今、那覇で体験すべきレストラン MOSS okinawa






那覇市中心部にある「HOTEL STRATA NAHA ホテルストレータ那覇」は濃厚な緑に囲まれたホテルだ。その中庭を抜けると琉球赤瓦が沖縄らしい風情を醸し出すレストラン「MOSS okinawa」がある。離れのような外観とは裏腹に、その料理はというと現代沖縄のエッセンスを凝縮させたガストロミーなのだ。テーマは「和琉洋才」、すなわち和と琉球の文化、食材を洋のコンテクストに置き換え、料理人の才で比類なき料理へと昇華させる。才の主役となるのは中村寿之シェフだ。
中村シェフは「ラ・ロシェル」坂井宏行シェフに10年間師事した後独立して今帰仁村にカフェ&⺠泊を開業。「CROSS TOKYO」副料理⻑、「CROSS GRILL POT HOUSE/CROSS FOOD LAB」料理⻑を経て2023年「MOSS Okinawa」2代⽬料理⻑に就任した。その実力はすでに内外から高く評価されており「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2024」では全国で7名のみの「フォーカスシェフ」に選出されている。和漢薬膳師、お⾁ソムリエ、漢⽅茶アドバイザーの資格も保持していることから「医食同源」に関する見識も深く、沖縄の生産者と交流することで食材や沖縄の食文化からインスピレーションを得ている。12席限定のカウンター正面に見えるのは薪を使った石窯。中村シェフは約500度に達する石窯ならではの高温を生かし、独創的な料理を次々と創り出す。

今回体験したのはMENU VOYAGE「旅するメニュー」と題されたコースで、まず最初に登場するアミューズ・ブーシュが「SHOKADO-9」だ。これは中村シェフが恋したという沖縄食材の前菜盛り合わせで、左上から時計回りに久米島・山城さんの赤鶏 薬膳スープ。読谷村・國吉さんのゴーヤ チャンプルー。石垣島・町田さんの南ぬ豚 ミヌダル。国頭村・外間さんのエリンギ ボルドレーズ。糸満市・金城さんのブロッコリー キャビア。宮古島・高田さんのアカジンミーバイ。南城市・比嘉さんのピーマン クーブイリチー。来間島・本村さんのシークァーサーモズク。那覇市・花城さんのジーマーミ豆腐 雲丹。いずれもどこか懐かしい沖縄の味を連想させながらも中村シェフの技術がきらりと光る松花堂で、沖縄を代表する様々な食材を味わう。







「沖縄県産島牛蒡のブルーテ グンボーマチ風」はなめらかな島牛蒡のスープ。グンボーマチ=牛蒡巻きとは沖縄のおもてなし料理のひとつで、島牛蒡に豚肉を巻いた料理。中村シェフは島牛蒡のスープにベーコンや生ハムのチップスで動物性の旨味をプラス。大地の味と香りがする、上質なスープ。続いて「伊是名米のジューシーリゾット フォアグラ イカ墨 マデラソース」フランス料理のフィルターを通すとリゾットはここまで昇華するのか、という驚きの料理。リゾットは石窯で香ばしく焼いてあり焼きリゾットやパエリアを思わせる食感。そこにフォワグラと甘いマデラソースのコンビネーション。「宮古島の素潜り漁師・高田さんの鮮魚 ドルワカシー 宜野座村ぴりなファームのトマト」にはシロクロベラと呼ばれる沖縄の高級魚マクブを使用。これを塩麹と泡盛でマリネしたあと3週間熟成させてある。肉質はねっとりで旨味が凝縮して、月桃の葉の香りが心地よい。付け合わせは郷土料理ドゥルワカシーに着想を得た田芋のガレット。トマトやハーブを使ったオリエンタルなタイ風のソースや、釣り師の人形に添えられたバジルナンプラーを数滴垂らし、味の変化を楽しむ。
肉料理は「鹿児島県産屋久鹿の芯玉 南風原町モリンガファームの無農薬ビーツ」。貴重な屋久島の鹿肉の旨味と香りを閉じ込めるように、ビーツとともに石窯でロースト。その高貴な味わいに恍惚となる。締めのヌイユは「マジャーランド宮古島のもずく麺 白湯 あさり 鰹 手羽先 豚足 XO醬」平くいうならばもずく麺のつけ麺なのだが、もずく麺の食感もさることながら複雑なスープにうなる。様々な動物性の旨味をかけあわせる沖縄伝統のスタイルながら上質かつ、それぞれの食材の味がはっきりとわかる極上の薬膳スープ。そして最後の「MOSS Terrarium 苔結び」も素晴らしかった。これは苔玉=MOSSに見立てた冷製デザートのヌガーグラッセで、中にはドラゴンフルーツとパイナップル、マイヤーレモン、アーモンド、ピスタチオ、キャラメリゼしたクルミが入っている。冷たい柑橘の清涼感にナッツのコクが加わり、コースを締めくくりながらも長い余韻がいつまでも消えなかった。
中村シェフは沖縄の食材や郷土料理をベースにしつつもそこにフランス料理ならではの技術や味付け、食材を駆使して縦横無尽の料理を作り出す。しかしその根底に流れているのは沖縄に対する敬意の念と愛情。那覇を訪れたならば、これから向かう沖縄北部や離島など、さまざまな出会いに満ちた旅への期待で胸が高まることだろう。しかしまず「MOSS okinawa」で「和琉洋才」を体験してみてほしい。いきなり訪れる美食のハイライトにその後の沖縄の旅の記憶が色褪せてしまうような料理の数々。現代の那覇で食べたい料理の筆頭に上げたいのが「MOSS okinawa」の「和琉洋才」だ。
MOSS okinawa
沖縄県那覇市牧志1-19-8 ホテル ストレータ那覇内離れ
TEL : 098-860-7409
https://www.mossokinawa.com/
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