シチリアに行きたい時に読むべき12冊
2021年もそう簡単に旅行ができるような雰囲気にはほど遠く、不自由な時間はまだしばらく続きそうだ。かつてイギリスの作家サー・アイザック・ウォルトンは、釣りに行けない雨の日の釣り師のために「釣魚大全」という素晴らしい書物を残してくれたが、こんな不自由な時代だからこそ旅に出かけたい思いはますます募る。イタリアに関していうならば、この国は数多くの魅力的なデスティネーションに恵まれているけれどもその中でも別格なのはシチリアだ。太古の昔から地中海文化がつねに交差してきた約束の地であり、多くの民族がシチリアに残してきた食文化は今も訪れる者を圧倒する強さがある。そこで今回はページをめくるだけでシチリアへと思いを飛ばすことができる、アームチェアー・トラベリングにふさわしい名著12冊を紹介したい。

パニーニ・ディ・シチリア Panini di Siciliaはフード・ジャーナリスト、エリジア・メンドゥーニ Elisia Menduniの最新作。エリジアはすでに「シチリア・コンティネンテ・ガストロノミコ Sicilia Continente Gastronomico」ですでにシチリアの食文化について深くルポルタージュしているシチリアの専門家の一人。本書ではカターニアで人気のストリート・フード・レストラン「FUD」とのコラボで29種類のシチリア風パニーノを提案しているが、それは伝統的なものだけにとどまらず「キアラモンテ・グルフィ産ロバ肉のパニーノ」「マドニエ産プロヴォローネのパニーノ」などシチリアのテロワールを食で体験できる貴重な一冊。

ストーリエ・センスオーゼ・デイ・ドルチ・シチリアーニ Storie sensuose dei dolci sicilianiは訳すならば「シチリア・ドルチェの官能的な歴史」だろうか。アラブ起源のソルベットはじめ、カッサータ、ムスタッツォーリなどなどシチリアならではの菓子は数多いが、そのほとんど全てがフェニキア人やノルマン人、スペイン人、フランス人などがシチリアに残していったもの。ドルチェと歴史物語が好きな人にすすめたい。

シチリア・コンティネンテ・ガストロノミコ SICILIA continente gastronimicoは前述エリジア・メンドゥーニの記念すべき初のシチリア本。「美食大陸シチリア」と題された本書では現代シチリアを代表する34人のシェフがそのシグネチャー・ディシュと共に登場。それぞれが、自分の考えるシチリアとは?シチリア料理とは?を熱く熱く語っている。表紙はエトナ山をイメージしたイラストだが、中面は料理や風景写真をふんだんに盛り込んだオールカラーによる構成。登場するシェフは「ラ・マディア」ピノ・クッタイア、「ドゥオモ」チッチョ・スルターノ、「バイバイ・ブルース」パトリツィア・ディ・ベネデット、「パステッチェリア・カッペッロ」サルヴァトーレ・カッペッロなどなど、いずれもシチリアを代表する料理界の巨匠ばかり。

ペル・レ・スカーレ・ディ・シチリア Per le Scale di Sicilia ミシュラン2つ星「ラ・マディア La Madia」シェフ、ピノ・クッタイア Pino Cuttaia初の本格的なレシピ集。日本ではそれほど知名度は高く無いが現代シチリアを代表する料理人のひとりピノ・クッタイアの思考、世界観、料理コンセプト、食材への向き合い方などがよく分かる。

クチーナ・ディ・シチリア  Cucina di Sicilia 著者であるシェフ、ニノ・グラツィアーノ Nino Grazianoの名前を覚えている人はいるだろうか?90年代後半にはパレルモ郊外にあったレストラン「イツ・ムリナッツォ Il Mulinazzo」でミシュラン1つ星を獲得し、当時はシチリアを代表するシェフだった。その後ニノはシチリアを離れてモスクワにイタリア料理店を開くなど国外に新天地を求めた。90年代から2000年だい初頭にかけてはフェラン・アドリアのヌエバ・コシーナ・エスパニョーラ Nueva Cocina Espagnolaに代表される新スペイン料理全盛期でイタリア料理界にもその影響が顕著に見られたが、500年の時を経て再びスペインの影響を受けたシチリア料理のマイル・ストーン的レシピ集だ。

クチーナ・シチリアーナ Cucina Siciliana 出版社のGuido Tommasiは非常に美しくポエティックな料理書を多く出版していることで知られるが本書もそのひとつ。パレルモやカターニアの市場からエトナ山、モツィアの塩田レ・サリーネまで、美しい風景とともにシチリア人の暮らしと日常の料理を紹介している。

