ミシュラン・イタリア2021速報!!
去る2020年11月25日イタリア時間11時30分(日本時間19時30分)から注目のミシュラン・イタリア2021年の発表会が行われた。ここ数年ミシュラン・イタリアの発表会はイベント性が増し、TV番組のような凝ったセットと演出で話題となっている。それはかねてより噂されている紙版ミシュラン・イタリアの廃止に伴い、予約サービスを中心としたコンテンツ化へよいう流れもあるのだろうが、それはともかく今年のイタリアはコロナの被害が大きく、一体星の行方はどうなるのか?に大いに注目が集まった。一部の噂では今年は全評価を凍結し、昇格も降格もなし、という希望的観測もあったのだがそこはミシュラン、この未曾有の事態においてもその編集方針を変えることはなかった。つまり昇格、降格を含む新しい話題満載の発表会となったのだ。 まず最初に発表されたのは各部門賞で、それぞれにスポンサーが付いている。これはイタリア・ミシュラン史上初の試みだがガンベロ・ロッソやエスプレッソにとってはおなじみのシステムだ。ちなみに各部門賞は以下の通り。 ソムリエ2021 Matteo Circella / Ristorante La Brinca(Né) サービス・パーソン2021 Christian Rainer / Ristorante Peter Brunel(Arco) ヤング・シェフ2021 Antonio Ziantoni / Ristorante Zia(Roma) メンター・シェフ2021 Niko Romito / Ristorante Reale(Castel di Sangro) まずソムリエ2021マッテオ・チルチェッラの「ラ・ブリンカ」はガンベロ・ロッソにおける最優秀トラットリア「トレ・ガンベリ」の常連であり、リグーリア州を代表する伝統料理店。しかしこの「トレ・ガンベリ」の指標であるトラットリアか?リストランテか?という境界線は近年かなり曖昧になっている。サービス・パーソン2021は「ピーター・ブリューネル」のクリスチャン・ライナー。ピーター・ブリューネルはフェラガモが経営するフィレンツェ「ボルゴ・サン・ヤコポ」にOPEN以来初めて1つ星をもたらしたシェフ。しかし1つ星を置き土産に早々にフィレンツェを去り、故郷である地元トレントに活躍の場を移したところ再び1つ星を獲得したのだ。ヤング・シェフに選ばれたアントニオ・ズィアントニオはミシュラン2021の主役の一人で、のちほどもう一度名前が挙がることになる。以上はガンベロ・ロッソでもおなじみの部門賞だが、新機軸としてメンター・シェフ、つまり教師役としてのシェフとしてニコ・ロミートが表彰されている。ニコ・ロミートはローマとミラノで「フォルマツィオーネ」を展開。これは料理を学ぶ若者たちに実践の場を提供するOJTレストランだ。 もうひとつ、2021年版から新たに導入されたが緑の星Stella Verdeだ。これは10月にリモートで発表されたミシュラン京都・大阪ですでに発表されたので知っている人も多いと思うが、サステイナビリティを重視するレストランに与えられる賞。初年度は「オステリア・フランチェスカーナ Osteria Francescana」「サント・ウベルトゥス St.Hubertus」「ドン・アルフォンソ1890 Don Alfonso1890」「ジョイア Joia」「ディーオー D.O.」など13件が受賞した。 次いでいよいよ星付き店の紹介に移るのだが、ここでまず、2021年は3つ星店の増減はなく全11店が現状維持と発表され、全シェフがリモートで画面に映し出された。これはある意味ミシュランの大英断といえるかもしれない。2020年3月イタリアはロックダウンに突入すると3つ星店も軒並み休業。特に外国からの旅行者が多く訪れる有名店ほどその被害は大きかったはずだが、ミシュラン・イタリアは数字、売上、将来の予測などは一切考慮せず、純粋に料理とサービスの評価のみで3つ星を決定した。ミシュラン・イタリア編集長セルジオ・ロヴリノヴィッチ Sergio Lovrinovichはこうコメントしている。 