シャングリ・ラ ホテル 東京に出現した期間限定「ロブスターバー&グリル」
アジアン・ホスピタリティで知られる「シャングリ・ラ ホテルズ&リゾーツ」が日本で唯一展開している「シャングリ・ラ ホテル 東京」。そのイタリアン・ダイニング「ピャチェーレPiacere」内に「アイランド シャングリ・ラ 香港」の「ロブスターバー&グリル」がお目見えした。10月3日〜11月28日までのポップアップイベントである。香港現地のそのバーは、イギリスのドリンク業界誌「ドリンクス・インターナショナル」がメディアパートナーとなっているAsia’s 50 Best Barsに2016年から2020年まで5年連続で選出されている。カクテルの歴史を辿るクラシックメニュー、そしてそれを現代風にアレンジしたカクテルが人気のバーだ。 このポップアップイベントにあたり、「ピャチェーレ」店内の一部の内装が変わった。窓辺にカウンター、夜景を遮らない控えめなバックバーが置かれ、香港と同じブルーの壁と照明が設えられている。28階から望む夜景に映り込む幻想的なブルー、それを背景にした繊細なグラスのカクテル。東京というよりも、どこか他所のアジアの雰囲気を感じる空間である。 薄いブルーの布張りの装丁も美しいバーメニューを開くと、びっしりと書き込まれたテキストと古版画風のイラストが目に飛び込んでくる。扉ページには「The Archivist」とタイトルが掲示され、曰く「イギリスの船員たちが賞味期限切れのワインやビールの代わりに、さまざまなアルコール飲料を混ぜた『パンチ』の時代から、カクテルが出来上がるまでの物語を描写しています」。つまり、このメニューを辿れば、カクテルの歴史の流れを把握できるというわけだ。中面のベージュカラーのページにはクラシックメニューが、その一部の窓を開くとブルーのページにアレンジカクテルの説明と、作りも凝っている。名前だけ、あるいはごく簡単に素材を記しただけのシンプルなバーメニューが多い昨今、この「ロブスターバー&グリル」のメニューはかなり珍しい。このスタイルをしっかりと踏襲している東京版は一見の価値がある。 メニューに並ぶカクテルは、クラシックとその現代風アレンジ、ノンアルコールのモクテルアレンジが3種類ずつ、さらに、今回のために編み出されたロブスターの旨味を生かしたオリジナルカクテルのトータル10種類。
フィッシュハウス パンチ。コニャック、ラム、奏カナデ白桃、ベネディクティン、フレッシュレモン、シロップ、ソーダ。
まずは1600年代「パンチ時代」の「フィッシュハウス パンチ」。フィラデルフィアのスクールキル川沿にあった「フィッシュハウス」というフィッシングクラブへのオマージュとして生まれたカクテルだ。パンチは、インドやインドネシアに滞在中に船員たちがワインなどの代わりに考え出したもので、現地の素材を使ってアルコール、レモン、砂糖、水、ハーブまたはスパイスという5つを混ぜ合わせ、ヒンディー語で「5」を意味するパンチと名付けたのが起源だという。このフィッシュハウス パンチのアレンジが「ロブスターハウス パンチ」。パーン、ニームの葉、トゥルシーリーフ(ホーリーバジル)、ミント、ローズマリーというインドでは必須の5種類のハーブをラムとコニャックでマリネしたものを使い、仕上げにポートワインを加える。ゆっくりと深紅色に染まってゆく様も美しいカクテルだ。
ロブスターハウス パンチ。ラム、コニャック、シークレットガーデンミックス、テイラールビーポート、フレッシュレモン、シロップ、ソーダ。
次に1700年代「植民地時代」の「処方箋ジュレップ」。当時、発酵飲料は水よりも体に害を及ぼさないと考えられており、なかでも医療目的で飲まれていたのがジュレップだったという。19世紀半ばの雑誌記事に、最も美味しいミントジュレップとして紹介されたのが、このカクテル。ウイスキーとコニャックの組み合わせは「天国での結婚」と呼ばれ、ライ麦がコニャックにスパイスをもたらし、コニャックはライ麦をまろやかにするというのがその理由だ。処方箋ジュレップのアレンジが「ハングザイエティー」。二日酔い(hangover)と不安(anxiety)の二つの言葉を組み合わせたというなんとも危険なネーミングのこのカクテルは、ブレンドウイスキーとアイラモルトに自家製トロピカルビターズ、ラズベリーシュラブを加えた、スモーキーでトロピカル、蠱惑的な味わいで飲む人を虜にする。ちなみに19世紀アメリカでは、ビネガーでマリネしたフルーツを濾し、蜂蜜などを混ぜたシュラブが愛用されたという。
左、処方箋ジュレップ。バーボン、コニャック、シロップ、ミント、ソーダ。右、ハングザイエティー。響ハーモニー、アードベッグ10年、ラズベリーシュラブ、ミント、トロピカルビターズ。
そして1800年代「ビクトリア時代」の「ブランデークルスタ」。カクテルという言葉が「蒸留酒、あらゆる種類のスピリッツ、砂糖、水、ビターなどを混ぜ合わせたドリンク」を表すものとして定着したのが19世紀初頭。パンチボウルではなくシングルカップで提供されるようになり、やがてバーテンディングのガイドラインも明確になって現代へと受け継がれていくのである。ブランデークルスタの誕生は、1850年ニューオーリンズ出身のイタリア人バーテンダー、ジョセフ・サンティーニによる。グラスの縁を砂糖で飾るという新感覚のテクスチャーをもたらしたカクテルだ。このアレンジが「コーリング カード」。柚子リキュールとレモンの皮を醸したオイルシロップ、アロマティックビターズを使った、柑橘の馥郁たる香りを楽しむ一杯である。
ザ・ロブスター。紹興酒、シェフのオリジナルアメリケーヌ、フルーツトマトジュース、アブサン、シーソルト、ペッパー、タバスコ。
最後は、「エボリューション」をテーマとしたオリジナルカクテル「ザ・ロブスター」。バーテンダーとシェフによるコラボレーションで誕生したロブスターも味わえるユニークなカクテルである。ベースにロブスターの殻と香味野菜、ハーブ、ワインを煮込んで旨みを凝縮させたアメリケーヌを使い、紹興酒、アブサン、さらにフルーツトマトジュース、タバスコなどを合わせており、スープのような濃厚さと甘くスパイシーな余韻が印象的だ。 カクテルのみならず、フードメニューもまた充実している。シグニチャーディッシュのシーフードプラッターやロブスタービスク、クラブオントースト、テルミドールの他、サイドディッシュやデザートまで14種類、全てカクテルとの相性を考慮して微細にこだわり、味わいのオリジナリティを追求した料理である。 これからの秋の夜長、外国へ行くこともままならない今は、このポップアップ「ロブスターバー&グリル」でしばしの旅気分を味わってみてはどうだろうか。 期間 2020年10月3日(土)〜11月28日(土) 時間 18:00〜23:00(L.O.22:30) 価格 カクテル各2,500円、ノンアルコールカクテル各1,800円 シーフードプラッター7,500円、ロブスタービスク2,700円、クラブオントースト1,500円(全て消費税・サービス料別)
Photographer: Nick Tortajada
   

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