シチリア美食の王国へ03 アンティカ・フォカッチェリア・サン・フランチェスコ@パレルモ(無料公開)

庶民の軽食の王、パーネ・カ・メウサ(脾臓のパニーノ)

どんな国の料理にも、庶民の日常料理と贅をこらした高級料理がある。そのどちらにも支持者がいて、どっちがいいということはないのだが、私はどちらかというと庶民料理に惹かれるタイプだ。だからパレルモに来て、(他の街でもそうだけれど)まずは気楽な食堂へ直行する。往きの飛行機の中では「どこへ行こう」と思い悩む。ウッチリアそばの「サンタンドレア」もいいけど、もっと庶民の軽食屋「アンティカ・フォカッチェリア・サン・フランチェスコ」もいい。それともちょっと足をのばして、ヴィッラ・イジェアそばの「トンナーラ」か、などと考えているとあっという間に着いてしまう。

パレルモに着いてまず一番目に食べるのを屋台ものと決めた場合。パレルモの屋台食にはパニーノかピッツァの変型か、はたまた焼き鳥のような羊の腸の串焼きなどがあるが、もっとも普通に食べるトラディショナルなのはパンを使ったスナック。なかでも脾臓の煮込みを挟むパニーノか、アンチョビなどをのせたふんわり柔らかなピッツァだ。屋台は市場や街角のあちこちにあるが、前回ここにいたからといって今回もそこにいるとは必ずしも言えないのが屋台である。勢い込んではるばるやってきたのに肩透かし、という悲しい目に合わないためにも絶対確実、年中無休の店はおさえておきたい。それが「アンティカ・フォカッチェリア・サン・フランチェスコ」。ウッチリア市場近く、その名のとおりサン・フランチェスコ・ディ・アッシジ教会の真正面にある。ここは屋台ではなく、ちゃんとしたパラッツォの一階。色ガラスの嵌ったリバティ様式のインテリアで、店内には時間がとまったような濃密な空気が漂う。セルフサービス、食べたいものをカウンターで自己申告して、受け取ったら自分でテーブルまで運ぶ。会計もレジに出向いて払う。

脾臓のパニーノ、パーネ・コン・ミルツァ(パレルモ弁ではパーネ・カ・メウサの脾臓は大量に下茹でしたものを薄切りし、それを随時必要な分だけ店の中央にある鍋のなかでくつくつと温める。オーダーする時にはチーズ入りの「マリタータ」か、チーズなしの「スキエッタ」の指定をする。マリタータにはリコッタとカチョカヴァッロの細切りが入り、スキエッタは塩のみふって、好みでレモンを絞って食べる。どちらもまずはパンの中身を少しむしりとって(捨ててしまう)、脾臓をのせ、フライ返しでギュッと押さえて余分な汁気を絞りとってから、という手順をたどる。脂の味とレモンの酸味もしくはチーズの酸味とまろやかさが合わさり、意外と脾臓のしつこさを感じさせない。もちろん味としては強烈な個性を放っているけれど、シンプルで素直。

パーネ・コン・ミルツァはできたて熱々が一番美味しいが、冷めてもまた違った美味しさが楽しめるのがスフィンチョーネ。オリーブオイルと水をたっぷり使ったごくごく柔らかいパン生地の上に、アンチョビ、たまねぎと炒めたトマト、パン粉、すりおろしたチーズ、オレガノなどをのせ、オリーブオイルをかけて焼きあげた分厚くてふんわりしたピッツァだ。庶民の街角スナックだが、家庭でもよくつくられるおやつで、その家その家独自のレシピがあるという。「アンティカ・フォカッチェリア」では、一口サイズから、一食に充分なサイズ、大きく焼いて切り分けるものなどバリエーションがいろいろある。

Via Paternostro,58 Palermo
Tel091-320264
無休(冬期休業あり)
パーネ・カ・メウ2.30ユーロ、ミニスフィンチョーネ1ユーロ、パネッレ1.10ユーロ。
数年前より経営が変わり、パーネ・コン・ミルツァやパネッレといったスナック以外に、パスタや、肉、魚料理のメニューが加わった。パーネ・コン・ミルツァはそれ一つで充分ボリュームがあるが、その前にちょっとつまみたいという気分のときには、ひよこ豆をペーストにして揚げたパネッレ(これをパンに挟んで食べるのもトラディショナルなスナック)、リゾットを丸めてパン粉をつけて揚げたアランチーノ、ポテトコロッケなどをつまむ。みんな揚げ物。アラブやギリシャといった地中海っぽさを感じる。