第11回全国イタリア料理コンクール ファイナル結果
毎年、「世界イタリア料理週間」の期間中に開催される、在日イタリア商工会議所主催の「全国イタリア料理コンクールGran Concorso di Cucina2020」のファイナルが11月25日に東京・三田の同会議所で行われた。このコンクールは、「日本のイタリア料理界を担う新しい料理人発掘のため、及び、日本における本場イタリア郷土料理の知識向上と普及」が目的で、今回が11回目の開催である。応募資格は、「プロの料理人として実務経験2年以上、イタリア以外の国籍を有する日本在住者」で、応募者は、料理のタイトルとその説明、料理写真をメールでエントリー。その書類審査で、同会議所理事会と会員のレストランシェフにより7名、そして同コンクールのFacebookページ上の一般投票で1名、合計8名が選ばれ、ファイナリストとして実技審査に臨む。 最終審査の制限時間は60分、その中で課題となる料理を、“食べることができる材料のみ”で仕上げる。今回のテーマは「Life is short like a pasta!」、つまりショートパスタで、ファイナリストは、用意された乾燥パスタ、または持参した乾燥あるいは手製のパスタを使用。オリーブオイルも用意されているが持参しても良く、そのほかの素材はすべて自前である。審査の項目は1.味、2.盛り付け、3.パスタの特性を生かしているか、4.創造性、5.伝統イタリア料理の尊重度で、各項目は0〜10点で採点される。今回の審査員はレストランシェフなど全員料理に関わる在日イタリア人。日本的な感覚を排除したイタリア基準での評価が行われた。 ファイナリスト8名の料理は次の通り。 1.宇野友康さん「長野県産鴉のラグーを詰めたファゴッティーニ ポルチーニ茸と栗のカプチーノ仕立て ピエモンテ産白トリュフの薫り」 イタリアでは馴染みのある組み合わせというポルチーニと栗、そこに白トリュフを合わせてピエモンテらしさを表現。イタリア郷土料理に日本ならではのエッセンスを組み込む意図で、日本特有のジビエとして鴉をファゴッティーニのリピエーノに選んだという。 2.斎藤晴威さん「Trofie carbonara di mare con salsa verde e giardiniera rapa rossa(トロフィエの海のカルボナーラ サルサ・ヴェルデとビーツのピクルス)」 リグーリアで修業した経験を元に、同地の伝統パスタであるトロフィエをローマ伝統料理であるカルボナーラに仕立てた。海岸地帯であるリグーリアをイメージし、ホタテやエビといった魚介を使ったカルボナーラに、ジェノヴァ地方の伝統料理であるカッポンマーグロに用いるサルサ、生のビーツを即席の酢漬けにして添えて、味の変化をつけたという。 3.木田佳孝さん「ファゴッティーニ 甘鯛 発酵トマト バジル」 アクアパッツアをファゴッティーニとして構築するにあたり、日本の旨味、出汁の文化を取り入れ、甘鯛の身とスープをリピエーノにした。発酵により旨味を引き出したトマトのソース、アサリの出汁にバジルの香りを移した泡のソースを添え、甘鯛の鱗をフリットにして食感にも変化をつけたという。 4.龍口真人さん「Stratioti con Venezia alla arancia cuore ストラディオットの帽子とヴェネツィア 〜オレンジの心〜」 ヴェネツィアではトルテッロのことをストラディオットとも呼ぶ。本来は、赤い装備で統一された中世の軽装傭兵のことで、戦場では目覚ましい活躍をしたという。コロナ禍の今、不屈の心で困難を乗り越え、外食を心から楽しめる日が一日も早く戻るようにと願いを込めてこれを選んだ。リピエーノはバッカラ・マンテカート、ソースにもヴェネツィアらしく魚介を使用。オレンジの風味を添え、味わいを完成させたという。 5.及川健一さん「カサレッチェ 鯖 フェンネル 白味噌 鯖節」 シチリア伝統の料理、パスタ・コン・サルデを元に構築。本来はイワシを使うところ、同じ青魚でイタリアでもよく食べられる鯖を用いて、さらに鯖が感じられるようにと鯖節から引いた出汁を合わせた。さらに白味噌もアクセントに使い、イタリア料理の中に日本らしさを加えた一皿に仕上げたという。 6.大島隆司さん「Salsa di pomodoro alle conchiglie con gamberi del mare dell’Asia(天使のエビ トマトソース アジア風)」 エビとトマトの定番パスタをアレンジ。