10月25日はワールドパスタデー。パスタを食べてイタリアを想う
1995年に開催された世界のパスタメーカーが集まる会議で、10月25日はワールドパスタデーと定められ、1998年からは毎年この日は世界各地でパスタをテーマにしたイベントが開催されている。パスタはいうまでもなくイタリアを代表する食品だが、ワールドパスタデーのオフィシャルパートナーであるUnione Italia Foodのデータによると、世界200カ国で毎日7500万食ものパスタが食べられているというから、もはや地球を代表する食品といってもいいだろう。パスタの消費量はこの10年で2倍に増えており、イタリアにとって重要なマーケットはドイツ、イギリス、フランス、アメリカ、そして日本で、こうした国々はもちろん、さらにコロンビア、オランダ、アラブ首長国連邦でも消費が顕著に伸びているという。一人当たりの年間消費量という点では、イタリアが断然トップで23kg。次いでチュニジア(17kg)、ヴェネズエラ(15kg)、ギリシャ(12.2kg)と続く。では、日本は?その答えはもう少し先に紹介ある。   先だって、ワールドパスタデーを記念するイベントが東京・世田谷のイタリア料理店「ペペロッソ」で開催された。主催はイタリア大使館貿易促進部、テーマは「イタリア20州をパスタで巡る」。郷土ごとの料理が確固とした地位を築いているイタリアでは、20州どころか、もっと細かく郷土の味が分かれていると言われているが、州ごとの傾向や特色をパスタを通して横断的に見ていくのは、イタリアの食文化を理解する上で非常に有効であろう。 イベントの開始に伴い、ジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使はこう語った。 「パスタというものをひとことで表すことは簡単ではありません。あえて説明するなら、何千年も昔から変わらず、粉と水という自然の素材で作られてきた食品。長い時間をかけて、数え切れないほどのさまざまな形になって発展した食品でもあります。しかし、パスタというのはイタリア人にとってそれだけではありません。何よりパスタはマンジャーレ・サーノ、健康的な食事の象徴です。さらに言わせてもらえるなら、地中海食の、世界におけるイタリアらしさ、イタリアの生活スタイルを物語る偉大なるアンバサダーであり、世界中の人々に愛され賞賛されている存在なのです。 また、ここ日本でも、いかにパスタが好まれているかは、街を歩けばわかります。東京でも、そのほかの街でも、歩いていると(この店に今も漂っているような)まぎれもなくパスタを作っているとわかるいい匂いがしてきます。東京以外のどの街でも、とても小さな街であっても、必ずイタリア料理店があり、そこではイタリアの食材を使っています。イタリア現地で修業し、イタリアの食とワインの文化を伝える日本人のシェフがいて、そしてイタリアからやって来たイタリア人シェフが自分の故郷の料理を日本で実践しています。 しばしば私は、なぜ、世界のどこよりも顕著に日本でこういうことが起き、今もなおそれが続いているのかと自問してきました。その答えは、日本の人々は、イタリア人と同じように、食を理解する能力が高いということ。食材の品質を見極める力があり、イタリア料理を特徴付ける職人の優れた技、歴史や伝統を理解できるからでしょう。こうした日本人の特性は、イタリア産の食品がこの国で成功する鍵ともなりました。その代表がパスタなのです」。 イタリア大使館貿易促進部部長のエリカ・ディジョヴァンカルロ氏はさらに、イタリアそして日本におけるパスタの現状を語った。 「今年でワールドパスタデイは24回目を迎えます。世界中で愛されているパスタには無数の種類があり、さらにその料理も土地ごとの風土や習慣に即して無数に発展しました。しかし、イタリアが最大のパスタの国であることは揺るぎない事実です。イタリアは世界製造量の20%を占める最大の生産国であり、国民一人当たりの年間消費量は20kgを超えます。それがどのくらいなのかというと、日本では一人当たり年間1.7kgであることからもわかるでしょう。 2020年はイタリアから日本へのパスタの輸入が飛躍的に伸び、対前年比22%のアップを記録しました。その理由はおそらくコロナ禍による巣篭もり需要で、それゆえ2021年は8%の減少を見ましたが、コロナ以前に比べて依然と高い数字を示しています。