ロマーノ・レヴィ追想録

過日ピエモンテを訪れたとき、バローロ城手前にあるワイン・オープナー博物館をのぞいたら充実したロマーノ・レヴィのグラッパ・コレクションにびっくりしたことがあった。2008年にこの世を去った天使のグラッパ・メーカー、ロマーノ・レヴィとは一度だけ彼の家で会ったことがある。当時まだコスティリオーレ・ダスティにあったリストランテ・グイドでウサギの冷製前菜とラヴィオリ・プリンを食べた後、リディア夫人とICIFの野沢氏に「ロマーノ・レヴィにグラッパを頼んでいるんだけどなかなか届かない。ひとつネイヴェに行って聞いて来てくれないか?」といわれたからであある。秋深まる11月のある寒い冬の午後、電話には出ないといわれていたロマーノ・レヴィの家の呼び鈴をこわごわ押してみると、ロマーノは実に気さくに迎えてくれ、グイド用のグラッパを渡してくれたばかりか、グラッパを買いたい、と言い出したわたしたちに一枚一枚手描きのエチケットを貼って、手渡してくれたのである。確か当時50000リラ程度で譲ってくれたような記憶がある。

その後もピエモンテを訪れる際には、時々ロマーノ・レヴィと一緒に撮った記念写真を見返すことがある。黒い帽子をかぶった小柄なロマーノはとても無邪気に、嬉しそうに写っているのだ。久しぶりにネイヴェの町を通り、ラ・コンテア、ブルーノ・ジャコーザなどをのぞいたあとロマーノ・レヴィの家の前を通りがかると、かつてロマーノがグラッパ作りに明け暮れた醸造所は廃れてはいるものの、ロマーノが暮らした家はきちんと保存されており、現在博物館となって公開されていた。その日は閉まっていたもののなんだか嬉しくなって、アルバに帰る前にカーナビのせいで間違えたふりをしつつ何度もロマーノの家を車で通り過ぎては運転席から中をのぞく。なんだか後ろ髪を引かれるようでネイヴェから離れたく無く、いつまでもそんなことを繰り返していたのだ。