畑に生きる料理人ジョルジョーネ、待望の新刊

料理専門のTV局ガンベロ・ロッソ・チャンネルで大人気の料理人ジョルジョ・バルキエージ、通称ジョルジョーネのレシピブック「Giorgione orto e cucina」がこのほど発売された。7月1日にフィレンツェの書店で開かれたサイン会はすこぶる盛況、若者から年配まで幅広い世代に人気があることを示した。集まった人々のお目当ては、ジョルジョーネのマシンガントーク。文学的な言葉からきわどいジョークまで豊富なボキャブラリーが独特の早口に乗って飛び出す。イタリア人でもわからない言葉があるというから、ガイジンにはハードルが高いが、テンポの良い口調は聞いているだけで楽しい。

ジョルジョーネは、ウンブリア州サグランティーノで野菜を作り、家禽と暮らし、料理屋を営んでいる。料理はオルト(畑)で穫れる野菜が中心で、パスタを打ち、肉料理も出す。メニューはなく、そのときにできる料理を提供する。前菜はビュッフェ形式でさまざまな野菜料理が並ぶなかから好きなものを食べ、その後、プリモ2種類、セコンド2種類、ドルチェが続く。因に料金は1人25ユーロである。料金一律でその時あるものを食べさせる、という形態は田舎では珍しくない。ただ、ジョルジョーネのもとで食べた人は一様に「おばあちゃんの味と同じ」というらしい。田舎のおばあちゃんの家に親戚一同が集まって食べた思い出の味、楽しかった団らんの味が、ジョルジョーネによって鮮やかに蘇るというのだ。

ジョルジョーネ自身は若い頃、ローマやヴェネツィアにも暮らし、親戚はマルケにも多く、彼の料理にはそういった“よその地”の味も加わっているが、それでもやはりベースと成っているのはおばあちゃんの料理だという。一般的にウンブリアの料理はトスカーナやマルケの内陸部の料理と近いが、ジョルジョーネの料理をウンブリア料理として定義することはできない。イタリア人の誰もが郷愁を覚える味という程度にしか表現できないだろう。非イタリア人にとってそこは越えられぬ壁だが、非イタリア人を排除するものではないことは確かである。

翻って件の本では、作り方は語り口調で書かれている。分量も主材料のみ表記され調味料類は明言されていない。冒頭にジョルジョーネ本人が基本とする材料が幾つか挙げられているが、地元産のにんにく、たまねぎのほか、油脂はバター、豚のラード、オリーブオイルを使い、生クリームの代わりにより軽いクレーマ・ディ・ラッテを使う。そして、塩は粒の細かいfineではなく大粒のgrossoのみ。イタリアの家庭料理では胡椒はあまり使わず、もっぱら唐辛子を多用するが、ジョルジョーネは自分で調合した唐辛子ミックスを使う。読者にはイタリアンパセリやタイム、マージョラムなど好みのハーブを加えて作るようにと促している。

春夏秋冬の4章で季節の料理全80品を紹介しているが、そこにドルチェはない。サイン会でも、なぜドルチェのレシピが含まれていないのか質問が出たが、ジョルジョーネ曰く、ドルチェは分量きちんと計らなければならず、自由に自分の作りたい味を作れば良いという自らの信念から逸れるため、あえてドルチェははずしたという。それでも先頃、版元のガンベロ・ロッソ社のサイトでは、発売を記念して“禁忌”であったドルチェ3品のレシピが紹介された。ブラウニー、葡萄のクロスタータ、洋梨とチョコレートのトルタ、どれもきちんと分量が明記されている。そして、かなりずっしりとしたものができあがりそうなレシピである。ジョルジョーネも、ダイエットしている人はほんのちょっとにしたほうがいいと言うくらいに。ところで、ジョルジョーネはかなりの巨漢だが、体重の割りに成人病などの問題はないという。食べることが大好きで食べ過ぎてしまうから大きくなったが、食べているものに問題がないから健康なのだと。ある意味、理想的なイタリア人(太っているけど健康そのもの)なのである。

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