イタリア料理アカデミー総会「フリットの会」@ダ・ステファノ神楽坂
 

去る20201015日(木)在日イタリア料理アカデミー Accademia della Cucina Italiana 主催の公式ディナーが行われた。今回のテーマは「フリット」。これは日本だけでなく、本国イタリアが定める共通テーマで、アカデミーの支部がある国ではこの日一斉に統一テーマでの食事会が行われたのだ。会場となったのは神楽坂の「ダ・ステファノ」ヴェネト州ヴァルドッビアーデネ出身のイタリア人シェフ、ステファノ・ファストロ Stefano Fastro2006年にOPEN、以来東京での本格的なヴェネト料理のリストランテとして定着している。今回「ダ・ステファノ」に集まったのは在日イタリア人+若干名の日本人、アメリカ人など合計約20名。開会にあたり在日イタリア料理アカデミー代表エマヌエラ・オリギ Emanuela Orighiはこうスピーチした。 「フリットという手法はどんな食材でも美味しくする、という特徴があり、イタリアでは『サンダルでもフリットにすれば食べられる』ともいわれています。この調理法は古代ギリシャからローマ時代に遡り、ローマ人はワイン、ガルム、水、オイルを混ぜて加熱し、食材をフリットにしていました(注・いまでいうウミド、コンフィに近い)。現在のようなフリットは、アラブ人がスペイン経由でヨーロッパに持ち込みました。中世からルネッサンスにかけてイタリアでもフリットは定着し、Maestro Martino di ComoDe Arte Coquinaria”(1460年ごろ)では多くのページでフリットに言及しています。近代でいうと第二次世界大戦後、貧しかったイタリア市民の知恵をして多くのフリットが生まれました。 日本もフリット=揚げ物王国として有名ですが、16世紀にキリスト教が伝わるとともに西洋式のフリットは日本人の好みに合う味付けや食材を使用するようになり、かの有名な天ぷらが生まれたのです。もうひとつ日本にはイタリア料理とよく似た料理トンカツがありますが、それはイタリア料理が起源というわけではありません。その解説はジャーナリスト、池田匡克にお願いいたします」 ということで、バトンを渡されたのでトンカツの話を少々。実はこの会に先立ち、エマヌエラとともに「青山まい泉」に撮影、取材に行きトンカツの歴史や揚げ方についてレクチャーを受けていたのだ。その模様を収録した動画は近々公開予定なのでご興味がある方はそちらをご覧いただきたい。「まい泉」についてごくごく簡単にいうと、明治時代に日本に伝わったカツレツは本来ビフカツだったが、価格の問題もあり戦後日本では豚を使ったトンカツとして独自に発展を遂げ、大人気の家庭料理となった。「まい泉」は1965年長野出身の本田千代子さんが日比谷三井ビル(現在の日比谷ミッドタウン)地下に10坪のトンカツ店をOPEN。以来目覚ましい発展を遂げて今日にいたっている。「まい泉」のトンカツソースにはリンゴがふんだんに使われているが、これは本田さんが長野のリンゴをふんだんにソースに使っていた名残である。 この夜ステファノが作ったのは、前菜、パスタ、セコンド、ドルチェと徹頭徹尾揚げ物を使った特別メニューだった。まず前菜は”Frittata di porri e gamberi su vellutata alle vongole con tagliorini di carote fritti”(ポロネギとエビのフリッタータ、アサリのヴェッルタータと人参のタリオリーニ・フリッティ)フリッタータとは一般的にオムレツと訳されることが多いがスペインのトルティージャ同様オイルを多めに使うので「揚げ焼き」に近い。イタリアでは目玉焼きを「Uovo fritto」=揚げ卵、というのもその辺りに由来するためかと。ポロネギのフリッタータは揚げ焼きではなく蒸し焼き、その代わりに細切りにした人参をまとめて揚げた付け合わせがユニークで味にもアクセント加えていた。これにあわせたのはProsecco Rustico Nino Franco。ステファノの叔母の友人だというニノ・フランコは以前ヴェネトのイノベーティヴ・ピッツァイオーロ、デニス・ロヴァテルに連れられて行ったことがある。 続くパスタは“Cartoccio fritto di bucatini con speck, cavolfiori e stracchino”(スペック、カリフラワー、ストラッキーノのブカティーニ、揚げカルトッチョで)これはブカティーニをストラッキーノのクリームでまとめ、パイ生地で巻いて揚げたとても手の込んだ料理で、いわばイタリア版揚げ春巻。カリカリに焼いたスペックとカリフラワーのクリームのコンビネーションはスモーキーなベシャメルを思わせ、一口サイズに短くカットされたブカティーニはいわゆるマカロニの食感だった。合わせたのは軽口のValpolicella Borgo Marcellise Marion メインは“Fritto di sarde e funghi freschi con maionese alla cipolla caramellata”(イワシとキノコのフリット、カラメリゼしたタマネギのマヨネーズ)イワシは極薄の衣(パステッラ)で、マイタケはやや厚めの衣でからっとあげてあり、これは揚げ物の王道、永世定番。カラメリゼしたタマネギのマヨネーズは甘めのモスタルダを思わせ、タマネギと揚げたイワシの組み合わせがヴェネトを思わせる。ワインは黄色いFriulano Rocca Bernanda 最後のドルチェは”Frittella di mela alla grappa con gelato alla cannella”(リンゴとグラッパのフリッテッラ、シナモンのジェラート”これはこの夜のハイライト。揚げ菓子はカーニバルの時期によくイタリアで食べられるが、このフリッテッレはいわば揚げドーナッツ。水分を抜いてからさっくり揚げたリンゴにシナモンのジェラートという黄金の組み合わせだ。締めはNardiniGrappa 実は「ダ・ステファノ」を訪れたのは2008年以来12年ぶり。ステファノとは昨年11月、六本木グランド・ハイアットで行われたベルガモの3つ星「ダ・ヴィットリオ」のガラ・ディナーで同席して以来ほぼ1年ぶりだ。穏やかな人柄、90年代風オールドスタイルのクラシックな料理は、去年旅したヴェネトの山奥のレストランを思わせる。ドラーダ、ジェリウス、ロカンダ・サン・ロレンツォ、そうした名店の料理は決して新しくはないものの食べるものの胸を打ち、確実に心に響く温故知新のイタリア料理である。コロナで本国になかなか帰れないイタリア人たちにとっては久しぶりに同胞と集まり、笑いながら食卓を共にした貴重な一夜。なによりも食事を通じて生の喜びを分かち合ったのではないだろうか。かくいう私も久しくこうした食事会はなかったので、ぞんぶんに楽しませてもらったのだが。「イタリア料理アカデミー」の次回会合テーマは「ペッレグリーノ・アルトゥージ」会場は四谷「オステリア・デッロ・スクード」が予定されているので、そのレポートもまた近日中に。 Da Stefano ダ・ステファノ 東京都新宿区神楽坂6丁目47-1F 照井ビル Tel03-5228-7515 stefano-jp.com


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