来日直前マッシモ・ボットゥーラ独占インタビュー

2025年9月9日(火)〜14日(日)にかけて「オステリア・フランチェスカーナ」のシェフ、マッシモ・ボットゥーラが来日する。今回は「大阪来てなキャンペーン “Top Chef in OSAKA 2025”」の一環としてホテルニュー オータニ大阪を会場に6日間にわたって行われるポップアップで「オステリア・フランチェスカーナ」が史上初めて大阪のファンの前に登場するのだ。来日直前のボットゥーラに大阪に対するイメージや今回の意気込み、メニュー構成、30周年を迎えた「オステリア・フランチェスカーナ」のこれまでの活動などについて話を聞いた。

初めての大阪に対するイメージは「笑いと笑顔の街」

わたしはすでに何十回も日本に来ていますが、実は大阪に行くのは今回が初めてです。皆さんご存知のようにわたしは日本が大好きですし、日本人スタッフとは何十年も一緒に働いています。彼らから聞いた大阪のイメージとは「笑いと笑顔の街」。ですから今回のメニューには大阪と瀬戸内の食材を使うだけでなく、思わず笑みがこぼれるようなユーモアとウィットに富んだ料理をお出しします。それこそがわたしが考える「大阪」です。大阪の食材を使用し、皆さんが大阪に期待するものを「オステリア・フランチェスカーナ」の料理を通じて体験する、ということが何よりも重要なのです。大阪は食の都です。例えば日本の食材というと誰もが北海道のウニを想像しますが、大阪では瀬戸内の魚介類を使わなければ意味がない。大阪が誇る山の食材や海の食材、それらはすべてガストロノミーと文化の十字路でもあります。

大阪食材を使った今回のメニューについて

最初にまず5つの料理を思いつきましたが、次第に6皿、7皿と増えていきました。なぜならどの料理も外したくなかったからです。「オステリア・フランチェスカーナ」では料理名も非常に大切です。誰もが大阪は笑いの街だというので、笑いや時には皮肉もまじえた料理名にしようと思いました。

最初は「ズッパ・ディ・ペッシェ Zuppa di pesce」ですがこれは大阪の魚市場をイメージし、瀬戸内産の魚介を凝縮させた一口サイズのズッパです。次に「メランザーナ Melanzana」。日本の芸術とは一見シンプルに見えるものの、実はその中には複雑な要素がからみあっています。「オステリア・フランチェスカーナ」の料理も同じです。「メランザーナ」はナスを山椒と一緒にグリルしてからハチミツを塗ってローストすることで、焦げ目のような外観に仕上げてあります。皮のように見えますが実は皮ではない、そこがポイントです。つまりこれは「Miseria e nobiltà=貧富」の表現です。「Miseria e nobiltà」とはナポリの伝統で、例えばナポリの劇場は素晴らしいものですがそこで上演されるのは実にシンプルな芝居で、そのコントラストこそが「貧富」なのです。

昨年発表して多くの賞を受賞した「グラニャーノ・ア・バンコク Gragnano a Bangkok 」というパスタがありますが、今回は大阪に敬意を表し「グラニャーノ・ア・オーサカ Gragnano a Osaka」と名付けました。つまりパスタの故郷グラニャーノから大阪への旅ですね。これは全て大阪の食材を使用したカルボナーラの新バージョンです。

「ラ・パルテ・ピュウ・クロッカンテ・ディ・ラザーニャ La parte più croccante di Lasagna」はわたしの子供時代の記憶を再現した料理です。ピカソは子供の頃、指を使ってラファエッロのような絵を描いていたといいますが、我々も子供心を持って料理をします。このラザニアを割って口にすることで、誰もが子供の頃の記憶に戻ることでしょう。「ビューティフル・サイケデリック・ステーキ Beautiful psychedelic spin – painted veal, not flame grilled 」のように、アートとは料理における重要な要素です。野菜も肉も全て大阪産で、われわれはとにかく大阪食材を使うことに集中しました。食材はあくまでローカルですが、思考はグローバルです。

初めて大阪で発表するプレデセールが「ノット・ウォーホル、ノット・カッテラン、ソロ・バナナ・エ・ユズ Not Warhol, not Cattelan, solo banana e YUZU」。これはアンディ・ウォーホルの作品「バナナ」を題材に超現実主義的解釈を加えた料理です。外観はウォーホルの「バナナ」なのですが、実はバナナのババレーゼとユズ、ユズを凝縮してバナナの中に詰めてあり、スプーンで割って食べる。料理にもユーモアを詰め込んで大阪らしさを表現しました。

