棚田に囲まれた静寂な温泉宿「界 湯布院」

大分県の由布院は古くから温泉地として知られてきた。湯布院温泉は江戸時代にすでに記録が残っており、明治以降は観光地としての整備が進んだ。標高約400メートルに広がる由布院盆地は、冷涼な気候と豊かな水源に恵まれ、農業とともに温泉文化が発展してきた地域である。特に女性の一人旅や芸術文化と結びついた観光地として知られ、昭和後期からは「癒やしの温泉地」として全国的に人気を集めてきた歴史を持つ。

「界 由布院」はそんな由布院の中心部から離れた、自然に囲まれた最高のロケーションに立つスタイリッシュな温泉宿だ。その最大の特徴は、日本の里山の象徴でもある棚田に囲まれた静寂感ある佇まいだろう。特に棚田に面して立つ2棟限定の「棚田離れ」は露天風呂付きの1棟建ての離れ。夕闇が訪れるころには周囲の棚田と一体化したような幻想的な風景に包まれる。今回滞在した「くぬぎ離れ」もまた1棟建ての露天風呂付き離れで、くぬぎ林の中に佇むように建てられている。ソファがある広い居間からはくぬぎ林の借景が楽しめ、庭に出れば露天風呂がある専用の湯小屋がある。晩夏に蝉の声を聞きながら入る露天風呂は、旅の疲れを芯から癒してくれた。

「界 由布院」では宿泊客を楽しませてくれるさまざまなアクティビティも用意されており、そのひとつが「本格焼酎ディスカバリー」。大分といえば麦焼酎が有名だが、このアクティビティではまず3種類の地元産麦焼酎をブラインドで試飲。専属スタッフの説明を聞きながら大分焼酎の魅力に触れ、知識を深めることができる。

「温泉いろは」では「界 由布院」の湯守りが、由布院温泉の歴史・泉質や効果的な入浴法を紙芝居形式で説明してくれるので、あらかじめ適切な入浴方法や効能などを知ることで温泉タイムがより一層楽しめる。

また「界」ブランドでは各地の伝統を伝える「ご当地楽」が開催されているが「界 由布院」には「原風景を感じる、わら綯い体験」ができる。これは農閑期に行われている手仕事「わら綯い」を通して、わらでお守りを作る体験。自分の手で作ったわらのお守りは、きっと由布院の良い思い出となるはずだ。

「界 由布院」のもうひとつの魅力はなんといっても料理だ。今回湯上がりにいただいたのは、地元九州の食材をふんだんに使った「山のももんじ鍋会席」だ。まず先付けとして登場するのが「猪と椎茸の最中パテ」。猪の肉をパテにして最中のつめてあり、ほんのりと温かい。大分の山の恵みがしみじみと伝わってくるような味わいだ。続く煮物椀は「土瓶蒸し 甘鯛 海老真薯 茸 三つ葉」でこの日は松茸と黒舞茸だった。芳しい松茸の吸い物を味わい、山と海の幸を楽しむ。続く「宝楽盛り」では八寸、お造り、酢の物が一度に盆に乗って現れた。合鴨ロースや秋刀魚丸、クリームチーズ有馬味噌漬けやマグロ、タコ、真鯛などを肴に地元大分の大吟醸を味わう至福の瞬間。揚げ物に続いて登場したのがこの日のメイン「山のももんじ鍋」だ。これは鶏、豚、猪を特製の鹿の出汁汁にくぐらせてしゃぶしゃぶにしていただく。猪の上品な滋味には、あらためて大分の自然の恵みに感謝したくなった。

快晴の翌朝、チェックアウト前に「棚田テラス」に出て、青い稲穂が風になびく棚田を見つめる。スタッフ自らが田植えし、手入れをしているという広大な棚田は、四季ごとに異なる表情を見せてくれるという。春ならば水を張った田に周囲の山や空が映り込み、夏は青々とした稲穂が風にそよぐ。秋ともなれば黄金色に輝く稲穂が風に波打ち、冬には霜や雪化粧が幻想的な景色を生み出す。棚田の風景は由布院の心象風景であり、「界 由布院」を訪れた人々の心を癒してくれる。またいつかこの場所に戻ってくる時も棚田は変わらず、旅人を優しく出迎えてくれることと思う。


information
界 由布院
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiyufuin/


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