トスカーナ発「ワインスティラリー」のスピリッツ&リキュールでカクテルを

ガイオーレ・イン・キャンティの「ワインスティラリー」は、ワインあるいは葡萄をベースにしたジン、ウォッカ、リキュールを手掛けるキャンティ・クラシコ地区で最初にして唯一の蒸溜所。既にその訪問記は紹介したが、このほど、同社のビターとオールド・トム・ジンが日本初上陸を果たしたのを機に、輸入元のリクオレリアが、フィレンツェのミクソロジーバー「ラスプーチン」のバーマネージャー、ダニエレ・カンチェッラーラによるマスタークラスを新宿のバー「B&F」にて開催。ワインスティラリーの製品についての解説、それぞれ単体での試飲、そしてダニエレが考案したオリジナルカクテルが披露された。

ワインスティラリーは、Grape to Glassをマニフェストに掲げるディスティラリー。キャンティ・クラシコという土地の伝統と、未だ明らかにされていない魅力を融合させ、画期的なクリエイションを目指している。責任者を務めるのは、マスター・ディスティラーのエンリコ・キオッチョリ・アルタドンナ。アメリカを旅した時にウイスキー蒸溜の面白さに魅了され、ガイオーレ・イン・キャンティでワイナリーを営む父親を説得してワインスティラリーを立ち上げた。ワインスティラリーのこだわりと特徴は、
1 全ての製品はChioccioli Altadonna Family Estateでカスタムメイドのポットスチルを用いて蒸留され、ボトリングされる。
2 ベーススピリッツは原則として葡萄、またはワインを使用する。葡萄あるいはワインを使用しない場合、全ての製造工程においてワインを中心とするワイン製造工程に則る。
3 ボタニカルは全てトスカーナで伝統的に用いられているものを使用。
4 人工香料、添加物は使わず、製造後の純化も行わない。自然の色、自然の香りだけを大切にする。
5 全ての製品は、その素材の特性を保全するために、冷蔵はしない。

主力製品は、サンジョヴェーゼ100%の赤ワインを蒸留した「ロンドン ドライ ジン」。ボタニカルは全てトスカーナ産で、トスカーナの森をイメージした深く余韻のある香りが特徴。そして、「トスカン・ヴェルモット」も、サンジョヴェーゼ100%の赤ワインとトスカーナ産ボタニカルを使用、華やかでスパイシーな香り、赤ワイン由来の複雑味が印象的で、女性にも人気が高い。また、「オールド トム ジン」は一般的には加糖するため甘味が過ぎるものもあるが、ワインスティラリーでは加糖せず樽で熟成させることで自然な甘味を醸成させる。樽由来のうっすらと桃色がかった黄金色も美しい。
今回初披露となった「トスカンビター」と「トスカン・ドライ・ヴェルモット」はどちらも汎用性の高いリキュール。前者はサンジョヴェーゼ種100%の赤ワインを蒸留したスピリッツにボタニカルを浸漬、イタリアのアマーロの伝統的な苦味成分が主体ながらも柑橘が爽やかに香り、ネグローニやアメリカーノ、スプリッツはもちろん、シンプルにトニックウォーターやスプマンテで割るだけでもひと味違ったアペリティーヴォとなる。「トスカン・ドライ・ヴェルモット」はトスカーナのデザートワイン、ヴィンサントに着想を得た独自製法が特徴で、トレッビアーノ種を主体とする遅摘み葡萄を使用、樽熟成過程での水分蒸発が酸化を促す伝統的な熟成方法による独特の風味と琥珀色を備え、ボタニカルが醸す華やかでハーバルな香りが奥行きを感じさせる。そのままロックで、またマティーニに用いると一層その香りが際立つ。

これらワインスティラリーのスピリッツ&リキュールを使ったダニエレのオリジナルカクテルは以下の通り。

CHIANTI SPUMONI  (キャンティ・スプモーニ)
ワインスティラリー トスカン・ビター
グレープフルーツジュース
セージのシロップ
ナルディーニ アックア・ディ・チェードロ
プロセッコ
ジンジャー・エッセンス
スプモーニは、イタリアのカクテルに見えて実はそうではない。カンパリが日本に入ってきた1970年代当時、ビターは日本人の好みでなかった。ゆえにカンパリを売るために日本で考え出されたカクテルである。このスプモーニをワインスティラリーのトスカンビターを使って、アペリティーヴォに最適なカクテルに。