エビの身はルーコラとともにミンチにし、エビの殻から引いた出汁、フレッシュトマトでラグーソースに。アクセントにカレーとココナッツのアジア風ソースをかけ、スパイシーな香りで食欲をそそる仕掛けとした。イタリア料理の調理法をきちんと踏まえた、日本的な構成と個性を楽しんでほしいという。 7.嶋田由佳理さん「望郷のペンネカチョエペペ」 カチョエペペのような、身近な食材から着想を得て後世まで受け継がれるイタリアの料理文化への憧れを表現。出身地鳥取県では夏から冬にかけて青梨、赤梨と様々な品種が楽しめることから、今の時期に最も親しまれている梨の王秋を選び、その梨の風味と相性が良いオリーブオイル、チーズ、胡椒、ペンネリガーテでカチョエペペに仕立てたという。 8.木村忠敬さん「カプリ島。アウグストゥス庭園からの眺め。」 イタリア料理を作る上で最も大切にしているのは、体に良い食材を使うこと、鮮やかな色づかいで盛り付けること。今回は、記憶に深く刻まれているカプリ島の素晴らしい景色を表現するために、青い海、白い岩壁を器で、山の緑と庭園の緑を料理に込めた。バジルを炒って風味を強めたスープをジュレ、泡、チュイル、ソースに変化させ、パスタのコンキリエをより美味しく楽しめるように工夫したという。 結果は、1位がNo.3の木田さん、2位がNo.1の宇野さん、3位がNo.7の嶋田さん。1位の木田さんには副賞としてイタリア往復航空券、Bianchiのロードバイクが贈られた。また、木田さんは会場を取材したジャーナリストによる投票でも1位を獲得。そして、No.5の及川さんは、JOOP(在日商工会議所が主宰するジャパン・オリーブ・オイル・プライズ)賞に選ばれた。 木田さんは、ピッツェリア「オップラ!ダ・ジタリア」に勤めており、普段はもっとカジュアルな料理を作っている。コンテストにおいては、伝統を踏まえつつもオリジナリティを追求し、より高度で複雑な味わいを表現すべく試行錯誤したという。「アルマーニ・リストランテ」の料理長を務めるナポリ出身のカルミネ・アマランテは木田さんのトマトソースを絶賛した。
1位の木田佳孝さん
制限時間をオーバーしてしまった人はおらず、その点では良かったが、逆に非常に早く終わってしまった人もいた。パスタ料理は短時間で仕上げられることが利点の一つだが、料理コンテストにおいては制限時間をしっかり使い切ってより高いクオリティを目指すことも大事である。また、使い慣れた厨房とは違うアウェーでの調理は予期せぬアクシデントもつきものだが、それに対応するには、事前の準備練習はもちろんのこと、現場の調理台もその周りも常に整理整頓しながら調理を進めることで、単純なミスは防げるだろう。 全体の傾向として、最近の日本人の嗜好にも関係するのだろうが、甘い味付けが強く出ているように感じた。かつて、日本では日本人に合わせて塩は控えめにするという話をよく耳にしたが、さらにそれが進んで、甘さ強調路線になっているのではないか。日本料理では砂糖による甘みが伝統として根付いているが、イタリア料理にそれはない。日本人の好みに合わせるのは悪ではないが、本来のイタリア料理とはどんなものなのかを理解した上で、どうすべきかを模索しなければならないだろう。 審査員からの全体の講評では、「イタリア料理アカデミー」のエマヌエラ・オリギは「パスタと、ラグーやソースとの関係性をもっと重視してほしい。素材を単に合わせるのではなく、パスタとどう一体化させるかを考えて構築しなければ。日本の”おかずとご飯”の関係とは違う」と語る。さらに「エリオ・ロカンダ・イタリアーナ」のエリオ・オルサーラは「一つの皿の中には、非常に多くの要素が組み合わさっている。まず、それを理解することが大切だ。私は30年以上、日本のイタリア料理を見てきているが、クリエイティビティという点においては素晴らしいと思う。ただ、唯一の問題が、sapore(味)だ。どんなに美しくても、複雑でも、味として完成していなければ意味がない」と語った。目指す味をイメージし、その味をどのように実現していくか。それが全ての土台だとあらためて思ったコンクールだった。

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