さらば、アマトリチャーナの女王
去る2020年11月25日早朝、ローマを代表する女性料理人アンナ・デンテ Anna Denteが77才で亡くなった。 アンナ・デンテはローマ郊外にある「オステリア・サン・チェザリオ Osteria San Cesario」オーナーシェフであり、人気料理番組「プローヴァ・デル・クオコ Prova del Cuoco」にも登場。そのユニークかつ明るいキャラクターに加え、含蓄ある言動が多くの人々の共感を呼んでいた。 2020年11月17日に体調不良を訴えて病院へ運び込まれると、アンナ・デンテは生涯を注いだレストランに戻ることなくそのまま病院で息を引き取った。今年はコロナ禍によるロックダウンに苦しみ抜いた後、ようやくレストランを再開したばかり。奇しくも11月17日は「オステリア・サン・チェザリオ」の25周年記念日だったという。地元サン・チェザリオを代表する女性料理人の死に地元も涙し、同市市長アッレッサンドラ・サベッリ Alessandra Sabelliは「アンナはわが故郷、サン・チェザリオの料理文化を世界に広めてくれた。ありがとう、アンナ」と感謝の言葉を述べた。 ローマを代表するTOPシェフ、ハインツ・ベック Heinz Beckが「ラツィオ料理の女王」と呼んだことから、いつしか「アマトリチャーナの女王」とも呼ばれるようになったことも記憶に新しい。アンナ・デンテは幼い頃から両親の精肉店を手伝い、ローマにあった叔母アダ・デンテ Ada Denteのレストランを手伝いながらローマ料理を覚えると、1995年「オステリア・サン・チェザリオ」をOPEN。内臓料理「クイント・クアルト」など忘れさられたローマ・ラツィオ料理をイタリアはもちろん世界中に広めたその功績は非常に大きい。 母の死を看取った息子エミリオによれば、訃報に接した世界中からお悔やみの電話がなり続けたという。地元サン・チェザリオとローマはもちろんスイス、パリ、サントロペ、モナコ、ブリュッセル、オーストリア、スウェーデン、フランクフルト、ミュンヘン、モントリオール、 LA、ハリウッド、サンフランシスコ、ニュージャージー、NY、ドーハ、ウズベキスタン、香港、マカオそして東京。 マンマの料理、とはよく言われる言葉だが、伝統料理を作り続けるプロフェッショナルなマンマという意味ではアンナ・デンテこそ、イタリアを代表する真のマンマだったのではないかと思う。かつて南イタリアのヴィーコ・エクエンセにイタリア中のTOPシェフが集まったチャリティ・イベント「フェスタ・ア・ヴィーコ」でアンナ・デンテに会ったことがあるが、その時もマッシモ・ボットゥーラやダヴィデ・スカビン、モレーノ・チェドローニ、ダヴィデ・パルーダ、パオロ・タヴェッリーニらが集う中、誰よりも目立っていたのがアンナ・デンテその人であり、その豪快な笑い声と立ち居振る舞いは忘れられない。この写真はその時撮影したもの。アンナ・デンテの生涯とその功績に敬意を表し、心より冥福を祈りたい。
SAPORITAをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。