「ブルガリ ホテル 東京」にオープンした「イル・リストランテ ニコ・ロミート」へ
東京駅八重洲口の正面にそびえる「東京ミッドタウン八重洲」。その40〜45階に「ブルガリ ホテル 東京」が2023年4月4日にオープンした。ブルガリ ホテルズ&リゾーツ コレクションによる世界で8番目のブルガリ ホテルの誕生である。 東京駅側から徒歩で向かうとビル正面の右サイドにあるエントランスから入る。ホテル名を刻んだプレートは控えめで目立たないが、それはラグジュアリーホテルのお約束でもある。ちなみに車寄せも裏側にある。照明を落とした廊下にはブルガリのジュエリーのデザイン画が飾られ、そのデザイン画が浮かび上がるような抑えた照明が、廊下全体を外界から隔絶された静謐の空間にしている。 レセプションを過ぎ、エレベーターで40階に着いても地上階のムードはそのままだが、廊下を進むと目の前が開け、その先に東京の空が見える。右側には「ブルガリ ドルチ」のショップ、左側には鮨「HOSEKI」。東京の空に向かって進んで右に折れると小さなラウンジ、そしてそのまま「イル・リストランテ ニコ・ロミート」へと続く。木を多用した、温かみのある空間は、それまでの暗闇にも似たアプローチとはまた違った段階へ到達したことを教えてくれる。 「イル・リストランテ ニコ・ロミート」は、アブルッツォ州のミシュラン三つ星レストラン「レアーレ」を率いるニコ・ロミートが監修する。ブルガリが提案するライフスタイルに合わせ、コンテンポラリーなエレガンスを表現するという。つまり、「レアーレ」で展開する世界とは違い、地方性、個性は抑え、世界から訪れるあらゆるゲストに向けて、“ピュアなイタリア料理”というメッセージ伝えると同時に、ラグジュアリージュエリーブランドとしてのスタイリッシュさも表現するという役割を担っている。 プレオープンで供された料理を紹介しよう。 まず最初に「ベジタブル・アブソリュート」と名付けられた野菜のブロード。水を一切使わず、野菜そのもののエキスだけという濃厚なブロードである。ひと口飲むと眠っていた神経細胞までが揺り起こされるような気持ちになる。ここは、ニコ・ロミートの世界だと印象付けるスタートだ。 前菜「Antipasto all’Italiana」は少しずつ8種類で構成され、前後半で4種ずつ供される。前半は「パーネ・エ・ポモドーロ」(トマトを染み込ませたふんわり柔らかな食感のパン)、「燻製プローヴォラとパスタのフリッタティーナ」(ナポリなどではストリートフードとしてもお馴染みのパスタのフリット。燻製の香りほどよく、ベシャメラも軽いので、あっさりと食べられる)、「ミルクとホースラディッシュ、胡椒のクリームを添えた牡蠣」(人肌温度の牡蠣にピリッと辛いソースがアクセント)、「チェードロと空豆のクリームを添えたヒメジのロースト」(美味な魚としてイタリアで人気のあるヒメジは軽くローストして、繊細な味わいを主役に、柑橘の香りが爽やかさをプラス)。 前菜の後半4種は、「アスパラガスのパルミジャーノ・レッジャーノとレモン」(アスパラガス料理の王道、間違いのない食べ方。ポイントはアスパラガスの食感をどこまで残すか。柔らかくなる一歩手前の食感は日本人好み)、「ヴィテル・トンネ」(ピエモンテの代表的な夏の料理、仔牛のツナソース。仔牛は日本では難しい食材だが、品質はイタリアのものと遜色ない)、「ボリート肉のポルペッテ バジリコのペースト」(ボリート肉の残りをポルペッテにするのはイタリアの伝統的な始末料理。バジリコのペーストで包んでスパイシーな仕立てに)、「軽く蒸したヤリイカ イタリアンパセリのソース」(ごく軽く火を通した、生に近いヤリイカのねっとりとした食感とイタリアンパセリのシンプルな青い香りが好相性)。 プリモはSfoglia all’uovo con asparagi, piselli, spinaci e sala di Parmigiano Reggiano アスパラガス、グリンピース、ほうれん草、ポロネギを繊維を残した“ラグー”にし、パスタを使ってテリーヌのように仕立てた一品。パスタよりも、野菜をたっぷり味わう趣向だ。それでも滑らかな極薄のパスタがあるのとないのとでは全く違うものになるだろう。水とパルミジャーノ・レッジャーノだけで作ったソースのデリケートな味わいが青い野菜独特のほろ苦さをうまくサポート。 セコンドのMaialino croccante con salsa all’arancia 短時間ローストした仔豚に、オレンジの絞り汁、ローストのエキス、カラメルで仕立てたソースを添えて。アブルッツォの伝統料理ポルケッタのアレンジだが、八角の香りを効かせたオリエンタルな味わいが印象的。肉の下に潜ませたジャガイモのピュレは、バターを使わず、オリーブオイルと水のみで仕立てている。 締めくくりは、Gelato di ricotta, aceto balsamico e amarene sciroppate 北海道産のリコッタを使ったジェラートは優しい味わい。ボローニャの老舗ファッブリ社のシロップ漬けアマレーナ、モデナの伝統バルサミコを合わせた、シンプルだがイタリアらしいデザート。
ニコ・ロミートと、イル・リストランテ ニコ・ロミート東京のシェフ、マウロ・アロイシオ。
全体を俯瞰するとあらためてわかるが、非常にオーソドックスな“イタリア料理”である。が、しかし、そこには目に見えない細やかな技術と研究の成果が込められている。軽やかだが、イタリアらしさを失わない。それどころか、イタリアの味をここまで研ぎ澄ますことができるのかと驚く。強すぎず、弱すぎず、エレガント。おそらくそれが、ニコ・ロミートとブルガリが達した答えなのだろう。        

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