Relais Casamassima@ Perugia, Umbria

トスカーナの南に接し、ラツィオとマルケに囲まれた海のない州ウンブリア。 苦し紛れかなのかもしれないが、自らを“緑のハート”と称 し、海はないが緑は豊かであることを歌っている。 しかし、いかんせんトスカーナの存在感が断然大きく、今ひとつ観光地としての知名度は低い。交通の便もさ ほどよくないので(電車や車でローマもしくはフィレンツェから、片道3時間は覚悟)、アッシジという世界遺産や、チョコレートの聖地ペルージャがあっても、なかなか訪れる機会がない場所である。

料理にしても、トスカーナ料理とほとんど違いがない。名物はストリンゴッツィやウンブリチェッリなどロングパスタをラグーに合わせるか、肉の炭火焼き。シンプルだが重い、農家の食事が基本だ。それでも、素材そのものの力がものをいうだけあって、美味 しいことは美味しい。旅行者にとって問題はホテルである。ウンブリアには、ちょっと素敵な、泊まってみたいと思わせる宿がなかなかないのである。素朴なアグリトゥリズモはおろか、老舗ホテルも野暮ったく重苦しいものしかない。仕事であればビジネスホテルも悪くないが(ペルージャ辺りならそういうホテルのほうがマシ)、せっかく“緑のハート”に来ているのなら、そういうものを感じたいと思うのが自然ではないか。

ペルージャから北へ5キロ、車で 10分ほどのところにある「ルレ・カーサマッシマ」は、ウンブリアでは珍しい、泊まるためにわざわざ出かける価値のある宿である。人里離れたという立地ではないが、静けさは申し分ない。オリーブの木々に囲まれた石造りの建物は、かつては教会の持ち物で、イタリア統一王国が成立した当時、国が教会から接収し て民間に売却した数多くの物件の一つだ。実際には農家として長らく使われていたこの場所を、所有者のもとに嫁いだトスカーナ女性、アンナ・ロコーリがアグ リトゥリズモに変貌させた。

ところで、やる気満載のイタリア女性が自分好みのインテリアを作り上げるとどうなるか。残念ながら大抵は色や素材の大洪水、おばあさんから受け継いだ小物からアフリカ旅の土産ものまでが雑多に飾られた、制御不能な空間に終わることが多い。しかし、アンナは長年フェ ラガモで働いた女性である。上質で上品であることを至上とし、ウンブリア伝統のごつごつとした石造りの空間をベージュを基調色に半ばナチュラル、半ばシッ クにまとめあげることに成功したのである。昔の農家で使われていた家具や謂れのありそうな銀器がモダンなソファと同じ空間に並び、ベッドのマットはしっかりと適度なかたさで、バスルームは機能性とデザイン性を優先。そして、特に冬のアグリトゥリズモにありがちな“お粗末な暖房設備”問題もクリア。もちろん、暖炉も点火OKである。

部屋数はわずか3室。各部屋が居間とベッドルームで構成された快適な“スイート”を実現したかったというアンナ にとって小規模であることは必然だったのである。客室以外には、朝食ルーム、食後酒も多種用意されているリラクシングサロン、そしてアグリトゥリズモで手がけるワインやオリーブオイル、ジャムのほか、近隣の職人が織ったテキスタイルや陶器などを販売するショップがある。夏にはこぢんまりとしたプールも楽しめる。レストランはないが、心づくしの朝食で十分、昼や夜はレストランにでかければいいのだ。ペルージャにはアンナおすすめの伝統料理(しかも激安)のトラットリアもあるし、遠出してモンテファルコあたりのエノテカレストランを訪ねるのも悪くない。

イタリアは公共交通機関の発達より車社会を優先させたがため、車がなければ身動きがとれないのが問題だが、車でないと行けないところに素晴らしいものがあるのも事実。ハードルは高ければクリアしたときの達成感も高いのである。

「ル レ・カーサマッシマ」は特にオリーブオイル製造にも力を入れている。ウンブリアはトスカーナと並ぶ上質なオリーブオイルの産地であり、トスカーナに比べる と、刺激よりもバランスを重視したミディアムタイプが主流。「ルレ・カーサマッシマ」では、レッチーノ、フラントイオ、モライオーロのほか、ドルチェ・アゴージャという地元品種も使用しており、フルーティで自然な風味は、肉やズッパだけでなくサラダや魚料理にもよく合う。ガラス瓶ではなく、缶入りなのも持 ち帰りに都合がいい。250mlと1Lの2種類がある。

Relais Casamassima

Via Pieve San Sebastiano, 5

Cell. +39 338 8255682

www.relaiscasamassima.it