ドルチェッツェ・ディ・シチリア Dolcezze di Sicilia シチリアのドルチェに関する研究書とも呼べる本書では、シチリアにおけるドルチェのターニング・ポイントはギリシャ文明に遡るという。それはギリシャ人が小麦と牛乳、はちみつをまぜて作った人類史上初のデザートがシチリアへと伝わり大いに発展したという壮大なロマンだ。ギリシャ語起源の地名はいまもシチリアに多く残されていることもホメロスの叙事詩の世界は連想させる。アーモンド、ブドウ、オリーブをシチリアにもたらしたギリシャ人、そしてアラブ、ノルマン、スペイン、フランスとシチリアを通り抜けていった諸民族たちの足跡を探しながらドルチェの世界を縦横無尽に旅する、シチリア・ドルチェ史の最高傑作。

アランチナリオ Arancinario 「アランチナリオ」はシチリアの風土や料理文化を語りつつ、なんと合計45種類のアランチーニ(またはアランチーネとも)のレシピを紹介している。同時公開してるYoutubeではアランチーニ型「アランチノッティ」を使用したアランチーニの作り方も紹介しているので実に実践的。今までなんとなく作っていたけれど、この際きちんと作りれるようになりたい、と思う方に最適。Gambero Rosso、Giallo Zafferanoのサイトでも掲載された現在のところ唯一無二のアランチーニ最強レシピ集。

クチーナ・シチリアーナ Cucina Siciliana Newton Comptonから発売された、シチリアの郷土料理がなんと1000点も掲載されている大著。料理写真のカラーページは型32Pと少なめだがその分本文は読み応え十分。レトロタッチの書体と挿絵はかの名著「Le Ricette Regionali Italiane」を彷彿とさせるものがあり、Salse,condimentiからはじまり、Pane,pizze,focacceではScacciataやSfincioneのレシピも掲載。充実のPrimi piattiはPasta con sarde, Pasta alla Normaなどの定番はもちろんPasta chi pipi, Tummala, Pasta cu capuliatuなどの謎?のパスタ料理も和夫奥登場。Secondi PiattiはシチリアらしくまずPesciが筆頭でCarne (Bovine, Suine)、Frattaglie、Pollame e coniglioと続きそのあとはなんとカタツムリLumache料理も多数掲載。そしてDolceに100P以上割かれているのもDolce王国シチリアならでは。いつか読みたい本としてジェームズ・ジョイスの「ユリシーズ」やミルトンの「失われた時を求めて」がよくあがりますが、シチリア料理を愛する者ならばこの一冊を時間をかけて読み解きたい。

ジェラート・ソルベット・グラニータ Gelati, Sorbetti e Granite デ・アゴスティーニ社から発売された冷たいデザートのレシピ集「Gelati, Sorbetti e Granite ジェラート、ソルベット、グラニータ」。イタリアは季節を問わずジェラートの消費が高い国だが、それはつねに季節の果物やナッツ類を素材としているから。いわば季節感を知るデザート、なのでだ。本書ではジェラート、ソルベット、グラニータという3テーマ合計77種を紹介しています。中にはジェラート・フリットも!!かつてエトナ山の氷室に保存した氷を使用し、夏に冷夏として食べることがもっとも贅沢とされたシチリアにおいて、ソルベットとジェラートはその歴史と切り離すことができない。

シチリア・イン・クチーナ Sicilia in Cucina イタリアで最も美しい料理書と信じてやまないシチリアにある出版社SIME BOOKSの最高傑作は約束の地シチリアを舞台にした「Sicilia in Cucina」。本書におさめられた本物のシチリア料理は、それを作る人々と同様、圧倒的な迫力があり魂を揺さぶられるような強いメッセージを投げかけてくれる。「アランチーニ」「イワシのブカティーニ」「カポナータ」といった永世定番から「パスタ・ンカッシャータ」「ウサギのスティンピラータ」「シウシェッドゥ・パスクアーレ」などの珍品奇品まで、前菜、プリモ、セコンド、ドルチェと合計80のレシピを掲載。まだ見ぬシチリアの地を目指す人、または彼の地に帰りたくてしょうがない、そんな人へ。

 

スウィート・シシリー Sweet Sicily 同じくSIME BOOKSから発売されたシチリア・ドルチェのレシピ集。ピンクを主体とし、SIME BOOKSにしては珍しくフェミニンな装丁だが序章にはアントン・カレームの言葉からの引用でこんなことが書いてある。”Le belle arti sono cinque e cioe’ : la pittura, la scultura, la poesia, la musica, e l’architettura, che ha come ramo principale la pasticceria.”「芸術とは以下の5つである。つまり絵画、彫刻、詩、音楽、建築、それは菓子職人にとっての根幹と同じことだ」シチリア菓子を縦横無尽に紹介する衝撃的なこの本に掲載されているレシピはAgnello di marzapane e pistacchi, Arancine dolci al cioccolato, Baci panteschi, Biancomangiare di San Martinoなど27点。


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