イタリア料理、ユネスコの世界無形文化遺産に登録

12月10日、インド・ニューデリーで行われたユネスコ無形文化遺産保護条約政府間委員会で、「イタリア料理」が無形文化遺産に登録された。イタリアの無形文化遺産としては20番目、食や農業の分野としては9番目の登録である。イタリア特有の食関係では、2017年の「ナポリピッツァ職人の技」、2021年の「イタリアにおけるトリュフ探索と採取」に次いでとなる。これまで、無形文化遺産としてフランスの「ガストロノミック食」(誕生日や結婚式、出産など祝いのために集い、ご馳走を囲むシーン 2010年登録)、日本の「和食:伝統的な日本の料理」(2013年登録)、「地中海食」(キプロス、クロアチア、スペイン、ギリシャ、イタリア、モロッコ、ポルトガルで受け継がれている伝統的な食生活 2013年登録)のほか、韓国のキムチやジョージアのテラコッタ醸造ワインなど、食テーマは大小さまざまあったが、一国の名が冠された料理全体として登録されたのは、イタリア料理が初めてである。

イタリアがイタリア料理を無形文化遺産に登録申請することを正式に発表したのは2023年3月。それより3年前、登録に向けて動き出したのは1929年創刊の雑誌「La Cucina Italiana」の編集長マッダレーナ・フォッサーティである。プロモーター委員会の会長となったフォッサーティは、イタリア料理の登録を目指したきっかけを「Gambero Rosso」のインタビューで答えている。「無形文化遺産の条約が締結された当初からしばらくの間は、食文化はあまり対象とされていない状態だった。しかし、2010年にフランスのガストロノミック食が登録されたことから物事が変わり始めたと感じ、マッシモ・ボットゥーラ、ダヴィデ・オルダーニ、ニコ・ロミートなど多くのトップシェフたちに意見を聞き、賛同を得て、国に働きかけた。イタリア料理という一見明確のように思えて実は茫洋としたテーマをどう定義づけるか、食文化歴史研究家であるマッシモ・モンタナーリ、法律家ピエルルイジ・ペトリッロとともに検討し、「Accademia Italiana della Cucina」「Casa Artusi」といった研究団体と協力して申請書類の作成に取り組んだ」。イタリア料理について端的に表現すると「モンタナーリによれば、さまざまな要素が組み合わさったモザイクであり、ペトリッロによれば、さまざまな液体を吸い込んで一つの液体を絞り出すスポンジである」と言う。

今回、登録された「イタリア料理」とは、「レシピの集大成ではなく、日々私たちと共にあり、私たちが何者なのかを語るものである。地域の特性に影響を受けながら、常に変化し、適応し、より豊かになっていくものである」とフランチェスコ・ロロブリジダ農業食糧卓越性森林大臣は言う。重ねて「イタリア料理はパズルのようなものである。私たち一人一人が一つのピースを持ち、各々が独自の料理法、レシピを持ち、料理を完成させる。そのピースは二つと同じものはない。イタリア料理はそんなピースが集まったものだ。それこそが私たちのガストロノミック・アイデンティティを形成している。イタリア料理は、単一素材からできたひと塊りのブロックではない。常に進化する伝統であり、何世紀にもわたって編み上げられてきた文化であり、地域ごとに築き上げられた歴史の結果なのである」。

さらに副題に「持続可能性と生物文化多様性の間に」とあるように、文化や世代、性別の壁を乗り越えて誰もが参加できること、そして無駄を出さない始末料理の伝統は食品廃棄物の削減につながり、環境の持続可能性のモデルとなっていることも、登録理由に挙げられている。また、我々外国人がイタリア料理について抱く“楽しい”というイメージも大切な要素だとフォッサーティは言う。イタリア料理の真髄はホスピタリティであり、イタリアの食卓にはいつ誰がきてもそこに座る場所があるのだ、と。

正式な登録が発表された12月10日、ローマでは記念として、コロッセオの壁面に「世界初 イタリア料理が無形文化遺産に」の文字が浮かび、オーディトリウム・パルコ・デッラ・ムジカのサンタ・チェチリア・ホールにおいて特別コンサートが催された。会場にはコックコートを身につけた料理人たちも大勢列席し、最前列にはボットゥーラ、イジニオ・マッサーリ、フランコ・ペペといった料理、菓子、ピッツァの重鎮たちの姿もあった。幕開けに歌手アル・バーノと子供達の合唱による登録キャンペーンのテーマソング「Vai Italia」が披露され、ロロブリジダ大臣やアレッサンドロ・ジューリ文化大臣の挨拶の後、ロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニなどが演奏された。年末ということもあり華やかな気分が場内に溢れ、イタリア料理という、イタリア人が最も誇りに思う文化の一つが世界に認められたという満足感が伝わる一夜だった。これからイタリア料理はどこへ向かうのか、我々に何をもたらしてくれるのか。今後もその足跡を追い、その魅力を探っていきたい。


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