メッシタ Mescita@元競馬場前

敬愛を込めてミキティ、と呼ばせていただくがミキティこと料理人鈴木美樹の小さな店「Mescitaメッシタ」 が2011年春にオープンして以来、日本に帰国するたびに足を運ぶようにしている。しかしこの3年でミキティを取り巻く環境はめまぐるしく変化した。料理雑誌でその顔を見ない月は無いに等しく、16時からオープンしているというのに、席の予約もなかなかとれない。いま最も旬な女性料理人である。

メッシタ開店前、ミキティが3ケ月ほどイタリア全土東西南北を食べ歩きしていた頃、幾度となくフィレンツェで合流、ソスタンツァはじめあちこちともに食べ歩いたのは今や遠い思い出になりつつある。ミラノやナポリ、さらにシチリアと、遠征を繰り返してはフィレンツェに戻る、楽しくも辛くもあったそんな月日の積み重ねが血となり肉となり、いま現在メッシタで花開いてるのだ、とカウンターでミキティの働きぶりを眺めてはしみじみ思う。

カルチョーフィの卵焼きや、イワシのスパゲッティ、トリッパなどミキティの得意料理はこれまで幾度か食べてきたが、先日訪れた時の料理は冬のフリウリに思いをこめたハムカツ、山盛りルーコラのサラダ、スパゲッティ・ミートソース、パレルモの下町を思い出させるさっくりとしたパネッレ、そして同じくパレルモのピッコロ・ナポリで食べた、あのインヴォルティーニのようにしっとりとした太刀魚のローストと、東西南北イタリアの味を小さな厨房で縦横無尽に披露し続けてくれた。このところトスカーナとかシチリアとか××料理、という風にメニューを地方ごとにカテゴライズするのはあまり意味をなさなくなってきているが、その最たる例がメッシタではないかと思う。それは実際、イタリア各地に自らが足を運び、目にし口にし気に入ったから作るのであって、「これ何料理ですか?」という聞き方をして自らを狭い枠の中に閉じ込めてしまっているのは、実は食べ手であるわたしたちのほうなのではないだろうか。ミキティが気に入ったピンポイントかつローカルな郷土料理の集合体、それがメッシタなのであり、その際何料理という概念は特に必要ない。単純にミキティらしくてうまければそれでいいのである。

何州の料理、と規定することにあまり意味がないということは、イタリア料理界のご意見番ジャンフランコ・ヴィッサーニが繰り返し言っている。

「厳密にはトスカーナとかシチリアとか、州単位の料理Cucina regionaleというのはイタリア料理において意味をなさない。なぜなら州という概念が生まれたのはイタリアが統一された1961年以降のこと。それはあくまで行政上の区分であって、それより遥かに長い歴史を持つイタリア料理はそのような概念で区分することはできない。いうならば全てのイタリア料理はよりローカルな郷土料理Cucina teritorialeであるべきなのだ」と。

Mescita メッシタ
東京都目黒区目黒4-12-13
Tel03-3719-8279 
http://mescita.jp/