日本の食品をもっともっと世界に!

イタリアでも最近は、Wagyuについて語るイタリア人が増えている。折からのユーロ高で日本への観光旅行がちょっと身近になり、日本で食べたあの「とろけるように柔らかい」牛肉をもう一度食べたいというのである。特にKobe-beefの名の浸透ぶりが著しい。Wagyu=Kobe-beefと思っている人も少なくない。

その和牛、アメリカではwagyuの文字を使った商標登録が増加しており、日本の“ほんものの和牛”を輸出するのに障害が出るのではないか、という報道がなされている。アメリカは外国の名産物の類似品を、その名を語って(商標登録して)製造販売することが基本的に認められている国である。一応、それぞれの製品には規定が設けられているが、アメリカ国内での事情に即したものであり、原産地である外国に配慮したものではない。それによって少なからぬ損害を被った国の一つがイタリアである。

たとえば、プロシュート・ディ・パルマは“パルマハム”として、パルミジャーノ・レッジャーノは“パルメザンチーズ”と呼ばれ、アメリカで製造されたものであるにも関わらず、イタリアの地名が冠されるという事態が長年続いている。同様のことはヨーロッパ内でもあり、ドイツではパルマシンケンという名が定着している。が、プロシュート・ディ・パルマ生産者組合やパルミジャーノ・レッジャーノ生産者組合等がイタリアの農水省に働きかけ、EU内ではDOP(原産地保護呼称)やIGP(地域保護表示)に認定されたものに関して、産地以外で同様の製品が作られたとしても産地名を冠することはできなくなった。それでも、モッツァレッラのように、その名前自体は産地を表さず、製品そのものの“タイプ”を示すだけの場合は規制することはできない。モッツァレッラ・ディ・ブファラ・カンパーナのように、地名(カンパーナ)をつけてDOP登録することによって差別化し、保護していくほかはない。

件のWagyu商標登録について、日本の農水省は「米国ではWagyu単独での独占使用は認められていないので、日本の和牛輸出の障害にはならない」という見解らしいが、値段がより安く、同じようなタイプであれば、米国産Wagyuを消費者が選び、和牛がパルメザンチーズの二の舞になることは自明の理である。“和牛”という名称が、先のモッツァレッラと同じ一般名称とすれば、産地名(あるいは品種名)を明確に冠して差別化を図り、生産者(及び組合)と国や足並み揃えて輸出国に対し、産地名や品種名を冠した製品を尊重するように働きかけるべきである。

日本の伝統的な食品はもちろんのこと、外国文化を取り入れて作られるようになった食品(ワイン、チーズなど)にも優れたものがある。研究し、より良いものを作ろうとする精神と技術は抜きん出ている。しかし、なぜか外国に輸出する方向には進まない。日本酒などその最たるもので、生産者たちが経産省の肝いりで外国へ出かけて行き、プロモーションイベントを何度もやっているのに根づかない。コミュニケーションが下手とか、そういう次元の問題ではなく、売り込む相手を研究し、どうすれば受け入れられ、そして持続的に成長できるかというヴィジョンが欠けているにほかならないからだ。

イタリアをはじめ、ヨーロッパはジャーナリストの発言力が強い。まずは彼らを徹底的に利用し、宣伝の機会を作ってもらう。それと同時に、自国に働きかけ、相手国への輸出と流通への道を切り拓く。ジャーナリストがいくら喧伝したところで、一般消費者が買えないのでは話にならないからだ。そしてさらに、類似品の出現を防ぐために名称と品質の保護を進める。シンプルだが、この”3本の矢”を駆使することで日本の食品はもっと世界に受け入れられるはずだ。