シチリア美食の王国へ36 クーニョメッツァーノ@カターニア

消え行く保護対象食品にこだわる

もう一件、カターニアで一度は訪れたい個性的な店が「クーニョ・メッツァーノ」。バロック様式のパラッツォ・ビスカリの1階にあった馬小屋を改装したワインバー&レストランだ。有機栽培ビオロジコにこだわり、遺伝子操作した食品は一切使わない。パスタの小麦、リゾットの米はビオロジコ、肉は無農薬の牧草地に放牧し天然水しか飲ませない生産者のもの、サラミに添加物は一切認めず、チーズは昔ながらの有機農法、魚は天然物の青魚しか使わないなど、とにかく徹底した食材管理にこだわっている。そして現在消滅の危機にある保存すべき伝統食品を一般客につねに提供し続けている。

例えばある日の「ピアット・デグスタツィオーネ」はこうだった。チーズはメンフィ近郊のベッリチェ地方で作られる「ヴァステッダ・デル・ベッリチェ」。これはベッリチェ種の羊の乳から作られるペコリーノ・フレスコで「ヴァスタ」とはシチリア弁で失敗したという意味で、失敗したチーズを作り直したことにその名が由来する。香り豊かで味わい深いペコリーノ・フレスコであり、グリッロやインツォリアなどの白ワインによくあう。パンは例のカステルヴェトラーノの黒パン、パーネ・ネロ。胡麻をまぶしたコーヒー色で歯ごたえある皮と黄色い中身が特徴でなんともいえない甘味を持つ。最も美味しい食べ方としては地元産のチーズ、すなわちヴァステッダかプリモサーレ、塩、オレガノ、トマトとアンチョビ、バジリコとともにオリーヴオイルを一たらしして食べるのが最上とされる。それらに加えてカステルヴェトラーノ近郊メンサ村のオリーヴと、DOCワインの産地サンブーカ・ディ・シチリアに1600haの広大な土地を持つチェラッロ協同組合の赤ワインでテリトリーに根ざした前菜が完成する。シンプルの極みながら全てがシチリアの大地の恵み、農家風食卓の原点である。

その後にネロ・ダヴォラ風味のサルシッチャとウサギを甘酸っぱいソースで煮込んだ「コニッリオ・アグロドルチェ」を、ラグーサにあるアヴィデ社のチェラスオーロ・ディ・ヴィットリア「バロッコ」と一緒にとる。ともに清廉な味わいだった。生産者名順に並んだワインリストを食後にあらためて眺めていると食後酒も充実しているのに気付く。マルコ・デ・バルトーリのマルサラ「ヴェッキオ・サンペリ20年」とペッレグリーノの「マルサラ・ソレーラス1962」を飲む。マルサラの港を思い出させる香ばしく瑞々しい香りの逸品だった。

Cugnomezzano(クーニョメッツァーノ)
Via Museo Biscari,8 Catania
Tel095-7158710
www.cugnomezzano.it
osteria@cugnomezzano.it
日曜休み 夜のみの営業
予算目安:20ユーロ
スローフード協会と共同のイベントも行うので消え行く食材「プレシディ」を使った日に当たると興味深い一夜が過ごせる。