一年を締めくくる極上のペアリング、パネットーネとフランチャコルタ
パンデミックのおかげで今年のイタリアでのパネットーネ販売は、例年にも増してネットショッピングが活用されたようだ。しかも今年初めてパネットーネを発売したファインダイニングや五つ星ホテルも少なくなかった。購入者にとっては選択肢が増え、いくつものパネットーネを買い求めた人もいただろう。クリスマスだけに終わらず、大晦日から年明けにかけてのサン・シルベストロのチェノーネ(大晩餐)でも、パネットーネを楽しむ人が多いに違いない。 フェスタの食卓の最後を飾るパネットーネに、かつては、デザートと合わせるという発想から甘いスプマンテを選ぶのが一般的だったが、昨今のイノベイティブ・パネットーネには、より繊細な泡と自然な果実味を持ち味とするプレミアムなスプマンテの方がいい。「マンダリン オリエンタル 東京」のシェフベーカー中村友彦さんとシェフソムリエ野坂昭彦さんのお二人に、パネットーネとスプマンテのペアリングを提案してもらった。 中村さんが手がける3種類の異なるフレーバーのパネットーネそれぞれに合わせたのは、パネットーネの生まれ故郷ミラノがあるロンバルディア州で造られるイタリア唯一のDOCG(原産地呼称統制保護)スプマンテ、フランチャコルタだ。 イタリアには、同じ土地の食べ物と酒は相性が良いという考え方がある。その点においてパネットーネとフランチャコルタの相性が悪いはずはないが、もう一つ共通点がある。それは、どちらも発酵食品であるということ。酵母がもたらす旨味、テクスチャー、そして味わいの複雑性がどちらにも備わっているのである。リエヴィト・マードレ(自家培養発酵種)の乳酸発酵による独特の風味と伸びやかな質感を持つパネットーネに、18ヶ月以上の瓶内二次発酵によるきめ細やかな発砲と酵母の旨味が際立つフランチャコルタが出会うと、口中で複雑なハーモニーが生まれ、さらにパネットーネ生地の優しくほのかな酸味とフランチャコルタの上品な酸味が共鳴し、長く心地よい余韻が続くのだ。 大きめにカットしたオレンジピールとラム酒に漬け込んだレーズンを使った「パネットーネ クラシコ」とのペアリングにおすすめなのは、「カ・デル・ボスコ・キュヴェ・プレステージ」。ポイントは、“フレーバーとテクスチャー”。「カ・デル・ボスコ・キュヴェ・プレステージ」の特徴的な柑橘系フレーバーが、パネットーネのオレンジピールの風味と同調し、華やかで爽やかな余韻をもたらす。 「チョコレートとチェリーのパネットーネ」には「イル・モスネル・ブリュット・ロゼ」を。ポイントは“アロマ、酸味と渋味”で、チョコレートチップの穏やかな酸味と渋味が、ロゼの持つ心地よい果実味、タンニン、酸味と相乗して優雅な味わいへと昇華。またドライサワーチェリーの酸味とアロマもロゼの余韻を牽引し、華やかな印象を与える。 「栗とカシスのパネットーネ」に合わせるなら「モンテロッサ・カボション・ブリュット・ミッレジマート2013」を。ポイントは“苦味、複雑味と奥行き”。マロングラッセの渋苦味とコクのある味わいが、熟成によるメイラール反応の影響でロースト香や複雑な風味を備えた「モンテロッサ・カボション」と出会うことで奥行きのある長い余韻を生み出す。またドライカシスの酸味と風味がアクセントとなり、ワインのコクとともに抑揚のある味わいを楽しませてくれる。 上質な素材を使い手間と時間をかけて作られたパネットーネは、クリームやソースなど他のものを添えずそのままを、やはり上質なワインと合わせるのが最上の楽しみ方。発酵という自然と職人技の融合によって得られるものは極力シンプルに味わうことでその魅力の深奥を堪能することができる。    

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