労せずとも優れたワインが生まれるオルトレポー・パヴェーゼの面白さ  ガンベロ・ロッソ「トレ・ビッキエーリ試飲会」セミナーより
イタリアはどこでもワインが造れるエノトリア(ワインの地)。温暖化の影響で北ヨーロッパでもワインが造られるようになってきてはいるが、南ヨーロッパのポテンシャル、そして何よりも歴史がもたらす恩恵は大きい。ただ、そこに安住していてはますます進む温暖化にも対応できないし、マーケットからも置いてきぼりを食らう。だから、イタリアの生産者もクオリティの引き上げやマーケティングに必死だ。おかげで、今まで目に入らなかったワインに出会う機会が増えることになっている。その一つがオルトレポー・パヴェーゼだ。 ロンバルディア州の南端、ピエモンテ州とエミリア州に挟まれた大河ポーの南側がオルトレポー(ポー川の向こう側)・パヴェーゼ(パヴィア地方)で、イタリア統一王国時代はサルデーニャ王国に属していたことから、文化的精神的にピエモンテに非常に近い。ロンバルディア州ではあってもミラノから遠いため、旅行者が好んで訪れる場所とは言い難く、それだけにのんびりと牧歌的な土地柄である。 今回のセミナーでは、オルトレポー・パヴェーゼ保護協会ディレクター、カルロ・ヴェロネーゼ氏によるプレゼンテーションとワインジャーナリストの宮嶋勲氏によるナビゲーションで10種類のワインをテイスティングした。宮嶋氏曰く「放っておいてもいいワインができる土地」ゆえ、クローンの選別なども世に遅れて始まったが、近年の躍進には目覚しいものがあるという。ただ、スパークリング、白、赤、ヴィーノドルチェと、多種多様なワインをそれぞれのワイナリーが作っているため、ピエモンテやトスカーナのようなわかりやすさはない。絞り込めないところが悩みという、北ヨーロッパが聞いたらイラッとしそうな贅沢な悩みである。 その無数にあるワインの中から今回選ばれたのは、ピノ・ネーロのスプマンテ4種類、リースリング2種類、ピノ・ネーロの赤4種類。クロアティーナ種を使うボナルダや、バルベーラ、モスカートなどは除外されていた。協会としては、オルトレポーの散漫なイメージを払拭し、ピノ・ネーロ種で造る瓶内二次発酵のオルトレポー・パヴェーゼ・メトド・クラッシコDOCGを推していると宮嶋氏。スパークリングワインに人気が集まっている昨今、選択肢が増えるのは飲み手としても嬉しい。また、ピノ・ネーロで造るスティルの赤もフランスのそれとは違い、よりしっかりと厚みのある南ヨーロッパ的な味わいはやはりイタリア料理によく合うだろう。 オルトレポー・パヴェーゼでははるか昔からピノ・ネーロの遺伝子を持つ葡萄が栽培されていたが、1860年頃にフランスから移植されたピノ・ネーロによって 本格的な栽培が拡大した。現在はトータルで3000haに上り、イタリアでは最大の栽培面積を誇る。ピノ・ネーロの瓶内二次発酵スプマンテは1970年にDOCに、2007年にDOCGとなった。 もう一つ重要な品種がリースリングである。オーストリア支配下の18世紀にこの品種の栽培が始まり、現在の栽培面積は1500ha以上である。   試飲したのは以下のとおり。 Oltrepò Pavese DOCG Metodo Classico Pinot Nero Brut OLTRENERO Tenuta Il Bosco 起源は中世に遡るテヌータ・イル・ボスコは、ポー川の近く、オルトレポー・パヴェーゼの北東に位置する。1987年にヴェネトを本拠とする大ワイナリー、ゾニンの傘下とり、当時はわずか30haだったのが今では152haと拡大している。オルトレネーロ・ブリュットは、白い花、熟した赤スグリやラズベリー、柑橘の香り、そしてしっかりとした酸が特徴。   Oltrepò Pavese DOCG Metodo Classico Pinot Nero Brut VERGOMBERRA 2018 BrunoVerdi ブルーノ・ヴェルディは、比較的小規模な家族経営のワイナリー。8代続く農家で、3代目から本格的にワイン造りを始め、第二次世界大戦後、自社で瓶詰めも行うようになった。畑は有機農法である。ヴェルゴンベーラ・ドサージュ・ゼロは、ピノ・ネーロ85%、シャルドネ15%、38ヶ月瓶内熟成、酸とミネラルがしっかりとした力強い味わい。 Oltrepò Pavese DOCG Metodo Classico Pinot Nero Brut GIORGI 1870  2018 Giorgi dal 1870 1875年に醸造施設を立ち上げ、地元近隣だけでなく遠隔地の市場も積極的に開拓してきたワイナリー。だが、基本はジョルジ家による家族経営である。スプマンテはロゼを含めて5種類あるが、ジョルジ1870が唯一のオルトレポー・パヴェーゼDOCG。