シチリア美食の王国へ25 ドン・カミッロ@シラクーサ

闇夜に浮かび上がるバロック、それはまるで舞台景色

古代ギリシャ時代に栄え、中世にはオルティージャ島だけに規模が縮小し、そして今は周囲にも無秩序に発展して大きな都市となったシラクーサ。この街は、細道が迷路のように入り組んだオルティージャと、本土にあるネアポリ考古学公園の二つに見どころが分かれている。滞在するなら絶対にオルティージャ島だ。バロック建築の廃虚は夜の照明の中で一段と雰囲気を増す。夕食の後に街をそぞろ歩いて、よりヨーロッパらしいシラクーサを堪能しながらホテルへ帰るには、オルティージャに泊まるほかない。

シラクーサは近年特に街の活性化に努め、古代、中世の遺産を生かしながら必要な部分を修復していくという道をとっている。そのため、廃虚は取り壊すのでなく危険なところだけ修復し、街灯を整備してその美しい建築を効果的に闇夜に浮かび上がるようにしてある。小さな島の中には、レストランやカフェ、パブがあちこちにあり、週末ともなると冬でも人々が夜のそぞろ歩きを楽しむ街である。

扇状に開けたドゥオモ広場にはカフェがある。車は基本的に侵入できないので、人々はのんびり立ち話を楽しみ、子供達は鳩を追いかけながらはしゃいでいる、とても人間的な広場だ。ジュゼッペ・トルナトーレ監督の映画「マレーナ」はこのオルティージャ島で撮影された。モニカ・ベルッチの豊満な美女ぶりもいいが、なんといっても風景がいい。ドゥオモ広場といい、海辺の道といい、舞台にうってつけといった感じなのだ。

しかし、風景だけではお腹はいっぱいにならないので、お楽しみのレストラン探しにとりかかる。シラクーサはそれこそ山のように店があるので行き当たりばったりに入ってもそれなりに楽しめるだろう。逆に言えば、それほど突出して素晴らしい店がない。まずは市場付近にある数軒の魚料理の店を試してみる。市場はアポロ神殿そば、島の一番北端に日曜を除く毎日午前中開いていて、魚介も野菜も新鮮で素晴らしい。しかし、市場付近の店は傑出しているとは言いがたい。まぁ普通といったところだ。市場とはアポロ神殿を挟んで南側にあるレストラン「ダルセナ」もとりたててどうということはない。

結局、ミシュランなどでもお馴染みの「ドン・カミッロ」へ行ってみる。店内は広く、ワインがあちらこちらにぎっしりとディスプレイされている。果たしてワインリストはずっしり“電話帳”タイプだ。ガンベロ・ロッソの評価とヴェロネッリの評価がそれぞれのマークで付記されているのが親切である。サービスのカメリエーレは緑のジャケット、カメリエーラは緑のエプロン、ソムリエらしいお姉さんは緑のジャケットを着て、マイ・ソムリエナイフで抜栓する。全体的にちょっと気取ったクラシックな雰囲気だ。客層も身なりのこざっぱりとした地元人と観光客夫婦づれが大半、年齢は高め。私達がもしかしたら一番若い客かもしれない。

メニューは開いてまず一番最初に、「本日の私のおすすめ」(私というのはシェフのことだろうか)と題して7〜8品、前菜からセコンドまでが並んでいる。すべて魚介である。その後、前菜から順にレギュラーメニューが続く。「本日の私のおすすめ」から「エビのマリネ・青い蜜柑風味のオイル」と「蒸した手長エビのウニソース」、レギュラーメニューからは「魚介のフリットゥリーネ」と「地元産カジキのローズマリー風味」をオーダー。「エビのマリネ」はオリーブオイルに蜜柑を絞っただけというシンプルさで、さっぱりとしてそれなりに美味しい。「手長エビ」はこってりウニソースがエビの淡白な味をカバーしていてこれも悪くない。「フリットゥリーネ」とは小さなフリットくらいの意味だが、前菜なのでボリュームも軽く、塩はぴしっとちょうど良く、なかなかの出来映え。さすが老舗というか、こなれたフリットである。ただ一つの失敗が、「カジキのローズマリー風味」。好奇心を抑えきれず、つい頼んでしまったが、こういうクラシックな店でこういう不思議な料理は文字どおりストレートに出てきてしまう。カジキをバターソテーしてローズマリーを加えてみた、ただそれだけである。美味しいとか美味しくないというよりも、どうしてバターなのだろう、そして、やっぱりローズマリーはカジキには強すぎるのかもしれないと首をひねる。

しかし、この店の名誉のために、この一品はたまたま相性が合わなかっただけで、他の料理はまず悪くないとつけ加えておく。ワインも充実しているし、シラクーサではもっとも失敗の少ないレストランである。

Darsena da Jannuzzo(ダルセナ・ダ・ヤンヌッツォ)
Riva Garibaldi,6 Siracusa
Tel0931-61522
水曜休み 予算目安:30ユーロ
観光レストランではあるが、ワインもそこそこのものを揃え、ビュッフェで魚介や野菜の前菜が食べられるのがいい。

