マッシモ・ボットゥーラ大阪に降臨!! 大阪食材を使用した特別料理を一挙紹介

事前告知記事やインタビューなどでお知らせしていたが「オステリア・フランチェスカーナ」シェフ、マッシモ・ボットゥーラが2025年9月9日(火)〜14日(日)の間「ホテルニュー オータニ大阪」にてポップアップイベントを行った。これは「大阪来てなキャンペーン“Top Chef in OSAKA 2025”」の一環で、大阪産の食材でメニューを構成することで大阪産の食材をPRするとともに、生産者や料理人をはじめとした大阪の食業界の活性化にも貢献するプロジェクトだ。

今回は記念すべき初日のディナーに「ホテルニュー オータニ大阪」を訪れ、開始30分前からボットゥーラを待つが、本人が会場に現れたのはディナー開始時間の直前。「チャオ・ヴェッキオ」と例によってモデナ風の挨拶を交わし、お互いに近況報告を終えると「じゃまたあとでな」とキッチンへと消えていった。

すでに何十回と日本を訪れているボットゥーラだが、意外にも大阪はこれが初めてだという。来日前のオンライン独占インタビューでボットゥーラは「日本人スタッフから聞いた大阪のイメージとは笑いと笑顔の街。なので今回のメニューには大阪と瀬戸内の食材を使うというだけでなく、思わず笑みがこぼれるようなユーモアとウィットに富んだ料理を出したい。それこそがわたしが考える大阪だから」と話していたが今回登場する料理は果たしてどのような内容になるのか。大阪城を見下ろす最上の1番テーブルに通されると、ほどなくしてボットゥーラが登場。20分近いスピーチを終えると再びキッチンへと嵐のように去っていき、やがてディナーがスタートした。

「A Potato Waiting for a Truffle トリュフになりたい男爵いも」

それではこの夜のメニューをご紹介しよう。まず最初に登場した一口サイズのアミューズ「A Potato Waiting for a Truffle トリュフになりたい男爵いも」は男爵いものフリットに黒トリュフのトッピング。「◯◯になりたい◯◯」とはボットゥーラが多用するコンセプトで「Nord che vuole diventare Sud 南イタリアになりたい北イタリア」などいくつかの名品があるが、いずれも異なる2つのコンセプトをクロスオーバーさせた料理。トリュフになりたい男爵いも、とはジャガイモという身近な食材も調理法によってはトリュフに匹敵する美味しさになる、というクチーナ・ポーヴェラ(簡素な料理)を具現化した料理であり、ボットゥーラがいう「Miseria e nobiltà=貧富」の象徴でもある。

「Seto – Uchi Fish Soup 瀬戸内の魚介スープ」

「Seto – Uchi Fish Soup 瀬戸内の魚介スープ」瀬戸内のさまざまな海の幸を詰め込んだ、スープという名の冷前菜。ボットゥーラは事前インタビューで今回のメニューには全て大阪及び瀬戸内の食材を使用すると明言しており、一口サイズの中に瀬戸内を表現したいと話していた。「スープ」というからには名作「カムフラージュ」のようなプレゼンテーションの料理を想像していたが、その予想を遥かに超えた料理で、エビ、イカ、タイ、いくら、シーアスパラガスにくわえ、バジルソースのフレッシュさがジェノヴァのカッポンマーグロを思わせ、魚介類によく合う。

「From Gragnano to Osaka グラニャーノから大阪へ」

「From Gragnano to Osaka グラニャーノから大阪へ」これは今回の大阪で初披露するボットゥーラの新作。昨年発表したパスタ「From Gragnano to Bangkok グラニャーノからバンコクへ」はタイ料理のエッセンスを凝縮してパスタの聖地グラニャーノからバンコクへの旅を表現。「Guida Espresso」では年間最優秀料理賞=Dish of the yearを受賞したが、これはその大阪バージョン。グラニャーノ生まれのパスタが大阪へ旅したとしたらどうなるか?をコンセプトに瀬戸内のウニをソースにしてカルボナーラに見立てた。アサリの燻製でグアンチャーレを表現し、ニンニクと唐辛子、レモンの効かせ方が絶妙。イタリアンパセリのグリーンオイルも見目麗しく、一体感、完成度ともに素晴らしいパスタ。このコンセプトは今後さまざまなシーンで応用できるのでは、と思わせる。

「Melanzana メランザーナ」

「Melanzana メランザーナ」賀茂ナスで肉のような食感をイメージしたかったとボットゥーラ。賀茂ナスを山椒と一緒にグリルしてからハチミツを塗ってローストすることで、焦げ目のような外観に仕上げてある。ナスの皮のように見えるが実は皮ではない、それはこの後登場する「ビューティフル・サイケデリック」にも共通するコンセプトで見た目の予想を裏切ってくれる形而上学的なボットゥーラの料理の真骨頂。ディル、ほうれん草、パセリのソースは複雑かつ秀逸。

「The Crunchy Part of the Lasagna ラザニアの端っこのカリカリ部分」

ここからがハイライトだ。まずはご存じ「The Crunchy Part of the Lasagna」こと「La parte piu croccante di Lasagna ラ・パルテ・ピュウ・クロッカンテ・ディ・ラザーニャ」。これは2017年に延岡で行われたボットゥーラと「すきやばし次郎」小野二郎氏との対談後に行われたガラディナーにも登場した名作。この料理のストーリーはボットゥーラの半自伝的レシピ集「Vieni in Italia con me」にも書かれており、5人兄弟の末っ子だったボットゥーラはいつもテーブルの下に逃げ込んでは祖母が作ったラザニアのよく焼けた部分をつまみ食いしていたという思い出に由来する。一口サイズの中に全ての要素を詰め込む、というファインダイニング的発想でラザニアの最上の分のみを再構築した料理で、パスタ生地で作った赤白緑のラザニアはイタリア国旗を表す。パルミジャーノたっぷりのラグーソースにイタリア国旗をディップしながら食べるこの料理は、世界のどこで食べたとしても、この料理がイタリア料理であることを強く感じさせてくれる。