さらに2022年上半期はすでに前年を上回る10%増加となっています。 では、なぜこれほどパスタが好まれるのでしょう。まず、美味しいということ。そして、栄養価が高いこと、さまざまな使い方ができること、きちんと作ったソースと合わせることで完全食になること。さらに、パスタを食べるといい気分になるということも重要だと思います。 日本ではパスタは、日本特有の環境下にあります。つまり日本にはそば、ラーメンといった麺類があるにもかかわらず、それらの影響を受けることなくイタリアの本格手法に則って食べられていることを誇りに思います。アルデンテに茹で上げてイタリア伝統に則ったソースと合わせ、プリモ・ピアットあるいはピアット・ウニコとして、イタリアとなんら違うことなく提供されているのです。 最後に、私からの言葉として一つの情報をお伝えします。科学的な裏付けがあるかどうかはわかりませんが、パスタは最高の”抗うつ剤”、気分を高める作用があります。美味しいパスタを食べると体に良いだけでなく、心を安らかに楽しい気持ちになることを体感してほしいと思います。Viva la pasta e buon appetito!」   以下、20州のパスタを順に紹介する。北から南という順番ではなく、味わいごとに近いものがまとめられ、軽いものから強いものへという順番で提供された。
  1. Spaghetti integrali Bigoli in salsa 全粒粉のスパゲッティビーゴリと玉ねぎのアンチョビソース ヴェネト州のヴェローナからパドヴァまで広範囲で食べられているビーゴリは、鴨のラグーと合わせるか、玉ねぎとアンチョビのサルサを染み込ませるのが定番。現地で食べるサルサはかなりアンチョビを効かせることが多いが、今井シェフは玉ねぎの甘みを前面に押し出した。
  1. Tajarin ai funghi タヤリンと旬のキノコのソース ピエモンテのパスタといえば極細手打ちパスタのタヤリンかアニョロッティ・デル・プリン。タヤリンはバターであえて季節なら白トリュフをふりかける。あるいはラグーで食べるが、キノコの素朴な香りとの相性もなかなかである。
  1. Orecchiette con broccoli オレッキエッテ・ブロッコリのソース クタクタに煮崩れたブロッコリがソースのように絡んだプーリアを代表するパスタ・オレッキエッテ。にんにくの存在感もしっかり。胡椒ではなく唐辛子を使うのが当地の伝統である。
  1. Trofie al pesto genovese トロフィエのジェノヴェーゼ ヘーゼルナッツ大に丸めた生地を台にのせ、被せた手のひらを引くようにして独特の捻りを与えたトロフィエ。リグーリアの山の方ではくるみのソース、海側ではバジリコのペスト・ジェノヴェーゼ、という傾向がある。
  1. Fregola con le vongole イタリア半島から190km近くも離れたサルデーニャは独特の食文化を有する。その代表が粒パスタ、フレーグラ。セモリナ粉に水を少しずつふりかけながらボウルの中で煽るようにして、ダマにしていくという作り方もユニーク。ソースではなくスープに合わせるのが伝統。
  1. Pasta con le sarde alla siciliana シチリア風サフラン風味のイワシのパスタ シチリアといえばイワシのパスタである。野生のフェンネルをたっぷりの水で茹でてブロードを仕立てることから始まる、意外と手間のかかるパスタだ。サフラン、松の実、レーズンが加わることで味わい濃くアラブ的香りになる。
  1. Tagliatelle con prosciutto crudo e limone alla romagna ロマーニャ風生ハムとレモンのタリアテッレ エミリア・ロマーニャ州は言わずと知れた手打ちパスタ王国。タリアテッレはトルテッリに並ぶ同州パスタの代表である。普通はラグーを合わせるところ、今井シェフは海側のロマーニャ地方をイメージして、生ハムにレモンの爽やかさを添えた。
  1. Spaghetti allo speck スペック入りのスパゲッティ 燻製生ハムのスペックはアルトアディジェの伝統的な食品。スライスしてそのまま食べるのはもちろん、細切りにしてパスタのソースに、細かく切ってカネーデルリに混ぜたり、当地では本当によく使われる。それだけしっかりとした味わいの食材である。