「イタリアのレストラン界が今後どうなるのか、を予測するのは時期尚早だが2021年版の調査に関しても従来通り調査員は匿名を維持し、レストランの数字、売上などは一切評価に影響していない。調査員の長年の経験に基づくレストランの評価が唯一無二、絶対的な基準である」 近年では毎年必ず1件の3つ星昇格が続いていたが2021年度版の昇格はなかったが降格もなし。現状を維持したイタリア最高峰の11件は以下の通りだ。 Da Vittorio(Brusaporto,Bergamo) Piazza Duomo(Alba) Enoteca Pinchiorri(Firenze) Enrico Bartolini al Mudec(Milano) Osteria Francescana(Modena) Reale(Castel di Sangro) La Pergola(Roma) Le Calandre(Rubano,Padpva) Dal Pescatore(Runate,Mantova) St. Hubertus (San Cassiano Uliassi(Senigallia) 続いて1つ星店の紹介に移るのだがその前に、締め切りまでに再開のめどが立たなかった、あるいは回答が無かった10店に関しては星を保留するということが発表されたのだが、中にはパレルモ郊外モンデッロの「バイバイ・ブルース Bye Bye Blues」といった日本でもおなじみの名前もあった。 一方今年の1つ星は新規昇格26店を含む323店。注目はミラノに今年OPENした「アアルト Aalto」岩井武士シェフの1つ星獲得。ミラノ郊外にある農園レストラン「カッシーナ・グッツァファーメ Cascina Guzzafame」時代から岩井シェフの存在は知られていたが「アアルト」に活躍の場を移してすぐの1つ星獲得は快挙としかいいようがない。ちなみに「アアルト」オーナーは同じ1つ星「イヨ IYO」オーナーであるクラウディオ・リウだ。1つ星323店の詳細はミシュラン・イタリア公式サイトをみていただきたいが、他の日本人シェフの店では能田耕太郎シェフのローマ「ビストロ64」は無事1つ星を維持。いっぽうミラノ徳吉洋二シェフの「TOKUYOSHI」はリストから名前が消えた。今年の4月に電話インタビューした時、おそらく今年一杯はコロナの影響が続くことからファイン・ダイニングである「TOKUYOSHI」の再開は難しいだろう、と話していたのだが、結局今現在も「TOKUYOSHI」は再開していない。その代わり現在はテイクアウト&デリバリーを中心とした「ベントーテカ Bentoteca」にエネルギーを注いでいる。決してミシュランの星が全てではないが、「オステリア・フランチェスカーナ Osteria Francescana」時代を経て独立。以来「TOKUYOSHI」1年目で1つ星、東京に開いた「アルテレーゴ Alterego」も同様に即1つ星獲得と、順風満帆に来ていたのは事実だが、イタリアにおいて稀有な才能を持つ日本人シェフだけに「TOKUYOSHI」の復活を強く期待したい。 さて、2021年は新規3つ星昇格が無かっただけに、代わりに主役となったのが新規2つ星昇格3件を含む37件の2つ星店。2星昇格という吉報にリモート中継中にも関わらず号泣してしまったのはトリエステ「ハリーズ・ピッコロ Harry’s Piccolo」シェフ、マッテオ・メトゥッリオ Matteo Metullioだ。 「今年は本当に苦しかった、それでもなんとか頑張って来て家族や仲間がみんなで支えてくれて本当に嬉しい。でも本当に苦しかった」 泣きながらそう話すその姿に胸が熱くなったのはわたしだけではないはずだ。マッテオのコメントはある意味今年のイタリア料理界の現状を象徴している。苦しい、本当に苦しい。ロックダウン、段階的営業再開、希望が見え始めたと持ったら再びロックダウンと全く先が見えない状況が続く中、心底信頼できる仲間と家族ともに希望を捨てずに生きて来た結果、予想外の朗報にこらえきれず人目をはばからず号泣する。