Don Camillo(ドン・カミッロ)
Via Maestranza,96 Siracusa
tel0931-67133
www.ristorantedoncamillosiracusa.it
ristorantedoncamillo@tin.it
日曜休み 予算目安:35ユーロ

La Foglia(ラ・フォッリア)
Via Capodieci,29 Siracusa
Tel0931-66233
www.lafoglia.it trattoria@lafoglia.it
無休 予算目安:30ユーロ
ヴェネト出身のアーティストが始めたベジタリアン料理の店。店内には彼の作品と、娘があちらこちらで買い付けてきた不思議なオブジェがいっぱい飾られていて独特の雰囲気。料理は普通だが、まるで昔の香水瓶のようにデコラティブなガラスの瓶に入ったハウスワインが出てきたのにはびっくり。

Fermento(フェルメント)
Via del Crocifisso,44/46 Siracusa
Tel0931-60762
火曜休み
新しくできたイタリア・ソムリエ協会公認のワイン・バー。

Enoteca Capriccio(エノテカ・カプリッチョ)
Via Dell’Amalfitania,11 Siracusa
Tel0931-464918
www.vinisiciliani.com 
info@vinisiciliani.com capriccio@vinisiciliani.com
アルキメデ広場すぐそばの老舗エノテカ。

 

シラクーサの陽気な器アーティスト、チルコ・フォルトゥーナ

子供がはしゃぎ遊ぶドゥオモ広場。その中でとりわけ盛り上がっている親子がいた。赤いワンピースに大きな麦わら帽子をかぶったすらりと長身のお母さんと、幼稚園児くらいと歩き始めたばかりの男の子二人。夏の夕方、それはなぜかとても印象的で、シラクーサという街がすごく穏やかで幸せなところなのだ、と自分の中で決めつけてしまうほど強烈な景色だった。

しかしその翌日、また出会うことになろうとは夢にも思わなかった。泊まっていたホテル「グトゥコウスキ」の朝食で使われていた器の作者に会いに行くことになっていたのだが、すぐ近くの工房で待っていたのは昨日の親子のお母さんだったのだ。工房にはさまざまな道具と一緒にどうみても子供が描いたとしか思えないデザイン画、というか、お絵書きが壁のあちこちに貼られていた。

そのお母さん、カロリーナ曰く「子供達が描いたの。素敵でしょ。私達夫婦でデザインをしているけど、子供のデザインも時にびっくりするほど斬新だからよく取り入れるのよ」。彼女(オランダ人)と夫のアンジェロ(シラクーサ人)が二人で営む「チルコ・フォルトゥーナ」は、イラストを器やTシャツ、ランプ・シェードにデザインする工房だ。絵柄としてはファンシーでかわいらしいが、どこかメッセージ性も強いデザインなのが面白い。それは彼らが、「愛がなくちゃなんにも始まらない」というポリシーのもとにデザインをしているからかもしれない。それはともかく、明るくて陽気な空気は作品にしっかりと出ていて、見ているだけでなんだか幸せな気分になってくる。チルコ・フォルトゥーナ、幸せサーカスなんて、ぴったりの名前だ。

彼らの器はアレトゥーザの泉のすぐそばにあるショップで購入可能。工房を覗いてみたいなら、まずはお店に連絡をしてアポイントをとるといい。

Circo Fortuna(チルコ・フォルトゥーナ)
Via Capodieci,42 Siracusa
Tel0931-62681
www.circofortuna.com 
circofortuna@libero.it

Gutkowski(グトゥコウスキ)
Lungomare Vittorini,26 Siracusa
tel.0931-465861 fax 0931-480505
info@guthotel.it
S 73ユーロ〜 D 88ユーロ〜 13室 3つ星
近年シラクーサは観光に力を入れてどんどん綺麗になっているが、それには現地の若い世代の活躍が大きく貢献している。このホテルはそんな女性起業家によってつくられた、シチリアでは新しいタイプのホテル。インテリアはシンプルモダンな地中海風、朝食は手作りのジャムにできたてのブリオッシュやビスコッティ、さらに、朝食のマグカップとプレートは地元アーティスト夫婦がつくっているという具合だ。小さなホテルなので、できるだけ早めに予約しておきたい。車はホテル前の海に面した道路に駐車可能。2003年春現在、このホテルのすぐ近くにもう一軒ホテルを準備中。

Domus Mariae(ドムス・マリアエ)
Via Vittorio Veneto,76 Siracusa
tel./fax 0931-24854
www.sistemia.it/domusmariae
domusmariae@sistemia.it
S 93ユーロ D 130ユーロ 13室  3つ星
修道院が経営するプチホテルとして知られる。前出のグトゥコウスキのすぐ近くで、海に面した部屋も何室かある(予約時に希望のこと)。内装はクラシックで華美さは全くないのが修道院らしい。難はエレベーターがないこと。車はホテル隣が青空パーキングスペースなのでそこへ。