ピノ・ネーロ100%、果実味よりも持続性のある酸味が特徴的で、旨味すら感じる。宮嶋氏は「DOPのヴァルツィ産サラミが欲しくなる」と評した。   Oltrepò Pavese DOCG Metodo Classico Pinot Nero Rosé MONTECERESINO 2016 Tenuta Travaglino テヌータ・トラヴァリーノの起源は12世紀初頭の修道院。時を経てヴィッラ・トラヴァリーノとなり拡大していき、現在も壮麗な建物が残っている。1868年にコミ家が購入し、1965年からは本格的なワイナリーとして改良を開始、ヴィッラもレストランと客室5部屋を備えたアコモデーションとなった。モンテセレシーノはクルアゼと呼ばれるオルトレポー・パヴェーゼDOCGのロゼ。ピノ・ネーロ100%、香りはチェリーや森のベリーも感じるが、味わいはドライで力強い。魚介、特に甲殻類に合うという。   Oltrepò Pavese DOC Riesling Superiore 2020 Ca’ di Frara 1905年創業、現在で4代目のワイナリー。その名前は、同ワイナリーが本拠を置くCasa di Ferrariの現地方言。できる限り自然の摂理に基づいたワイン造りを行なっている。このリースリングはリースリング・レナーノ100%、白桃、バナナ、メロンなどの香り、味わいにもトロピカルフルーツを感じるが、同時に、酸、ミネラルもしっかりとしているところが特徴。 Oltrepò Pavese DOC Riesling Superiore Vigna Martina LE FLEUR 2020 Tenuta Isimbarda 17世紀末にミラノの貴族イシンバルディが領主となり、19世紀に本格的なワイン造りが行われるように。2019年からは3人の共同オーナーにより一段とクォリティ管理に力を入れている。日当たりの良い標高の低い畑ではバルベーラやクロアティーナなどを、標高の高い畑ではピノ・ネーロを、一日の温度差があまりない東向きの斜面ではリースリング・レナーノなどアロマティックな白の品種を栽培。レ・フルールは標高400mのヴィーニャ・マルティーナ畑のリースリングから造られている。フローラルで華やかな香り、酸は穏やかでミネラルを感じる。   Pinot Nero dell’Oltrepò Pavese DOC  PINOT NOIR C’era una Volta 2021 Losito & Guarini 1910年にプーリアからミラノへやってきたドメニコ・ロジートが始めた居酒屋でワインを扱ったのが始まりで、ロンバルディア最大のワイン商にまで成長。ワイン製造もオルトレポー・パヴェーゼとプーリアで手広く行なっている。このピノ・ネーロは野生のスミレ、アカシアの花、チェリー、森のベリーなど濃厚な香りだが、味わいは軽くまろやか。   Pinot Nero dell’Oltrepò Pavese DOC  PIOTA pinot nero 2020 Padroggi e figli – La Piotta 1985年にルイジ・パドロッジが創業したワイナリー。現在はルイジと息子、孫の三世代で運営している。ピオッタという名前は19世紀にピエモンテ方言でピエトラ(石)と呼ばれたことに由来するという。規模は小さいが(畑はトータルで15ha)さまざまなワインを製造。ピオッタ・ピノ・ネーロはスパイシーでタンニンを感じ、肉を呼ぶしっかりとした骨格が印象に残る。   Pinot Nero dell’Oltrepò Pavese DOC  PINOT NERO 2019 Torti  家族経営のワイナリー。オルトレポー・パヴェーゼの特徴である多種多様なワインを手がけているが、一族の女性たちは特にストーリー性を重視するらしく、ハローキティ・シリーズやルート66シリーズなどユニークなラインが充実している。ピノ・ネーロは、ブラックチェリーやいちごの香り、まろやかでエレガント。   Pinot Nero dell’Oltrepò Pavese DOC  NOIR 2018 Tenuta Mazzolino 1981年創業、女性オーナーが祖父、そして母の後を継いで運営するワイナリー。創業者はルイジ・ヴェロネッリ、ジャコモ・ボローニャに優れたピノ・ネーロのワインができると説得されたという。現在はほぼオーガニックで栽培している。1985年がファーストヴィンテージのピノ・ネーロは、熟したベリーの香り、スパイシーでタンニンと酸のバランスがとれ、余韻が長い。        

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