イタリア料理、ユネスコ無形文化遺産への道

イタリア料理がユネスコ無形文化遺産認定に向けて着実に歩み始めている。現在イタリアにおける世界遺産は「フィレンツェ歴史地区」「ヴェネツィアとその潟」「アマルフィ海岸」など59ケ所が認定されており、現在世界最大である。また無形文化遺産に関しても「ナポリピッツァの職人技」「イタリアにおけるトリュフの探索と採集、伝統的な知識と実践など」「移牧、家畜の季節的な放牧」「地中海食」といった食関連をはじめ、合計19を誇るが、実はそのうち「イタリアにおけるトリュフの探索と採集、伝統的な知識と実践など」「移牧、家畜の季節的な放牧」「地中海食」はイタリア単独ではなく他の国々との共同認定。特に「地中海食」が無形文化遺産に認定されたのは2013年のことでイタリア以外にキプロス、クロアチア、スペイン、ギリシャ、モロッコ、ポルトガルという合計7ケ国での共同認定だったのだ。

「地中海式ダイエット=Dieta Mediterranea」が注目されるようになってからすでに30年ほどになるが、Dieta Mediterranea発祥の地であり、本場を自負するイタリアとしては「イタリア料理」を単独で無形文化遺産に、という動きは以前からあったのだ。それにはおそらく「フランスの美食術」(2010年)、「和食:日本の伝統的な食文化、特に新年祝賀」(2013年)といった食に関して世界一を競い合うライバル国の単独認定、という背景もあるのかもしれない。現在はイタリア政府や関連省庁はじめ多くの団体や企業がイタリア料理の無形文化遺産認定に向けて力強いバックアップを続けている。

2024年7月にはラグビー・イタリア代表が来日して日本代表と札幌で親善試合を行ったが、
イタリアラグビー連盟もまた、イタリア料理の無形文化遺産化に協力する団体のひとつ。試合に先立ちイタリア大使館でセレモニーが行われた際には、駐日イタリア副大使はじめ多くの関係者がイタリア料理についてアピールしたが、その際に登場した料理がまたすごかった。バルバレスコ、バローロ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノといったイタリアワイン数十種類とトルテッリーニ、リゾット、フレーグラなどのパスタや骨つきTボーンステーキ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナなどの料理がずらりと並び、体格の良いラビー選手たちが次々にたいらげてゆく、それはそれは圧巻な光景だった。

無形文化遺産認定を強力に推し占めている中心人物はフランチェスコ・ロロブリージダ農業大臣であり、イタリア料理とスポーツを結びつけることの重要性についてつねに強調している。正しい栄養価に富むイタリア料理は健康的なライフスタイルの象徴であり、それはスポーツにも通じるという考えだ。例えばイタリアのプロサッカーチームは試合前に必ずパスタを食べることは有名であり、ラツィオではいつもリガトーニ・カチョ・エ・ペペを食べるというのも、パスタが持つ地方性を表すエピソードだろう。

さらに2024年9月26日から28日までシラクーサ旧市街オルテージャ島を舞台にG7農業、漁業サミットが行われるが、テーマはサステイナビリティで。その際にもロロブリージダ大臣を中心に、農業漁業だけでなく環境や建築、美術、などイタリア文化と食の多様性を世界の首脳たちにアピールすることになるはずだ。

また2024年8月25日から30日にかけては、世界で一番美しい帆船といわれるアメリゴ・ヴェスプッチ号が東京を訪れる。これは2023年から1年8ケ月かけて行われるアメリゴ・ヴェスプッチ・ワールドツアーの一環で、現在同船は世界5大陸の31ケ国を訪問する大航海に出ている。アメリゴ・ヴェスプッチとはフィレンツェ出身、大航海時代の探検家でカリブ海や南米大陸への調査に出かけ、アメリカの語源は彼の名前に由来すると言われている偉人だ。その偉人の名前を冠したアメリゴ・ヴェスプッチ号は1931年以来、イタリア海軍兵学校の士官候補生に航海経験を積ませる練習帆船として過去幾度にも渡って世界公開の旅に出ている。偉大な探検家の名を冠した帆船に乗り込み、七つの海を航海することはイタリアの士官候補生たちにとって素晴らしい経験となるはずだ。

ジェノヴァからスタートした同ツアーは今後東京のあとダーウィン、シンガポール、ムンバイ、アブダビ、ドバイ、ジェッダと訪問する予定だが「イタリア料理」の無形文化遺産認定に向けて世界各国にアピールする役割も果たしており、訪問先各地でイタリア料理をテーマにしたイタリア・ヴィレッジ=Villaggio Italiaが開催されている。7月に寄港したロサンゼルスではダウンタウン南方にあるロサンゼルス外港にイタリア・ヴィレッジが設営され、アメリゴ・ヴェスプッチ号への乗船や、楽団によるエンリオ・モニコーネの演奏、彫刻家JAGOによるトークショーなどさまざまなアトラクションやカンファレンスが開催された。注目のイートインスペースはEATALYが運営したがこちらもロサンゼルス市民には大好評だった。東京での詳細はまだ未定だが、パスタ、ピッツァ、ワインなどを中心にした、イタリア料理の魅力を日本にPRする貴重な場となることは間違いないだろう。


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