Eataly@Firenze OPEN!!

地方にはそれぞれの土地固有のものがあり、そこへ行かなければ買うことも食べることもできない。 そんなイタリアの常識を覆し、動かずしてよその土地の味を楽しめるようにしたのがEATALY。「メイド・イン・イタリーの味が集まるデパート」と称されるように、まさにデパ地下イタリア版で、トリノに初登場して以来、イタリア人の食に関する購買行動に少なからぬ影響を与えた。全ての人とは言わないが、大なり小なり食べることに興味を抱く人たちに更なる好奇心をもたらしてきたように思う。

イタリアではトリノを中心にピエモンテで五カ所、ミラノ、ボローニャ、ジェノヴァ、ロー マ、バーリと次々に展開し、2013年12月にはフィレンツェにオープン。因に外国はニューヨークとシカゴ、そしてご存知ニッポンにあり、ニューヨークの盛況ぶりはイタリアにも伝わってくるが、日本では各地百貨店などに入ってはいても評判は今ひとつ。特に旗艦店で第一号店だった代官山店は近々閉店との報もあり、まことに残念な経過を辿っている。

日本での苦戦はさておき、EATALYフィレンツェ店は、当初4月に開くといわれ、それが9月に、11月にと流れてようやく開店にこぎつけた。工事が遅れたり、進んでいた企画がご破算になったりして、予定が予定どおりにいかないのは 当たり前。予定どおりにぴったり進む日本のほうがよっぽど特殊なのである。とにかく、EATALYフィレンツェが予定していた場所(これは変更せずに済んだ)に12月17日、創業者オスカー・ファリネッティとフィレンツェ市長マッテオ・レンツィ立ち会いのもとに開業した。

時は一年でもっとも買物熱がヒートアップするクリスマス直前、逆にこの時期にまで延期してよかったのかもしれない。フィレンツェのシンボルである大聖堂のすぐ足元、かつては老舗の本屋があったところに登場した“食のデパート”はたちどころに物見高いフィレンツェ人たちで溢れ返った。新しいものへの好奇心は強いが、リピーターにはなかなかならないコンサバティブなフィレンツェ人を相手にどこまで客足がのびるかが注目される。

とこ ろがしかし、オスカー・ファリネッティ等経営陣の狙いは別にある。フィレンツェ人はもちろんだが、どちらかというと旅行者をメインターゲットにしている。 フィレンツェ人だけを相手にするなら郊外で車を停められる広いスペースの(IKEAのような)立地を選べばいい。が、固定客になりにくい性質のフィレン ツェ人より、世界各地からやってくる旅行者を取り込むには街の中心でなければならない。地元民を第一顧客として展開してきたこれまでの路線をあえて変更し たのである。

フィレンツェにやってくる旅行者は、イタリアというよりも、フィレンツェそのものを求める傾向がある。ひと言 でいえば、ルネサンスの都らしさである。だから、EATALYフィレンツェは、Dedicato al Rinascimento(ルネサンスに捧げる)を掲げている。イタリア各地から選んだ食品以外に、フィレンツェ伝統のランプレドット・パニーノのコー ナーや、老舗トラットリアによる昔ながらのズッパをイートインで提供している。そして1月半ば開店を目指しているリストランテの名は「ダ・ヴィンチ」である。

店内は3フロアに渡っている。1階入り口は正面左、出口は右と別々である。左から入って買物をして、右のレジで会計を すませて出るという仕組み。入ってすぐはドルチェコーナー、illyのバール、有名パスティッチェーレのルカ・モンテルシーニによるケーキコーナー、製菓 製パン材料コーナー、そしてパンのコーナー。パンはすべて店内の薪窯で焼いている。注目はタイプ2の粒子の粗い粉を使ったパン。がっしりとした噛みごたえと粉の強い風味が特徴で、これはEATALY全店共通の人気商品でもある。

1階はそのほか、パスタコーナー、オリーブオイルコーナー、チーズコーナー、そしてやや弱いがハム・サラミコーナー。スライス済みのパッケージものが主体である。豆喰いのトスカーナならではの豆の量り 売り、そして、トスカーナ・アレッツォ方面から届く有機栽培の野菜。生肉はビステッカ用の肉だけを売っている。それも、昨今流行りのエイジングをかけ、 1ヶ月から2ヶ月を経た表面真っ黒に変色したビステッカ肉が専用冷蔵庫に並ぶ。鮮やかな赤を見慣れているフィレンツェ人には異様な光景である。

各 コーナーには必ず関連する書籍も並ぶ。ドルチェやパスタのレシピ本、スローフードのガイドブックや写真集、トスカーナ料理やイタリア伝統料理の本。1階出口のレジ近くには、市長マッテオ・レンツィの最新刊、2階のワインコーナーには、オスカー・ファリネッティのインタビュー本(6万部突破)もある。また1階にはビオ・コスメやキッチンツールのコーナーもある。狭いスペースながら商品のアイテム数は結構多い。

階段を数段上がる と(古い建物なので構造が複雑。バリアフリーではないのが古都の証でもある)イートインコーナー。肉(ビステッカやハンバーグ)、野菜(ズッパ)、パスタ、ピッツァの大きく4つに分かれ、それぞれカウンターが数席、さらに階段を十数段上った中二階にテーブル席が広がる。席数はおよそ100、セルフではなくすべてカメリエーレによるサービスがつく。ランチとディナーの営業で、時間外は原則クローズする。

イートインコーナーか ら戻ってかつてはオープンだった中庭スペースに据え付けられたエレベータもしくは階段を上って2階へ。Osteria del Vino Liberoと名づけられたこのフロアはワインとビールの販売、そして、簡単なつまみ料理とグラスワイン(150ml、€2.50〜)やカラフでワインを 提供する。ワインのセレクションは、イタリアでNo.1ソムリエを獲得したアンドレア・ゴーリ(トラットリア・ダ・ブルデ)が担当。

ワ インコーナーの奥に1月半ばからの営業を目指すリストランテ「ダ・ヴィンチ」があり、EATALY代官山で2年間シェフを務めたエンリコ・パネーロがトスカーナ料理をベースとしたクリエイティブなメニューを鋭意準備中である。3階には料理やワインの教室が開かれる予定で、これもまた旅行者がトライしやすい ように一回限りの短時間コース(2時間ほど)を予定している。

準備万端整って一斉オープン、というよりは、走り出しながら 調整していくあたり、とてもイタリア的だが、オスカー・ファリネッティからフィレンツェ店の飲食部門を任されているアレッサンドロ・フラッシカ(パニーノ&食料品店 ‘inoオーナー)曰く「やってみなければわからないことがある。やる前にあれはだめだこれもだめだ、では失敗しないけれど成功もしない。とりあえずやってみて、だめなところは修正していく」方針らしい。変化を恐れず、どんどん変容してくれれば、お客としても嬉しいことには違いない。

EATALY Firenze

Via de’ Martelli,22r Firenze

055-0153610

www.firenze.eataly.it

9:00~22:30 無休(12/25,26, 1/1は休み)