モダン香港料理がフィレンツェに上陸 リストランテ「エレメント」
世界の料理が国境を越えてやってくる。もはやこの流れは止められない。食では頑なにコンサバティブを貫いてきたイタリアにも随分と異国料理が入ってきている。しかし、フィレンツェ料理やトスカーナ料理以外のものを食べた時に必ず「まぁまぁ美味しい、けれど」と感想に必ず否定のニュアンスを忘れないフィレンツェ人が相手となると、そう簡単に外国の料理は受け入れてもらえない。特にコンテンポラリーとか、最先端と言われるものはイタリア料理ですら難しい。だから、フィレンツェにモダン香港料理のレストランがオープンし、それが結構評判だと聞いて、ちょっと驚いた。少しずつだが変わってきているのだ、超コンサバ・フィレンツェも。
焼売、餃子、小籠包のディムサム前菜
この街で中国料理といえばどの店もほぼ同じメニューというのが当たり前。日本ではいわゆる中華料理とひとまとめにされるクラシックな炒め物・揚げ物中心の料理である。2000年代にはそこに四川料理が加わったが、注文すればあっという間に提供されることは同じ。早くて安い、でも油が強いというのが一般的なイメージだ。そんなステレオタイプを打ち破ろうと女性オーナーが香港現地で何度も受賞経験がある料理人を呼び寄せ、2020年9月に開店したのが「エレメントElement」である。ディムサム、つまり点心とともに、手間をかけ、じっくりと時間をかけて火を通すスロークッキングをテーマとしている。広東料理の目玉の一つである豚やカモ、ダックなどに蜂蜜を塗ってこんがりと焼き上げた肉をアレンジした料理は、現代イタリア料理では定番とも言える仔豚の甘いローストに近く、イタリア人にとっては新鮮でありながら抵抗も少ない世界である。また、ディムサムは、小籠包にしても焼売にしてもその皮がごく薄くなめらかで、フリットの衣は非常に軽く儚い。これまでのフィレンツェ中華にはなかった繊細さ、味わいのまろやかさは、食にこだわる人々の間で噂となり、フィレンツェ空港そばというけして恵まれた立地ではないが、わざわざ食べに出かける価値があると見なされているという。 前面がガラス張りの一見するとカフェのような外観で、ここに以前はランドマーク的な真っ赤な門構えのいかにもな中国料理店(しかもツーリスティック)があったと知り、変われば変わるものだと感心する。店内は中央にロの字のカウンター、その周りにテーブル席が配され、全体的にきらびやかなインテリア。バーロカーレのような雰囲気である。点心は、盛り合わせ5種18ユーロ、小籠包3個8ユーロ、黒トリュフとエビの蒸し餃子3個15ユーロ、フォアグラ焼売3個12ユーロ。その他、豚のロースト16ユーロ、家鴨胸肉と鴨の肝のフォアグラ仕立ていちじくソース28ユーロ、香港風叉焼飯16ユーロなど、値段はやや高めだが、一般的なイタリア料理店とほぼ同じである。外食を楽しもうという気分に適う雰囲気と価格、そして何よりも現地香港と遜色ない中国料理が期待できる店の先駆けとして定着していくだろう。  

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