「フォーシーズンズホテル東京大手町」のバー「ヴェルテュ」のヘッドバーテンダー、ジョシュア・ペレズは東京ラグジュアリーホテルのバーシーンを変革するか
カクテルの世界は今、空前のミクソロジーブームの時代にある。日本のバーシーンは長らくオーセンティックなクラシックが中心で、その正統派ぶりと繊細さでは世界でも指折りだが、今や日本でも最新ミクソロジーがクラシックを凌駕する勢いを見せている。クラシックは、それをよく知らないものにとっては敷居の高さを感じさせるが、ミクソロジーはもっと自由でビギナーにもカクテルの楽しさと奥深さを体験させてくれる。その最先端といえばやはりアメリカで、このほど、当地の名だたるバーでキャリアを積んだバーテンダーが東京に降り立った。「フォーシーズンズホテル東京大手町」のバー「ヴェルテュ」のヘッドバーテンダーに就任したジョシュア・ペレズその人だ。 彼がカクテルの世界に足を踏み入れたのは大学生時代、アルバイトを始めたのがきっかけだったというよくある話だが、「興味があるものはとことん追求する」性格のおかげで、どんどんのめり込んでいった。大学卒業後(大学では日本語を専攻!)はニュージーランド、サン・フランシスコ、そしてNYと様々なバーで腕を磨いた。これまでのバー人生で過ごした店は、それこそ綺羅星のごとくで、特にNYの「Booker and Dax」ではオーナーバーテンダーでフードサイエンティストにして、最先端のカクテル専門書「Liquid Intelligence」の著者でもあるデイヴ・アーノルドの元で、遠心分離機によるジュースの透明化や、液体窒素によるハーブの瞬間冷凍、カクテルそのものをソーダに仕立てたりといった革新的なテクニックを身につけた。また、NYでスピークイージーのリバイバルを牽引したサーシャ・ペトラスキーの元では、微細にもこだわる仕事ぶりに衝撃を受け、ジョシュアのバーテンダー観が根本から変化したという。「バーテンダーとは、ドリンクを作り、バーの雰囲気も作る者です。しかし、主役はあくまでもゲストなのです」と、クラフツマンシップとショウマンシップは異なると明言する。 コロナ禍の影響で、「フォーシーズンズホテル東京大手町」の開業は9月にずれ込み、そして、ジョシュアの来日も遅れたが、ようやく実現。日本からインスピレーションを得た「virtues of VIRTU’(ヴェルテュの美徳)」と題し、7つの大罪ならぬ7つの美徳をイメージしてバーメニューをデザイン。フランスと日本のフレーバーを駆使した繊細で芳醇、そして斬新なカクテルを次々に送り出している。今回は、オンメニューのものと、好みを伝えての即興カクテルをテイスティングした。まずは、代表的なフレンチ・カクテルのひとつ、フレンチ75をアレンジした「Virtu 75」をさらにアレンジしたシャンパーニュ・カクテル「シャンパーニュ・ポワール」。ウオッカ「HAKU」、フレッシュレモンジュース、ジャパニーズ・アブサン、ポワール・ウィリアム、シャンパーニュで作られている。「信州アブサン」樽熟成のふくよかで優美な香りが実に印象的。 そして次に、ウイスキーベースのオリジナル「スペイサイド」。クラガンモア12年、アモンティリャード・シェリー、ベネディクティンDOM、アンゴスチュラ・ビターズで仕立てられた一杯は、スモーキーな香りの奥底に潜む甘美な刺激が心地よい。スペシャルなセイボリー、キャビアを添えたチーズとケイパーのピッツァとの相性も驚くほどぴったりだ。 最後にもう一杯、オンメニューの「チョコレート・ココロ」。熟成ラム、スイート・ベルモット、チナール、クレーム・ド・カカオ、ウマミ・ビターズから成る。馥郁としたカカオとラムの香り、ビターズ、そしてほんの少しの塩が奥行きをもたらし、余韻が長い。チョコレート・ボンボンとの相性はもちろんだが、ティラミスのコーヒーの香り、コクのあるマスカルポーネクリームともよく合う。 「ヴェルテュ」はホテル開業以来、その雰囲気とオリジナリティ溢れるバーメニューで話題となってきたが、ジョシュア・ペレズの登場でさらにステップアップしたように思う。その洗練のスタイルと職人的センシビリティによって、東京のラグジュアリーホテルのバーシーンに新たな一石を投じることになるだろう。SAPORITAをもっと見る
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