シチリア美食の王国へ05 オステリア・パラディーゾ@パレルモ

パレルモ人は行列が好き?並んでも食べたいぴちぴちの魚介料理

「ピッコロ・ナポリ」と並び称される下町系魚食堂「オステリア・パラディーゾ」。実は、「ピッコロ・ナポリ」の兄弟と「オステリア・パラディーゾ」のオーナーは従兄弟同士である。しかしこっちのほうが下町ディープ度は高い。六卓のみの相席御免、電話なし、ランチのみの営業。予約はきかないし、出遅れたら並ぶ覚悟で行く。テーブル間隔はできる限り詰めてあるので、奥に座ったら最後、出る時には食事中の人を立たせるしかない。テーブルには実用性重視のビニールクロス、紙ナプキン。グラスはワイン・水兼用で、ひとり一個。

「ピッコロ・ナポリ」のシロヒゲによく似た、やはりこれもひげのおじさんが、「スパゲッティ食べるか?」といきなり聞いてくる。何があるの?「アル・ポモドーロ、アル・ボロニェーゼ、……イワシ、ターラント風、イカスミ」。早口なので追い掛けるのが大変。魚は?「最後の三つ」。ならば、ターラント風とイカスミ。「一人前か、メッツァポルツィオーネ(半分)か?」。用心してメッツァにする。実際、多すぎず少なすぎず、日本人にはまず適度な量である。ターラント風はスパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレのムール貝バージョンだ。イタリアンパセリとアンチョビ入り。オイルとゆで汁で汁気もたっぷり。にんにくもばしっと効いている。ムール貝はぷっくりと太り、旨味も充分だ。イカスミのスパゲティは、イカの甘さがすごい。これでもかというくらいたっぷりのイカスミと一緒になると、まいりましたというほかない濃い味わい。上品とはほど遠いけれど、自信満々これがイカスミ・スパゲッティだという気迫に満ちている。

セコンドは店の真ん中にあるショーケースから選んだパオロという魚(小さめだからパオレットと呼んでいた)のオリーブオイルのみの蒸し焼き。このオリーブオイルがまた魚の脂と一緒になってねっとりとしたソース状となり、淡白な魚にからめて食べると絶品。オイルの香りが食欲をそそり、いつもこういう料理には「しょうゆがあればなおいい」と思う性質なのに、そういう気を全く起こさせない、強烈なオリーブオイルと魚の合わせ技を食らい、これまたまいりました、のひと言しかない。魚の身をほぐして皿に取り分け、さぁ食べようとしたら、まだ高校生のようなカメリエーレが飛んできて、皿に残っていたオリーブオイルソースをさらにかけてきた理由が今ならわかる。

ここも「ピッコロ・ナポリ」同様、13時くらいからどんどんお客が入ってくる。その日は土曜日だったからか家族連れ、友人グループがほとんどで、それがみんな決まったように同じ時刻に押し合いへし合いで入ってくる。そういうなかに、1人異様な雰囲気で入ってきた初老の男性。土曜日でもスーツをびしっと決めて肩にキャメルのコートをかけての入店。どう見ても「エム」(マフィアを指す私達のみの隠語。かつてはマフィアと口に出して言っただけで危なかったと聞いたので)という風情、日本でいうなら、ヤクザ映画に出てくるようなベタさ加減、しかし、これが妙にはまっているから感心する。おまけに、遅れてやってきた、奥さんとお嬢さんらしい二人としっかり抱擁の挨拶をしてからおもむろに着席する様も出来過ぎというくらいクールで熱い。思わず、へぇぇと見入ってしまったが、まぁこういう場面にも遭遇するのが、この店である。

Via Serradifalco,23 Palermo
電話なし
日曜休み、昼のみの営業、カード不可
予算目安:20ユーロ