シチリア美食の王国へ40 カーサ・グルーニョ@タオルミーナ

異才が放つ伝統的シチリア料理の再解釈

カターニアからわずか50km、高速道路を使えば1時間もかからずにタオルミーナの街につける。常春の地であり、エトナの噴煙も届かない景勝地、映画の舞台、高級リジート地と幾つもの顔を持つがこの街で美味しいレストランを探すのはなかなか難しい。はじめてこの街に来た時屋上にテラスがある店でウニのスパゲッティを食べたのを覚えているがなんの印象も残らない料理だった。その次に来た時は冷凍のポテトコロッケや冷凍のムール貝のスープを出す店にあたりこれまたひどい思いをした。5つ星のホテル・レストランではイワシのベッカフィーコにゴルゴンゾーラを使っていて驚いたこともあった。一度行ってまずまずだったドゥオモ近くの有名店へ行こうと狭い階段を上って行ってみるとバッジをつけた日本の観光客が大騒ぎしていてびっくり、そのまま素早くUターンして出ていったこともあった。タオルミーナの丘の上、カステッロに近いトラットリアのテラスで食べた時は派手なシャツで「ゴッドファーザー愛のテーマ」の口笛を拭き続けるカメリエーレがいたが食事は記憶に無い。

唯一満足したことがあるのは昔の「ナウティルス」にカルメロがいた時で、古い日記を読み返すとこんなものを食べていた。海老とリコッタのポレンタ、海老とレンズ豆のズッパ、チョコレートのカポナータと甘鯛、豚とトマトとリコッタのニョッキ、羊のローストさつまいもとリコッタ添え、子牛肉の生姜、ハチミツ、唐辛子のソース、チーズ各種、柿のゼリーとフレッシュフルーツ、リコリスのババロア、席を立ったのは午前1時、よくもまぁこれだけと思うほどよく食べた。それ以来タオルミーナで美味しい店に出会ったことは無い。あまりにツーリスティックな店が多すぎるのだ。

今回「カーサ・グルーニョ」に初めて行ってみた。現在アンドレアス・ザンジェールがシェフをつとめる店で評価は年々上昇している。ドゥオモに近い1500年代ゴシック様式の古いパラッツォの一階にある店で「グルーニョ」とは当時アラゴン家支配時代のカタロニアの貴族。その紋章はドゥオモ内にも刻まれていることから当時の有力貴族だったとされる。「カーサ・グルーニョ」とはつまりグルーニョ家の屋敷、という意味になる。

この店は夏には中庭にテラス席が出る。騙し絵風のインテリアも個性的で、オフシーズンの平日の昼間にも関わらず裕福そうな客がちらほら。メニューの冒頭にはこの店はアンドレアスによる、シチリアのテリトリーの食材を使った「再解釈料理」の店です、とある。

薄切りのタロッコに白魚が乗った突き出しと一緒にミチェッリの白ワイン「グジーニョ」を飲みつつ料理を決める。前菜には「海峡の魚介類のバリエーション」と「トマトソースの縮緬キャベツとムール貝のトルティーノ」をとる。前者は見事な前菜だった。一口サイズのさまざまな魚介類をあらゆる調理法で一皿にまとめてある。生のスカンピ、マッツァンコッレ(クルマエビ)、白身魚は生でトルツメ、ムール貝のワイン蒸し、軽く火を通しただけのセッピオリーノ、オイル焼きしたガンベリ、白魚のフリット、衣をつけたスカンピのフリットとほんの一口ずつ冷温硬軟とりまぜた11種は懐石料理でいうところの八寸のような前菜だった。縮緬キャベツのトルティーノも非常に上品な料理だった。その次は「ハタの切り身」と「ワイルドライスと魚介のカレー風味」にする。魚介系のセコンドを食べるといつも思うのだが、特にシチリアでは前菜、プリモにその全エネルギーが注がれていて食べるほうも作るほうもセコンドはすでにテンションが下がっているような感じを受ける。ハタはオーソドックスな料理、魚介のカレー風味はいろいろな魚が入っているのはいいがすでに前菜で食べ尽くした魚介類に再び挑むので新鮮な喜びが湧いてこない。野菜のつけ合わせも同じだったので前菜の素晴らしい印象がやや減速して着地したような内容だった。食後に初めてアンドレアスと会ったが無精髭でブロンドの長髪をかきあげる昔でいうとミッキーロークのような不良タイプ。荒々しいキレとひらめきで勝負する感覚の持ち主のようだ。それでも不満もないわけではないが、現在タオルミーナではアンドレアスの店以外行く気がしないし、人に薦められるような店が見つからない。風光明美、気候温暖、しかし食に難あり、が私のタオルミーナ観である。

Casa Grugno(カーサグルーニョ)
Via S.Maria de Greci, Taormina (ME)
Tel0942-21208
www.casagrugno.it
info@casagrugno.it
水曜休み 予算目安:40ユーロ