歩中に入れば独特の世界観が微細に行き渡った、これぞフォーシーズンズと思わせるシックかつラグジュアリーを目の当たりにする。 日本、ことに東京では残念ながら、そのような古き建造物を生かすことが年々難しくなっており、フォーシーズンズホテルズも他の五つ星クラス同様、新建造高層ビルの中に入らざるを得なくなっている。が、それでもやはり、一歩入ればそこはフォーシーズンズだと思わせるマジックは健在だ。コロナ禍の影響で、本来ならオリンピック前の7月1日にオープンする予定だったフォーシーズンズホテル東京大手町は、9月1日にオフィシャルに動き出した。大手町1丁目、お堀を挟んで皇居に隣接するOtemachi Oneタワーの上層階に客室、最上階の39階にレセプション及びラウンジ・レストランが入る。皇居に隣接すると言ったが、タワーとお堀の間に三井物産ビルがあるので、正確には“お隣”ではない。しかし、皇居の緑を見下ろすロケーションであることには変わりなく、ついでに言えば、新宿と渋谷の高層ビル、東京タワー、そしてスカイツリーまでをも遮るものなく眺望できるというのは、なかなかのロケーションである。 車で来ればスムーズなのだが、地下鉄大手町の駅から向かうと、ややわかりにいルートを辿る。これは、ふらふらと迷い込んでしまうものを自然とシャットアウトする仕組みだろう。ともかく、無事に39階までエレベーターで到達する。目の前に開けたのは大きなガラスの向こうに広がる夜景。少し視線を落とせば皇居の緑が闇に沈んで見える。このフロアにあるのはラウンジと、フレンチのファインダイニング「エストEst」、窯焼きピッツァとショーキッチンで楽しませるイタリアン「ピニェートPigneto」、そしてバー「ヴェルテュVirtù」。目的地はこのバーだ。 Virtù、イタリア語ではヴィルトゥ、美徳と訳されることが多いが、その実、能力や力量と言った意味を持ち、とどのつまり持って生まれたさまざまな(良い)質を指す言葉である。思うに、それぞれのお酒が持つ力量を楽しく試すことが、このバーの目指すところなのだろう。 中央に対面式の長いカウンター、右手はベンチシート、左手の窓側はテーブル席、正面奥にバーカウンターという構成で、バックバーには700種類ものスピリッツやリキュールが揃う。メインのホールの他にもう一つ、扉で仕切られた小さなバールームもあり、プライベートバーとして、あるいは、ゲストバーテンダーによるスペシャルイベントも将来予定している。
ミステルコブラー
主役となるカクテルについては、フランスのヴィンテージスピリッツや希少なコニャックをベースに日本の素材を取り入れているのがポイントで、「7つのVirtù」をテーマにしたオリジナルカクテルがメニューに並ぶ。フィレンツェのバー「ラスプーチン」は、7つの大罪(Sette Peccati)がテーマだが、ミクソロジーの世界では「美徳」「罪」といったインスピレーションを掻き立てる言葉が好まれるようだ。最近のミクソロジーブームは、料理をクリエイトするのと同じ感覚で素材を組み合わせ、変化させるところが魅力として支持されているが、タイトルのファンタジックぶりは、料理界の比ではない。その自由さがまた多くの若い参入者を招いている。 翻って最初の一杯。その前にウェルカムドリンクが供される。スイートベルモット、金柑のリキュール、フランボワーズリキュールを合わせた、軽くフルーティな味わいで、“飲み欲”を刺激してくる。メニューの中から店の名前を冠した「ヴェルテュ75」を発見。ジンまたはブランデー(好みでセレクト)、レモン、アブサン、オレンジビターをシャンパーニュベースで仕上げたもので、スターターにはちょうどいい。もう一つ、ちょっと変わったラベンダーフレーバーの「シャンプス・ドゥ・ラベンデ」も人気らしい。ウォッカにカルピス、レモン、バイオレットリキュール、ラベンダービターズを合わせ、ソーダを加える。南仏の香りのカルピスソーダである。
ピッツァ・カラブレーゼ。かなり辛め。
次に選んだのは、「梅オールドファッションド」、バーボンに樽熟成の梅酒、ペドロヒメネス、そしてチョコレートビターをほんの少し加えた飲みやすいが深みのあるカクテル。もう一つ、女性好みというピノ・デ・シャラントと金柑リキュールを合わせた「ミステルコブラー」もオーダー。柑橘の香りと口当たりの良さが後を引く。甘いワインが好きな人にはお勧めの食前酒だ。
和牛サンド
もう一つ、カクテルを純粋に味わう向きには邪道と思われるだろうが、ここのフードもいい。上質な牛肉のカツレツを挟んだ和牛サンドイッチ、ロブスターをパンブリオッシュにたっぷりつめたロブスターロール、そしてトリュフペーストを散らした揚げたてのフライドポテトなど、メニューは絞り込まれているがどれもハイレベル。もっとしっかり食べたいならば「ピニェート」からピッツァのデリバリーも可能だ。 Withコロナの今、外で飲む機会は減っているが、たまには気分転換に静かなバーで最新のミクソロジーシーンを楽しむのも悪くないだろう。
トリュフフライドポテト
Virtù ヴェルテュ 千代田区大手町 1-2-1 フォーシーズンズホテル東京大手町 39F Tel03-6810-0655 https://www.fourseasons.com/jp/otemachi/dining/restaurants/virtu/ 営業時間17:00〜L.O.23:30(木、金、土〜L.O.0:30) 無休

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