イタリア縦断鉄道の旅13 トスカーナ世界遺産都市巡り

フィレンツェに暮らしはじめて早10年の月日が流れたが、未だ職人街にある築500年のアパートから動けないのは、そこがサンタ・マリア・ノヴェッラ駅から近いからである。時に夜明け前、あるいは夜更けに荷物をひきずってイタリア各地へ出かける時も切符を発券しに行く際も、駅まで徒歩5分という立地の良さになかなか引っ越せないでいるのだ。

2000年にFSから運行部門トレニタリアTrenitalia(www.trenitalia.com)が分離独立、別会社となって以来そのサービス部門の進歩は目覚ましいものがあるが、発券システムに関してはまさに日進月歩の感がある。自動券売機の設置やネット予約、電話予約、エウロスターESに関してはネット予約して予約番号を携帯メールでうけとり、そのまま乗車できるチケットレスもすでに一般化している。車内ではパームトップ片手の車掌が検札に現れ、携帯メールにある予約番号を見せるだけ。イタリア国鉄の代名詞だった窓口での長蛇の列は未だに完全に無くなりこそしないものの、それを避ける方法は幾つも生まれている。

例えば、クラブ・エウロスター。これは年会費を支払ったメンバーのみが利用できるサロンでESが発着する主要駅にある。会員はES1等車の割引やマイレージ・ポイントが獲得できる上、窓口に並ばずソファにゆったり座って発券作業ができるのがいい。。さらに飲み物無料、専用洗面所使用化、出発までクラブで寛ぐこともでき、これがまた便利。特に電車が遅れたときやショーペロ、つまりストライキでダイヤが乱れた時など大いにその力を発揮する。寒風吹き荒ぶ中、遅れに遅れた電車をホームで待つ人々がいる傍ら、クラブで暖かいエスプレッソ飲みつつ待つこともできるのだ。

デビュー間近の次世代エウロスターにあわせて、旧クラブ・エウロスターは徐々にネット完備など最新設備を備えたクラブ・アルタ・ヴェロチタ(AV)となるなど、準備は着々と進んでいる。現行モデルETR500系に代わるETR600系は車内無線LAN完備となるはずなので、その布石でもあるわけだ。

1935年に完成したサンタ・マリア・ノヴェッラ駅は主要ターミナル駅としての機能はミラノ中央駅やローマ・テルミニ駅などにゆずるけれど、シエナやルッカ、ピサ、サンジミニャーノなどの世界遺産が集中するトスカーナ諸都市を巡るには理想的な駅である。