本当は彼のようにありたい、彼のように泣きたいと思っているシェフは何百、何千といるはずだ。それでもマッテオの姿に勇気付けられ、新たに希望を抱き始めたシェフもやはり同じくらいたくさんいるはずだと思いたい。 2人目の2つ星昇格はフィレンツェから「サンタ・エリザベッタ Santa Elisabetta」のロッコ・デ・サンティス Rocco De Santis。以前インタビューと撮影を申し込んだところ一度は同意してくれたもののその後消えてしまったというエピソードはさておき、フィレンツェでの2つ星は現状唯一で3つ星「エノテカ・ピンキオーリ Enoteca Pinchiorri」に次ぐもの。ここは素直に祝福したい。 ミシュラン2021年発表を締めくくる主役はスタジオに唯一登場したダヴィデ・オルダーニ Davide Oldaniだ。先ほど既に緑の星を受賞したダヴィデは、マルケージ直弟子でカルロ・クラッコ Carlo Cracco、エンリコ・クリッパ Enrico Crippaらと並ぶマルケジーニの一人。知名度も高く、メディア露出も多いダヴィデだが評価に関しては彼ら2人に遅れを取っていたことも事実である。自らのイニシャルを冠した「D.O.」OPEN以来17年。1つ星は瞬く間に獲得したがそれからが長かった。期待の若手料理人はいつしかベテラン料理人の領域に足を踏み入れつつあっただけに、喜びもひとしおのはずだ。 昨年は「D.O」で2回食事したのをはじめパリとミラノでダヴィデと話す機会があったが、高級ではない地元の日常の食材を使い高度なテクニックでいかにハイエンドかつリーズナブルな料理に仕上げるか、という彼のコンセプト=クチーナ・ポップはいまだからこそ多くの人に受け入れられるのではないかと思う。そうした意味では緑の星の受賞は目指す方向こそ違うものの同じく緑の星を受賞した3つ星シェフ、ボットゥーラやニーダーコフラーと肩を並べる当然の結果である。セレモニーの最後にダヴィデはこうコメントした。 「料理人という仕事は本当にきつくて辛い。いろいろなことを犠牲にしないと続けられない、しかしそれでもやりがいがある。料理人を志す若者たちが今後も希望を持ってこの仕事に就き、長く続けられるよう私たちの世代は努力しないといけない。なぜならば料理人という仕事は素晴らしいものだから」 口には出さなかったものの、2020年という1年はダヴィデにとっても相当きつかったはずだ。しかしそれでも「料理人とは犠牲を伴うけれど素晴らしい職業」という彼の姿勢には本当に頭がさがる。今年新たな3つ星店は誕生しなかったけれど、ダヴィデには近い将来さらに一段階上へと上りつめてほしい。それはイタリアが誇るクチーナ・ポーヴェラがガストロノミーに昇華できるという事実を改めて広く世界に発信することにもつながるからだ。 最後にもう一つだけ。コロナがなければ3つ星を獲得するのではないかと期待していたのがチッチョ・スルターノだ。ラグーサ・イブラ「ドゥオモ Duomo」は来年も2つ星を維持したが昨年はIdentita Goloseで最優秀シェフに輝き、今年はレストランを改装したり多くの投資もした。地元の生産者を支える活動にも精力的だった。3つ星への準備は整っていたといえるのだが、それだけにシチリアを襲ったコロナのダメージは大きかった。なにせ飛行機に乗らなければ外国はもちろんのこと、イタリア本土からシチリアにやってくることはできないのだから。この秋のロックダウンを受けてチッチョは「ドゥオモ」を来年3月まで閉店することを既に発表。現在はバール兼ショップ「イ・バンキ I Banchi」にエネルギーを傾注しているが、来年こそはシチリア初の3つ星を獲得してほしいと心から願う。マッテオの涙が象徴するように、自分を評価してくれる星の存在とは、こんな困難な時代からこそ料理人たちにとって明日への活力へとつながるはずだ。SAPORITAをもっと見る
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