ポリフェノールを自在に操る。新しいフェーズに入ったEVオリーブオイル
1990年、地中海沿岸地域では健康で長生きする人の割合が高いという調査結果が、世界中の関心を集めた。メディテラネアン・ダイエット、日本では地中海式ダイエットという言葉で、痩身を期待できるものと混同されたこともあるが、本来は健康と長寿が期待できる食生活を示す。具体的には、野菜、果物、穀物、そしてオリーブオイルがベースの食生活である。オリーブオイルは体に良いというのは数千年も前から人々の知識にあったが、その原因や成分分析が明らかになったのはごく最近のことである。オレイン酸という脂肪酸の効能、次いで、はるかに微量だがポリフェノールがもたらす利点が詳しく解明され、しかもオレイン酸は味としては感知できないが、ポリフェノールは味わいに大きく影響することがわかったのである。 昔から、プーリア州バーリで生産されるオリーブオイルは、苦味と辛味が強いと言われてきた。それがまた野菜とよく合うので、野菜王国プーリアだからオリーブオイルもそれに合わせるように進化してきたのかもしれない、というような想像で語るのはもう過去のこと。バーリとその近郊で主要な品種であるコラティーナ種は、本質的に多くのポリフェノールを含み、それゆえ苦味と辛味の明快なオイルが出来やすいのである。ただ、その恵まれたポリフェノールをどのように高い純度で引き出すかというのは、農場や搾油場の職人の経験に頼るほかはなかった。しかし、21世紀の今、アクティヴ・イタリア社(Active-Italia)の長年の研究により、人の手でほぼ思い通りにポリフェノールの含有量を操ることができるようになったのである。 同社は10年以上、オリーブオイルに含まれるポリフェノールの栄養学的な見地だけでなく薬用効果をも研究し、ラ・サピエンツァ・ローマ大学と共同で、その技術の精度を高めてきた。そして、オレオカンタール、オレアセイン、チロソール、ヒドロキシチロソールといったポリフェノールの分子を高い純度で引き出すことに成功。コラティーナ種の生まれ故郷であるプーリア州コラートの地で古くからオリーブオイルを生産するオレイフィーチョ・サンニコーラ社(Oleificio Sannicola)とともに、ポリフェノール含有量を科学的にコントロールしたオリーブオイルの製造に着手した。 その製造方法の詳細は特許で保護されているため開示されていないが、ポリフェノールが多く含まれているまだ若い実を早朝に収穫、3時間以内に搾油工程に移し、洗浄から破砕、練り、抽出、保管に至るまでの全ての工程の温度、時間の管理を徹底するという、上質なオリーブオイルを製造する基本的なことを踏襲した上で、さらに細やかな技術が随所で効果を発揮しているという。オリーブオイルのポリフェノールの含有量は、品種、オリーブの栽培環境、栽培方法、収穫時の状況、抽出方法、保存方法など様々な要因によって変化するが、アクティヴ・イタリア社は、健康なオリーブの実がもたらす恩恵を安定して享受できるようにしたのである。 その“恩恵”を最大に昇華させたのが、「SUPREME」と呼ぶコラティーナ種100%のオリーブオイルだ。一般的にポリフェノールが250-300mg/kgもあれば優れているとされるのに対し、SUPREMEは2800mg/kg。つまり、10倍のポリフェノールを含有する。そしてその50%以上がオレオカンタール(辛味の要因)とオレアセイン(苦味の要因)で、辛味・苦味の官能検査では、それぞれ10点中9点という高い評価を出している。10点に達するものは実際にはないので、これは相当に辛くて苦いということになる。青々としたフルーティさも8点を超えるので、あえていうならオリーブオイルの原液という感じだ。このSUPUREMEは、料理に使うというよりも、100%自然由来のサプリメントといいう位置付けである。EFSA(欧州食品安全局)によると1日当たり5mgのポリフェノールを摂取すると酸化ストレスが低減し、脂肪の代謝を助けるというから、1日スプーン1杯SUPREMEを摂取すれば十分ということになる。 もっとオリーブオイル本来の、毎日の食卓で使うという目的に適ったオリーブオイルもある。「OLEISSIMO」というブランドで、コラティーナ種、そしてオリアローラ種をそれぞれ単一で使用したオイルだ。オリアローラ種はコラティーナに比べると刺激は少ない。しかし、青々としたフルーティさ、レタスや刈ったばかりの青い草を思わせる香り、さらにアーモンドのような優しい味わいが加わった、バランスよく奥行きのあるオリーブオイルとなる。OLEISSIMOの中で最もベーシックな「PRIMA」シリーズの「CLASSICA」はコラティーナ種100%だが、苦味・辛味は控えめで、コラティーナ・ビギナー向けとも言える。より明快な味わいを求める向きには、「GOURMET」シリーズがいい。コラティーナ種100%の「OPERA」、同じく100%だがより強い味わいの「LIRICA」、さらに複雑さが加わったコラティーナ種100%でオーガニックの「CONCERTO-BIO」、そしてオリアローラ種100%でオーガニックの「SUPREMO-BIO」というラインナップだ。実際にCONCERTO-BIOとSUPREMO-BIOを試飲したが、前者は青い香りが鮮烈で、辛味・苦味は感じられるが突出しておらずバランスよく感じ、余韻が長い。料理と合わせるなら、野菜たっぷりのプリモ・ピアット、鶏肉など白身肉の料理、マグロのカルパッチョ、グリルなどが良いという。後者はコラティーナ種のオイルに比べてポリフェノール含有量が抑えられているので苦味・辛味の刺激は少ないが、青々としたフルーティさは鮮やかで、植物らしさを感じさせる。微かにアーモンドのような甘さもあり、エレガントな印象だ。パスタ、リゾット、ブルスケッタ、焼き野菜、茹で野菜、サラダに、そしてアーモンドの風味がジェラートにもよく合うという。 アクティヴ・イタリア社はその技術力を駆使し、新たにユニークなラインも立ち上げた。「AQUASUMMA」というブランドで、オリーブオイルから抽出したポリフェノール分子をビーナッツオイル、グレープシードオイル、ひまわり油、米油、大豆油に添加した、これまでにない食用油である。オリーブオイル由来のポリフェノールは、抗酸化などの健康効果だけでなく、オイル本来の特質を保持するという役割も果たす。この中でひまわり油を実際に味わってみたが、微かながらも明らかにオリーブオイル的な風味を感じるのが衝撃的だった。油臭さが全くなく、種由来の甘みを感じる。オリーブオイル由来の個性を求めないドレッシングや、他の素材の味・香りを強調したい時に適しているだろう。AQUASUMMAは、健康を考えながらさまざまなオイルを使い分けたり、味わいの違いを利用したいという消費者に新しい選択肢を提供するシリーズだ。 再びオリーブオイルに戻るが、アクティヴ・イタリア社が確立したポリフェノールを自在に操る技術は、オイルにどれだけ残すか、だけでなく、必要に応じて、どれだけ排出するかということも可能にした。ポリフェノールをコントロールすることで求める味わいを作り出せる。つまり、例えば、デリケートな味わいを求める日本の好みに合わせることが可能となったのだ。ほぼ一次農産品であり、自然条件に左右されるものと言われてきたオリーブオイルの製造は、新しいフェーズに入ったと言える。しかしそれでも、健康なオリーブの実あってこそ。地球温暖化によるオリーブ栽培の危機をいかに乗り越えるかが、この新しい段階を確固たるものにする鍵になるだろう。 Active-Italia S.r.l. https://active-italia.com/en/                

SAPORITAをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。