TUSCAN SERENADE  (トスカーナのセレナーデ)
ワインスティラリー ロンドン ドライ ジン
ワインスティラリー トスカン・ドライ・ヴェルモット
ローズマリーとサフランのシロップ
ワインスティラリー トスカン・ビターの泡
ネグローニをベースにしたカクテル。構成要素を分解し、表面にトスカンビターのスプーマをのせ、本体はロンドンドライジン、トスカンドライヴェルモット。これもアペリティーヴォにおすすめだが、アルコール度数は高く、誰でも気軽にというタイプではない。ストロングな味わいを求める人に。

ITALIAN HAIKU  (イタリアの俳句)
ワインスティラリー ロンドン ドライ ジン
マンダリンとカルダモンのコーディアル
アニスリキュール
オリーブオイル
ギムレットから派生させた、アペリティーヴォにも食後のディジェスティーヴォにも良いカクテル。ライムのコーディアルの代わりに、マンダリンとカルダモンのコーディアルを使う。マンダリンはイタリアでお馴染みの柑橘で、このカクテルにイタリアらしさを添えている。最後にアニスリキュールをほんの少し、そしてエクストラ・ヴァージン・オリーブオイル(EVO)も表面にうっすらと垂らす。最初のひとすすりでEVO由来のかすかな塩味とピリッとした辛さを感じることができる。

LOST IN TRASLATION  (ロスト・イン・トランスレーション)
ワインスティラリー オールド トム ジン
ワインスティラリー トスカン・ヴェルモット
フェルネット・ブランカ
洋梨と栗のコーディアル
ホワイト・ペッパー・エッセンス
オールドトムジンを使った、オールドファッションのアレンジ。苦味はトスカンヴェルモットとフェルネット、そして白胡椒の香りを最後にひと吹き。ウイスキーを好む人におすすめしたいカクテル。ロンドンドライより甘みのあるオールドトムジンは、リコリスの風味がしっかり残っている上、短期間だが赤ワインの樽で熟成させているので、ウイスキーの代わりとして応用が効く。

マスタークラスの締めくくりに、ダニエレ・カンチェッラーラはこう語った。
「イタリアにおけるアペリティーヴォの習慣を日本の方々にも楽しんでもらいたいと思い、食前にふさわしいカクテルをご紹介しました。イタリアでは、18世紀の終わり頃、働き方が変わり、農業ではなく工場で働く人が増え、決まった時間に仕事が終わるようになって、仕事終わりに一杯、という習慣が生まれました。当時は、安いワインが庶民のアペリティーヴォの定番、ブルジョワ階級や富裕層はより高級な手の込んだお酒といった具合に違いはありましたが、どんな階級の人でもとにかくアペリティーヴォを楽しんだのです。アペリティーヴォの場所といえば、当時はカフェ。18世紀にヴェネツィアのカフェ・フローリアンなど幾つもカフェが生まれ、そこはコーヒーを飲むだけでなく、アペリティーヴォを楽しむための場所として発展しました。トリノにはムラッサーノ、フィレンツェにはカフェ・ジッリといったカフェが人気のアペリティーヴォのスポットでした。アペリティーヴォ向けとして誕生したリキュールが、ヴェルモットです。さらにカンバリなどのビターも。トリノ(ピエモンテ)、ヴェネト、そしてトスカーナなどワインの産地でアペリティーヴォのためのお酒が次々と作られました。ちなみにグラッパもイタリアの酒ですがが、食前ではなく食後酒として飲むものです。しかし今ではグラッパを使ったカクテルもアペリティーヴォに提供されるようになり、現在、イタリアのミクソロジー界ではイタリアのスピリッツとリキュールを使ってアイデンティティを表現することが重視されています」。
カクテルというと素人には難しく思えるが、ワインスティラリーのスピリッツ&リキュールはソーダやトニックウォーターなどを使うごくシンプルな割り方でも個性的な味わいが楽しめる。そもそもアペリティーヴォに難しい仕来りはないのだから、自由に遊んでみたいものだ。