アマン東京「アルヴァ」総料理長平木正和氏が語る、再開後の想い
大手町の地上33階にある、アマン東京のイタリアレストラン「アルヴァ」。イタリアで17年、そのうち13年をヴェネツィアの五つ星ホテル「バウアー」のシェフとして活躍した、平木正和氏が総料理長を務める。日本各地より届く優れた生産者の食材を使い、素材の持つ力を極力シンプルに引き出した料理の一つ一つには、平木シェフがイタリアで培った感性が光る。しかし、コロナ禍で突然の休業を余儀なくされ、5ヶ月もの間厨房に立つことも、生産者を訪ねることもできなくなった。9月に再開するまでの間に考えたこと、そして今の思いを平木シェフが語る。  
アミューズ「恵み」。ごぼうのスープにトリュフ風味のオイル、ごぼうのチップスに秋の草花をイメージしたハーブ。シマアジのゼッポリーネ。トマト風味のクラッカーにゴルゴンゾーラのムース、セミドライトマトとバジルシード、バジルをあしらってピッツァ風に仕立てた。最初の一皿でイタリアを感じてもらう。
「3月から営業の短縮が始まったので、いずれは閉まるだろうと思っていました。そのときは1ヶ月くらいのクローズだろうと思い、その間は、いつでも再発進できるように、まず体力作りをしておこうと。それから、外食はできない状態になるだろうなと思ったので、私なりに考えて何かできること、少しでも皆さんのお役に立てることができたらと思って、インスタグラムで料理動画を発信しました。編集もやりながら覚えていって。あのときの状況はシリアスだったので、見てくださった人が少しでも和んで、ご家庭でイタリア料理を楽しんでもらえればと考えたのです。アップした動画は結局90以上になりました。フォロワー数も300ぐらいだったのが、1700以上に。 それでも、4月、5月のあたりは、どうなるんだろうという不安しかありませんでした。だからこそ、料理と体力作りに専念して、あまり考えすぎないようにしていたのです。また、料理人の方々がボランティアで病院に料理を提供しているのを知り、私も参加すべきなのかどうか悩みました。私はホテルという大きな会社に属している身で、そういった活動をすることによって万が一、私が感染したら、そしてそのタイミングで再開するということになったら、迷惑をかけてしまう。だから、なるべく家でできることだけをして外には出ないと決めました。4ヶ月間電車にも乗らず、レストランが再開した今でも自転車かランニングで通勤しています。」
北海道産帆立のカルパッチョ ピンクグレープフルーツとフェンネル、香川県産アマン東京オリジナルキャビア
「本当のところ、当時は無力さを感じました。料理人として何もできない、歯がゆいという思い。声をあげたいけれど、おとなしくしていなければいけない。自分のできる範囲で精神バランスを保ちながら、家で料理を作って動画をアップして...それがぎりぎりできることだったのです。 スタッフにも連絡して、大丈夫だからと元気づけたり、再開したらこうしよう、ああしようと話したり、未来のことを話すことでモチベーションの維持を図りました。皆、料理がしたいので、再開したら頑張ろうと声をかけました。また、生産者の方々もどうしているのか気になりました。店を早く開けて食材を使っていきたいという焦りもありましたね。」
スパゲッティ 北海道産短角牛のミートソース。歯ごたえの良いモモ肉ととろけるバラ肉の2種類を使い、香味野菜、赤ワイン、トマトだけでシンプルに牛肉の味わいを楽しむ一皿。香味野菜も細かく刻まず、あえて形を残して家庭風に仕立てている。チーズは最初はかけずに、あとはお好みで。
「再開してからは、消毒や衛生に気をつけながら、料理を作る喜びを噛み締めています。お客様に喜んでいただきたい、という初心に戻って仕事をしています。小さなことですが、グリッシーニも今までは仕入れていたのですが、一つでも多く作りたいという気持ちから、4種類のグリッシーニを自家製にしたり、アミューズにも工夫をこらしたりして、お客様に少しでも多く楽しんでもらいたいと考えています。
エゾジカのラグーのウンブリチェッリ。国産小麦粉「ゆめひかり」を使い一本一本手で伸ばしたパスタはモチモチとした食感が特徴。エゾジカはラグーの他に、内もも肉を軽く炙ってにんにく、唐辛子、イタリアンパセリで和えたタリアータ仕立てをトッピングし、食感と味わいの違う二種で楽しむ。
皿数は絞ってはいません。素材を生かした率直に美味しいものを作ろうという気持ちも変わっていません。たとえば、短角牛のミートソースはシンプルなのですが、ぜひ味わっていただきたい。北十勝産短角牛だけで、他の肉類は使わないので、あえてボロニェーゼとは言わずミートソースと呼んでいます。また、黒舞茸は、埼玉産の自然に近いものを使っていますし、鴨も、一切薬を使わずに育てているものです。 ただ、お客様の目の前で取り分けるサービスは残念ながらやめました。お客様への挨拶にはもちろん伺いますが、長く話すことはなるべく避けています。できることをしながら、お客様、生産者さん、そして料理人の我々、みんなが喜んでハッピーな状態になればと思っています。 今年の春、本当はイタリアのアマン・ヴェニスのコンサルタントを務めている三つ星レストラン「サント・ウベルトゥス」のシェフ、ノルベルト・ニーダーコフラーのところでコラボレーションの仕込みをしようと思っていたのですが、それもかないませんでした。状況が改善して、来年再びプロジェクトが動き出すことを願っています。」
茨城県産かすみ鴨胸肉のアッロースト 黒舞茸と無花果のカラメラート。にんにくとローズマリー、オリーブオイルでローストした鴨肉と、鴨のガラからとったジュをソースとして添えている。
    アルヴァ ランチ12:00-14:30、ディナー17:30-22:00(20:00L.O.) 定休日 月曜、火曜(祝日の場合は営業)  

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