「Beautiful, Psychedelic, Spin – painted Wagyu, Charcoal Grilled with Glorious Colors as a Painting ビューティフル・サイケデリック」

メイン料理「Beautiful, Psychedelic, Spin – painted Wagyu, Charcoal Grilled with Glorious Colors as a Painting ビューティフル・サイケデリック」はボットゥーラの最高傑作のひとつである。「オステリア・フランチェスカーナ」にも飾られている現代アーティスト、ダミアン・ハーストの連作「The Beautiful Paintings」を題材にしたこの料理はアクションペインティングさながらにボットゥーラが6色のソースを皿に描くシーンが見せ場となり会場を大いに盛り上げる。その源流は故グアルティエロ・マルケージがジャクソン・ポロックの作品にインスピレーションを得た名作「ドリッピング」にある。この料理を初めてみたのは2017年ミラノで行われた「サンペレグリノ・ヤングシェフ」のガラディナーだったが、会場にはグアルティエロ・マルケージの姿もあった。ボットゥーラと何事かささやきあうその姿は「頼んだぞマッシモ」と、イタリア料理のバトンが継承される象徴的なシーンであり「ドリッピング」が30年の時を経て「ビューティフル・サイケデリック」へと昇華した瞬間でもあった。今回は黒毛和牛のフィレを低温調理し、あたかもグリルしたかのように周囲を竹炭で黒く彩る。6色のソースはそれぞれが野菜のつけあわせ=コントルノのイメージであり、ビーツ、ニンジン、ホウレンソウなどそれぞれのソースから素材の味がきちんと伝わってくる。ボットゥーラはつねづね「世界の四大料理とはフランス料理、イタリア料理、日本料理、中国料理であるが、イタリア料理と日本料理は素材重視という点で共通している。フランス料理と中国料理はソースと技術優先であり、かならずしも素材重視ではない」といっているが、このソースはそうしたフランス料理とイタリア料理の分水嶺について言及しているかのよう。

「Not Warhol, Not Cattelan, Just Banana and Yuzu ウォーホルでもカッテランでもない、そんなバナナ」

これもまた、今回が初登場となる新作のプレデセールで「ジョークが好きな大阪人のために作った」とボットゥーラはいう。見た目は長さ5センチほどのバナナなのだが、実はゆずとバナナのピューレを凍らせた冷たいデザートでその意外性とポップな感覚がいい。ボットゥーラが敬愛するアーティストであるアンディ・ウォーホルやマウリツィオ・カッテランにはともにバナナを題材にした作品があるが、これはそうした作品へのオマージュ。ウォーホルの「バナナ」は「ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」というバンドのアルバムジャケットに使用され、一方カッテランの「バナナ」とはバナナの皮を壁に貼り付けたインスタレーション。カッテランがボットゥーラの料理に強く影響を与えたことは「Vieni in Italia con me」にも書かれているが、ヴェネツィア・ビエンナーレの会場でカッテランの鳩のインスタレーションを見たボットゥーラは、高みから人間を見下ろしている鳩の姿に「あれはイタリア料理界を俯瞰から見下ろしている自分だ」と天啓に撃たれたかのような感銘を受けたという。ちなみにカッテランの鳩の作品は現在「オステリア・フランチェスカーナ」に飾られているので幸運にも席を予約できた方は次回是非見てみてほしい。

「Oops! I Dropped the Lemon Tart おっと!レモンタルトを落としちゃった」

「Oops! I Dropped the Lemon Tart おっと!レモンタルトを落としちゃった」通称「ウップス」。おそらくは最も有名なボットゥーラの料理。これは当時「オステリア・フランチェスカーナ」のスーシェフだった紺藤敬彦が盛り付けの最中にタルトを落として割ってしまったことに由来する。紺藤はその時真っ青になっていたというが、ボットゥーラは「いいじゃないか!その不完全さがいいんだ!」と紺藤をなぐさめ、割れたタルトをサーブした。完璧な料理とサービスが求められるレストランという空間にあって不完全さの象徴である割れたタルトは、ゲストにエモーションを与えてくれる、というのがボットゥーラの考え。見た目はアバンギャルドだが、その味わいはクラシックなレモンタルト。ケイパーやチェードロなど南イタリア的エッセンスもまた味を引き締める名脇役である。

全ての料理を出し終えたボットゥーラは、最後のスピーチでこう語った。「現代料理とは素材の素晴らしさや秀逸なアイディアだけではない。なぜならば、美味しいだけの料理とは、次の日に別の美味しい料理を食べたら忘れられてしまうものだから。しかしわたしは料理を通じて感動=エモーションを伝えたい。わたしが作る料理とは劇場のような総合芸術であり、料理とは人の記憶、文化、ユーモアなど心の深い部分に届くべきものだと確信している。そこが「オステリア・フランチェスカーナ」が世界中のどのレストランとも異なる点なのだ。」と締めくくると会場からは割れんばかりの盛大な拍手が湧きあがった。


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