鍋島の故郷を訪ねて3 鍋島オーベルジュFUKU







富久千代酒造最初のオーベルジュ「御宿 富久千代」に続く第二のオーベルジュとして2025年5月にオープンしたばかりなのが「鍋島 オーベルジュ Fuku」だ。「鍋島 オーベルジュ Fuku」もまた肥前浜宿の酒蔵通り、富久千代酒造と「御宿 富久千代」のちょうど中間あたりに位置する。「鍋島 オーベルジュ Fuku」もまた、重要伝統的建造物群保存地区にある建物を守り、まちづくりのために活用したいという願いから生まれた。それは伝統的なアセットを新たなツーリズムへと変換、昇華させる「アルベルゴ・ディフーゾ」に似たプロジェクトでもある。
「鍋島 オーベルジュ Fuku」は建築家、隈研吾氏の設計によるものだ。内装には伝統的な組子の技術を用いた照明を製作し、各階にランダムに浮遊させている。一階にあるレストランは和紙と網代で柔らかく包み、二階の客室には漆黒の空間「瞑想室」があるように既存の土壁を黒く塗り、レストランスペースと客室とで空間を異なる世界観を表現している。今回泊まったのは別邸「とと」。これはかつての商家「魚屋(ととや)」に由来するものであり、こちらもやはり一棟貸し。1階のリビングからは広い庭が庭たせ、プライベートサウナと、眺めのよい風呂がある。1階と2階両方にベッドルームがあるが、この夜は1階のベッドルームでライトアップされた庭を見ながら眠りについた。







「鍋島 オーベルジュ Fuku」でもまた本格的和食と「鍋島」が楽しめる。料理長は京都嵐山吉兆出身の小竹雄一朗氏。和食出身でありながらスペインの「エチェバリ」での経験も持つ、グルーバルや視野を持つ料理人だ。小竹料理長もまた、一品ごとに手の込んだ料理を創るとともに、それにあわせた独自の「鍋島」ペアリングも行っている。ある日の料理は以下の通りだった。








食前酒 / 鍋島 大吟醸 山田錦
海水ウニ 竹崎のワタリガニ オクラ 煎り酒のジュレ / 鍋島 純米大吟醸 きたしずく
すっぽん 新蓮根 冬瓜 松茸 / 鍋島 純米 白菊
お造り 唐津の真鯛 クエ ノドグロ 胡瓜のみぞれ 大葉の素揚げ / 鍋島 特別純米 山田穂 純米大吟醸 山田穂
八寸 イクラ 海苔 ニシガイ ツルムラサキ ソバの実 車海老 イチジク / 鍋島 純米大吟醸 吉川産山田錦
マナガツオの天ぷら のびる 枝豆の餡 / 鍋島 純米大吟醸 活性にごり酒
佐賀牛フィレ ズッキーニ 茗荷 / 鍋島 ブラックラベル
カボチャ 丸茄子 椎茸 / 鍋島 特別純米赤穂雄町米
土鍋ご飯 鮎 万願寺唐辛子 / 鍋島 特別純米 山田錦
パイナップル / 鍋島 純米吟醸 愛山
自家製水羊羹 抹茶
いかがだろうか。これもまた九州産の旬の食材を中心に技巧を凝らした料理の数々に、それぞれ「鍋島」をあわせたもの。前夜の「御宿 富久千代」西村料理長が見たてた「鍋島」と同じなのは2種のお造りにあわせたダブルペアリングの特別純米 山田穂、純米大吟醸 山田穂、活性にごり酒、ブラックラベルのみ。お造りとあわせる2種類の山田穂、「御宿 富久千代」「鍋島 オーベルジュ Fuku」でしか飲めない活性にごり酒、そして今回飲んだ中数多くの「鍋島」の中でも最高峰と感じたブラックラベル。いずれもできることなら毎晩飲みたい、他の酒に変えないでほしいと頼みたいぐらいの極上の酒だ。小竹料理長の料理もまた、あくまで酒ありき。和食本来が持つ、献立、肴という、あくまで酒を引き立たせるための料理、という謙虚な姿勢が料理に見え隠れする。しかし素材や技術は素晴らしく「鍋島 オーベルジュ Fuku」でしか味わえない素晴らしい料理だった。




最後にもう一軒、富久千代酒造が経営する「カフェ・ブリュー」を紹介しよう。「御宿 富久千代」と違って「鍋島 オーベルジュ Fuku」には朝食がついていないので、宿泊客はこちらのカフェで朝食をとることになるが、ランチタイムにはパスタを中心にしたイタリア料理を提供する。こちらの料理長はかのサローネグループ出身の江口貴啓シェフ。「ロットチェント」などを経て「カフェ・ブリュー」料理長に就任した。パスタランチは通常3種類から選ぶタイプだが、この日は「アミエビのタリアテッレ」。ピエモンテ料理を敬愛する江口シェフはタヤリンと呼び、毎日この手打ちパスタをメニューに組み込む。このでも「鍋島」がいただけるので最後にもう一度「鍋島」を堪能したい方はパスタに合わせて選ぶのもいいかもしれない。実際に訪れてみればわかると思うが、店内には80年代の名作、スタイル・カウンシルの「カフェ・ブリュ」のアルバムが飾ってある。こちらもまた「鍋島」の世界観に合うスタイリッシュかつ、常にモダンな不朽の名作なので、興味がある方は「鍋島」飲みつつ耳を傾けてみてほしい。
今回の肥前浜宿への旅では「御宿 富久千代」「鍋島 オーベルジュ Fuku」2ケ所のオーベルジュに泊まり、「鍋島」を18種類味わった。それぞれが単独でも素晴らしい個性を放つ酒であるのは無論だが、料理の流れにあうペアリングでいただくとひとつの名作アルバム、たとえばスタイル・カウンシルの「カフェ・ブリュ」あるいはワーグナーの交響曲、たとえば「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を聴いているような気持ちになる。硬軟強弱、南船北馬、美味い酒を飲ませるという唯一の目的のために、これほどまでにあらゆる準備を用いてゲストをもてなす、そんな酒蔵オーベルジュは他に思いつかない。1日1組限定と予約困難度は高いが「鍋島」を味わうためだけに肥前浜宿を訪れる、そんな美食愛好家たちに体験していただきたい宿だ。
鍋島 オーベルジュ Fuku
佐賀県鹿島市古枝甲125番地
Tel:0954-60-4770
https://www.fuku-nabeshima.com/
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