シチリア美食の王国へ07 サリエル・デ・ラ・トゥール@カンポレアーレ

食事あってのワインを実感。5つのシラー試飲と田舎のシンプル料理

「エノテカ・ピコーネ」のニコラに誘われて、ある日曜日、パレルモの南、カンポレアーレ近くにあるワイナリーへ出掛けた。その日そこでは5つのシラー100%ワインの試飲会があるというのだ。開始時間は11時。二時間ほど試飲とレクチャーを受け、その後はランチというプログラム。

ニコラからは「パレルモからのんびり半時間で着くよ」と言われていたが、途中で写真も撮りたいし、道に不案内な私達は早めに九時半には出発した。イタリア人のいう“何分で着くよ”というのはあまりあてにしないほうがいい。“何キロ(あるいは何百メートル)あるよ”という言葉は驚くほど正確な場合が多いのだが。これはひとえに彼らの運転の仕方によっている。もともと動物的カンの強い彼らは、こと運転にはその能力を余すところなく発揮する。おっとりのんびりなニコラでも、ひとたび運転席に座ると “イタリア人”になって飛ばしまくる。スピードは出す、追い越しはかける、車間距離は詰め詰め。よくこんな運転して疲れないなぁと思う。しかも、長距離運転も平気だ。パレルモの菓子職人サルヴァトーレ・カッペッロは、菓子を自分のバンでトスカーナまで運び、その帰りも14時間ぶっとおしで運転して帰ってきたとこともなげに言う。片道1150キロ余り。プロのドライバーではない彼らでこれなのだから、本職は押して知るべし、どんな人(どんな動物?)なのだろう。結局、私達が現地に到着したのは十時半。道にもあまり迷わなかったし、途中で写真のために五分はロスしたとしても、ニコラの目安時間はやっぱりイタリア人スケールだったのだ。

このワイナリー「サリエル・デ・ラ・トゥール」は、カンポレアーレの領主として由緒ある貴族の名前である。ワインは長年つくってはいたが、よそのワイナリーに提供する原料ワインでしかなかった。それを現当主のフィリベルトが、自社エチケットをつけたオリジナルワインをつくろうと決心、今、ようやくそのリリースにこぎつけたところである。だから、今日の試飲会はお披露目会もかねている。

会場となったのはフィリベルトの持つ農園「マッセリア・ペルニーチェ」。シチリア伝統様式の農家で、母屋のほかに四棟のアパルタメント、プールもついたアグリトゥリズモとなっている。母屋には二階建て吹き抜けの大きなサロンがあり、そこが本日の試飲会場だ。試飲会をリードする講師はスローフード協会パレルモ支部に在籍するジャーナリスト、アシスタント講師はガンベロ・ロッソの記者が務める。

シチリアのワインづくりの現況についてのレクチャー後、五種類のワインが順々に注がれて、試飲のセオリーどおりに目、鼻、口でワインを検分していく。しかしこれが静かに行われるかというとそんなことは絶対にない。皆、口々に自分の感想を叫ぶのだ。「紫がかった赤!」「ルビー色!」「こはく色!」明らかに間違っているようなことも平気で口走る。最初のレクチャーはおとなしく聞いているが、ワインが入ると途端に素が出てしまう。こうして試飲会は大おしゃべり大会となるのは、イタリアではごく普通のことである。

試飲会の後はお待ちかねの食事。ビュッフェ形式で、順にテーブルに運ばれてくる前菜、パスタ、セコンド、ドルチェを、セルフサービスで食べるのだが、イタリア人はこういう場面になると誠に素早い。料理が出てくるのをいち早くキャッチし、すすすっとテーブルを取り囲んでさっさっと盛りつけていく。ぼんやりしているといつまでたっても料理に近づけない。だからこちらも「料理をとるぞ」という意気込みをみなぎらせて、お皿を抱えて隣の人と隙間をつくらずじりじりと詰めていくというスタイルで臨む。こうしてありつけたのは素朴で滋味深い田舎の料理で、特に肉料理が素晴らしい。地元の豚や鶏を使ったソーセージ、煮込み、グリルなど飾り気は全くないが、街中では味わえない力強い旨味に満ちている。田舎に行ったら肉料理、というのはシチリアに限らずイタリア全国どこでも同じだ。今日参加した人たちも、ワインはもちろんだけれど、実はこの食事にもかなり期待してやってきたに違いない。

試飲したのはCusumano社(シチリア)の「Nadari’a Syrah」、Baglio Hopps社(シチリア)の「Syrah」、Banfi社(トスカーナ)の「Colvecchio」、フランス・コート・デュ・ローヌの「Pararelle」、そしてSallier de la Tourのシラー。講師によると、シラーという葡萄はオーストラリアでもっともその性格が発揮されるもので、オーストラリアに似たクリマ(気候)を持つ、アフリカ、チリ、アルゼンチン、イタリアならモンタルチーノと南シチリアで素晴らしいシラーができるという。「サリエル・デ・ラ・トゥール」はシチリア北西部に属するが、そのシラーは柔らかく、熟した果実の甘みがあった。非常にバランスのとれたワイン、というのがこの日集まった人々の一致した意見である。

Sallier de la Tour(サリエル・デ・ラ・トゥール)
Masseria Pernice, Contrada Pernice,
Monreale(PA)
Tel&Fax0924-36797