最後のデザートが「ウップス、落ちたレモンタルト Oops! I dropped the lemon tart」ですが、これはタルト生地を誤って割ってしまったという失敗から生まれた料理で、不完全さの象徴。人間とは不完全な生き物なのです。レストランという完璧な料理やサービスが要求される空間において、不完全な割れたタルトとは感動を伝えてくれるものなのです。ランボルギーニはこの料理にインスピレーションをえてその名も「Oops!」という白地に黄色のペインティングのスペシャルエディション車を作ったほどです。

なぜ今回大阪に来ることを決めたのですか

わたしは日本が大好きで日本とは非常に関係が深く「オステリア・フランチェスカーナ」では大勢の日本人スタッフがこれまで働いてきました。わたしは世界四大料理とはイタリア料理、日本料理、フランス料理、中国料理だと常々思っています。しかしフランス料理と中国料理は技術とソースを優先する傾向にあり、時にはソースが食材を覆ってしまうこともあります。それは料理人の技術を食べているようなものです。イタリア料理と日本料理は素材優先で、素材に対するこだわりには相通じるものがあります。ですからイタリア料理を学ぶ日本人が多いんですね。実際のところ日本は、世界の中でもイタリアについでイタリア料理が美味しい国だと思っています。イタリア料理も日本料理も、料理技術とは食材の味を最高に引き出すために使うのであって、料理人のエゴのために使うのではないのです。

わたしにとって日本は常に重要な国です。もう何十回も行ってますし、いつも東京についたらまず地下鉄に乗って「すきやばし次郎」にいきます。時には予約もせずに1人でぶらっと。小野二郎さんが一度だけ「すきやばし次郎」からイベントで外に出たのは、わたしが頼んだ延岡でのイベントのみです。たくさんのジャーナリストが小野二郎さんに質問しました。「今回なぜこのようなイベントに参加されたのですか」と。小野二郎さんは「マッシモに頼まれたから」と答えてくれました。「なぜならマッシモは世界で最も優れた味覚を持つ人だから」ともいってくれました。小野二郎さんは毎日最高の食材を選ぶ職人です。こうした日本との関係もわたしにとっては非常に重要なのです。

「オステリア・フランチェスカーナ」30年の活動を振り返って

「オステリア・フランチェスカーナ」は1995年のオープンなので今年30周年を迎えますが、振り返ると、とても長い道のりでとても濃密な時間でした。イタリアという料理において保守的な国で考えうるあらゆる賞をいただき、そうした認知度のおかげで「Food for soul」「Tortellante」のように社会を変革する活動が生まれました。30年間が経ちましたがわたしにはつねに未来があります。わたしは革新のために生まれてきたのですから。また「グッチ・オステリア」「トルノ・スービト」のようなパートナーシップというフォーマットも生まれました。でも「オステリア・フランチェスカーナ」のイメージは売りたくなかった。「オステリア・フランチェスカーナ」とはモデナで生まれモデナで死ぬのです。「オステリア・フランチェスカーナNY」「オステリア・フランチェスカーナ香港」など多くのオファーを断りましたが、われわれにとってお金は最優先ではないのです。

今回来日するにあたっての日本へのメッセージは?

現代料理とは素材の素晴らしさや秀逸なアイディアだけにとどまりません。美味しいだけの料理とは、次の日に別の美味しい料理を食べたら忘れられてしまうものだからです。しかしわたしは料理を通じて感動を伝えたい。わたしが作る料理とは劇場のような総合芸術です。料理とは人の記憶、文化、ユーモアなど心の深い部分に届くべきだと思います。それこそが「オステリア・フランチェスカーナ」が世界中のどのレストランとも異なる点だと思います。


■「Top Chef in OSAKA 2025」開催概要
実施期間:2025年9月9日(火)〜14(日)6日間ランチ・ディナーそれぞれ2回/日
実施場所:ホテルニューオータニ大阪 フランス料理 「SAKURA」(18F)
〒540-8578 大阪市中央区城見 1-4-1
価格:10万円(予定)アルコールペアリング35,000円、ノンアルコールペアリング15,000円(いずれも税・サ込)
予約:https://www.newotani.co.jp/osaka/restaurant/sakura/osteria-francescana/
問い合わせ:Tel.06-6949-3229
各種情報:
大阪来てなキャンペーン:https://osaka-kitena.jp/event/tco2025
ホテルニューオータニ大阪:https://www.newotani.co.jp/osaka/restaurant/sakura/osteria-francescana/
主催:大阪府・大阪市・大阪来てなキャンペーン実行委員会
特別協力:ホテルニューオータニ大阪


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