  1. Pasta alla Valdostana パスタ・アッラ・ヴァルドスターナ ピエモンテとフランスの間に位置するヴァッレ・ダオスタ州はイタリア最小でありながら、豊かな食に彩られた土地である。とりわけチーズを使った料理が多く、このパスタもプロシュート・コットよりフォンティーナチーズの存在感が圧倒的。
  1. Penne alla Norcia ノルチャ風ペンネ ウンブリア州はイタリアの緑のハートと言われるように、海はないが自然豊かな土地。オリーブオイル、豚加工肉、ジピエ、トリュフなど食材も豊富だ。生ハムやサラミの産地であるノルチャをイメージしたサルシッチャのペンネは、コクのある味わいで赤ワインが欲しくなる。
  1. Tortelli di zucca かぼちゃのトルテッリ かぼちゃ料理は北イタリア全般に存在するが、とりわけ、マントヴァでは秋から冬にかけてこのトルテッリが食卓の主役となる。今井シェフは自家製のモスタルダを隠し味に加え、甘味を引き締めてみせた。
  1. Blecs di grano saraceno そば粉のブレクス 小麦粉に比べて一段と香り高いそば粉のパスタは、その香りをシンプルに楽しみたい。バターとポレンタ、チーズを合わせるフリウリの農家伝統の食べ方が最も適っている。
  1. Paccheri al suco di pomodoro パッケリのトマトソース 一口で食べられない巨大なパスタ、パッケリは、“マッケローニ喰い”のカンパーニア州ナポリを象徴する存在。シンプルなトマトソースをたっぷり絡めて頬張って味わいたい。
  1. Pici all’aglione della Val di Chiana キアナ渓谷風ピーチ・アル・アリオーネ 手でひも状に伸ばすピーチは、太めのうどんのような食感を持つトスカーナ州シエナ以南の名物。にんにくをたっぷり使ったトマトソースを合わせるのが伝統。
  1. Anelletti alla pecorara アネッレッティ・野菜のソース アブルッツォの代表的なパスタ、アネッリーニ・アッラ・ペコラーラは、指輪に形作った手打ちパスタを野菜たっぷりのスーゴを絡めた、羊飼いの農家の伝統料理。本来は野菜のみだが、肉を加えることもある。
  1. Tacccozze e fagioli タッコッツェ・豆のソース 冬は北イタリアよりも気温が低くなるカンポバッソを州都とするモリーゼ州は、文化的にはアブルッツォに近いが、より素朴な土地柄で、料理もしみじみとしたものが多い。薄く伸ばした生地を適当に切り分け、パスタ・エ・ファジョーリに仕立てたこの一皿は、シンプルながら味わい深く、満足度が非常に高い。
  1. Rigatoni con la pajata リガトーニ・コン・ラ・パヤータ ラツイォ州ローマの下町テスタッチョで庶民に愛されてきたパヤータ。乳飲み仔牛の小腸の柔らかくミルキーな味わいは一度食べたら病みつきになる。合わせるパスタはこれもローマ好みのリガトーニ。アマトリチャーナにもカルボナーラにもこのパスタは欠かせない。
  1. Vincisgrassi ヴィンチスグラッシ 鶏の内臓とベシャメッラを層にしたラザーニャはマルケ州マチェラータの郷土料理。マルケ以外ではお目にかかれない幻度の高いパスタ料理でもある。ベシャメッラを使わないバージョンもあるが、鶏の内臓は欠かせない。
  1. Fileja alla calabrese カラブリア風フィレイヤ 南イタリアは針金や枝を芯にしてパスタを巻きつけ、くぼみをつけたり螺旋状に形作るパスタが多く見られる。フィレイヤもその一つで、自生する植物の茎を芯に利用するのが伝統。厚みのあるパスタには、カラブリアの名産ンドゥイヤが非常に合う。唐辛子の絡み、熟成した肉の旨味があとを引く一皿。
  1. Bucatini di fuoco 炎のブカティーニ 最後を飾ったのはなかなか過激なタイトルのバジリカータの料理。主役は唐辛子である。ただ、唐辛子の辛さだけでなく、旨味をも引き出し、パスタとのバランスを図ったという。程よい辛さがブカティーニを引き立て、シンプルにパスタを味わうことの楽しさを実感させてくれた。
     

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