第1回FWD, food, wine & design@Alba

フィレンツェは、キャンティ・クラシコ協会のオーガナイズによるワイン関係のイベントが多い。プロ向けのアンテ・プリマ(試飲会)もあるが、同時に一般人向けのイベントにも熱心で無料試飲を柱としたさまざまな催し物が開催される。しかしそのなかには、これはちょっとと首を傾げるようなものもあって、たとえば、ワイン&ファッションなどというテーマイベントは、ワインとファッションがどう結びつくのかがはっきりしないまま、なんとなく終わってしまう。一般人が目にするのはせいぜい、街中のブランドショップのウィンドウにワインのボトルが唐突にディスプレイされているところぐらいで、あまり注目されることがない。

ピエモンテのアルバで、FWD、food, wine & designというイベントがあると聞いた時も正直「危ないな」と思った。食とデザインというのは、言葉の組み合わせの響きはとてもいいのだが、実際何をやるかによって得られる結果の差が非常に激しい分野だ。今回は初めての開催ということで、おそらく、あまり多くを期待してはいけないと思いつつ取材に出かけた。期間は6月5日〜9日(展示物によっては最大7月31日まで)、葡萄の葉が勢い良く成長し、しかも夏本番までには間があるというタイミング。しかし、今年に限っていえば、この夏最初の猛暑に見舞われた時期で、ランゲ・ロエロ地方の高い湿度もあいまって体力をかなり消耗させられた。

話は少々逸れるが、ランゲ・ロエロ・モンフェッラートは今年、イタリアで第50番目の世界遺産となった。登録の正式名称は「ピエモンテの葡萄畑の景観:ランゲ・ロエロ・モンフェッラート」(I paesaggi vitivinicoli del Piemonte: Langhe-Roero e Monferrato)。実際に登録された地域はかなり限定的だが、だからといってその部分だけが特殊な景観を持つわけではなく、便宜上線引きをしたのだろうと思う。あの辺りを“代表して”登録されたのだと解釈したほうがいいだろう。ただ、気になったのは、ロエロも登録名には入っているが、線引きされた登録地域でロエロに区分されるところはない。ターナロ川の右岸(ランゲ)と左岸(ロエロ)は兄弟のように分つことができないと判断したから名前を挿入したのだろうか。とはいえ、できるワインからしても全然性格の違う兄弟なのだが。

話はFWDに戻る。このFWDというのはそもそも、ロエロに本拠を構えるワイナリーTenuta Carrettaのオーナー、フランコ・ミロッリオと、都市計画や列車からイベントまで幅広く手がけるデザイン会社Bertone DesignのCEOアルド・チンゴラーニがちょうど1年前に会食したことに始まる。バローロやバルバレスコに代表される銘醸地として知られる一帯だが、小作人として小さな畑を耕していた時代から、その土地がそのまま国から譲渡されて自分の土地となった後も、暮らし方や働き方に劇的な変化が訪れなかった。結果として、世界的に有名なワイン産地となった今も伝統を頑に守り続けると同時に自分の世界に引きこもる生産者が多い。フランコは、トスカーナのキャンティ・クラシコ協会をはじめとする“足並みを揃えた”地域としての活動を発展させたいとチンゴラーニに語ったのだ。

ワイナリーとデザイン会社が結束すれば、food, wine & designというテーマに至るのは自然である。問題は先にも言ったが、何をどう展開するか。イベントをひととおり見た結論から先に言えば、かなりこぢんまりとした、準備不足も否めない催しが多かった。それでも、こういうイベントは続けることが大切である。回を重ねれば改善され、厚みが増し、参加者も増えて知名度が上がる。このイベントの主旨は、要は「地域の活動に地域の人が参加し、より多くの人に現地に足を運んでもらう」ことである。一つ一つの催しの意味を問うことも重要だが、主旨を見失わなければ、割りに何をやっても大丈夫だろう。

因に、今回のFWDのプログラムをざっと挙げると、「デザインクッキング・ラボ」(地域を代表する、あるいはトリノなどから招聘した料理人による、プレゼンテーションに注視した料理のデモンストレーション)、「アカデミア・バリッラ図書館所蔵の古のメニュー展」、「ワインオープナーコレクション展」といった食とワイン関係のほか、デザイナー喜多俊之氏の過去40年を回顧する作品展、ジュエリーメーカーのポメッラートの作品展、コンパッソ・ドーロの過去の受賞作品展等デザイン関係の催しがアルバを中心に、地域のワイナリーや城、スローフード協会が発起人となって誕生したポレンツォのガストロノミー大学等が会場となって繰り広げられた。また、期間中、参加ワイナリーの見学試飲(無料、要予約)も行われていた。

FWDの副代表フランコ・ミロッリオは「今回は言わばゼロ回目。反省点改善点を整理して次回につなげたい」という。食、ワイン、デザインの比重がバランス良く展開されれば、無理にそれぞれを一つのプログラムに集約させようとしなくて良いと思う。どれだけ面白いプログラムが集まっているか、これが地方イベントの成功の鍵となるだろう。