第10回 世界イタリア料理週間 今回のテーマは”調味料”

今年もイタリア料理週間の時期がやってきた。毎年11月後半に2週間ほど、イタリア食品やイタリア料理を世界にもっと知ってもらう機会として国を挙げて行うキャンペーンで、世界各地のイタリア大使館が旗振り役を担う。日本でもイタリア料理店等の協力を得て、さまざまなプロモーションが行われる。その一つとして、今年、在東京イタリア大使館貿易促進部は「調味料condimento」をテーマに掲げ、オリーブオイル、バルサミコ、海塩、ワインビネガーといったイタリア料理の根幹をなす代表的な調味料への関心と知識を深め、イタリア料理のみならず日本料理はもちろんのこと、日本の一般家庭でも応用できることを実体験を通して感じてもらうことを目標にしている。その一環として、11月24日〜12月7日の2週間にわたってレストランプロモーションを行う。

イタリア食材といえば、それだけで食卓が華やぎ、イタリア色に染まるという点では、仮にパルミジャーノ・レッジャーノ、プロシュート・クルード・ディ・パルマを頂点とすると、オリーブオイルやバルサミコはイタリアらしいとはいえ、主役にはなりにくい。しかし、これら調味料無くしてはイタリア料理は成立せず、イタリアの食らしさは失われてしまう。日本の食材を使いこなして東京ならではのイタリアン・ファインダイニングの世界を築いたルカ・ファンティンが常に語っていたように、9割以上は日本の食材で構成できてもオリーブオイルやバルサミコのように唯一無二のイタリアの食材は厳然として存在する。それは言い換えれば、それら”基本のき”を理解し、使いこなせれば、イタリア料理はいうまでもなく、自由な発想で食の世界を遊泳できる鍵を手にしたようなものである。

このところの円安でイタリア食材は高値の花となっているが、通貨為替に不変はないし、適正な価格で手に入れることが可能になる日まで賢く使いこなす術を得るべく精進するのは、決して無駄な時間ではない。そしてじっと我慢するだけでなく、レストラン側、消費者側双方から国に向けて、適切な価格を求めて働きかけることも肝要である。重ねて、日本の食品輸入についての保護主義政策に目を向けて、それが本当に必要なのかどうかを自分ごととして考えてみなければならない。たとえば、肉や肉加工製品について、日本は清浄国であることを第一に掲げる。イタリア旅行からの帰国時、寄生虫や伝染病予防のため生ハムやサラミが持ち込めないことは周知だが、正規輸入製品にも厳しい規制がかけられている。イタリアで野生のイノシシのアフリカ豚熱感染が確認された2022年1月から、イタリア製の生ハムなど加工豚肉製品の輸入はストップした。このような場合、解除までおよそ5年かかると言われる。清浄が確認されてから一定期間を経て解除することは理解に難くないが、その解除に至る手続きは複雑で、ゆえに一般に”戻ってくる”までにたっぷり時間がかかる。普通に生活していれば目が向かない事物ではあるが、ふと気づくと食べたいものがなかなか食べられないというシンプルな欲求不満につながる。国が国民を守るために行っていると解釈すれば致し方ないことと諦めるのが正しいのかもしれないが、本当に必要な手続きだけで物事が進んでいるのかどうか、一般市民が知る由はない。イタリアもいわゆる役所仕事の複雑さは世界有数だが、日本でも無駄かもしれないことを前例踏襲でやっていませんか?と問う必要があると思う。

ともあれ今回のプロモーションのキックオフでは、イタリア大使館より、来年は生ハムなど非加熱の豚加工品の輸入が再開する見通しという発表があった。3月に東京ビッグサイトで開催されるFoodexにおいてその”解禁”が堪能できるのでは、という。実現すればスペインのハモンなどでしのいでいたイタリア料理店にとっては朗報である。

さて、レストランプロモーションの幕開けは、東京・丸の内の「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」において、ステファノ・デル・モーロシェフによるランチであった。オリーブオイル、バルサミコ、ワインビネガー、海塩を軸に構成されたメニューは、オーソドックスなイタリア料理を体験しつつ、それらの調味料がいかに骨格をなすのかをあらためて感じ取らせるのがテーマだったのだろう。そして最後のティラミスは、テーマから離れてはいても、クリームに忍ばせたドライ・マルサラがまた調味料としての力を発揮していて、なかなかに楽しいフィニッシュだった。127日までの期間中、同店をはじめ、「カーディナル」グループのイタリア料理店(そしてしゃぶしゃぶ専門店でも)において特別メニューが提供される。

       

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