豚の王様マヨーレ Majore@Chiaramonte Gulfi

南シチリアのバロック地帯にはノート、モディカ、ラグーサという3大バロック都市が存在するが、そうしたバロックの聖地とは違って訪れる観光客は極めて少ないものの、シチリア肉料理の聖地として多くの料理人たち、特にシチリアを目指す日本人料理人から崇拝されている町がキアラモンティ・グルフィだ。

キアラモンテ・グルフィは30分もあればすみからすみまで歩いてまわれるような小さな町だが、ここには「豚の王様」の異名を取る1896年創業のレストラン「マヨーレ」がある。初めてマヨーレをたずねてその衝撃的な料理の数々を雑誌「料理王国」にリポートし「豚の王様」と呼んだのは1999年のことだった。以来何度か訪れているマヨーレだが、今回5年ぶりに訪れてもその料理は全くぶれることなく、以前と同じままキアラモンテ・グルフィの代名詞としてその存在感をしっかりと主張していた。マヨーレにも一応メニューはあるのだがそれは事実上あって無きようなもの。実際には店のスタッフがその日出来る料理を告げ、結局注文するのは昔と変わらないいつもの定番料理になる。

マヨーレ風アンティパストはカポコッロ、サラミ、オリーブの酢漬け、そして茹で豚肉のゼリー寄せからなる。酢の利いたすっぱいゼリーと一緒に豚肉を食べるというこの組み合わせ、初めて食べれば衝撃が走ることと思う。暑い夏を乗り切る南シチリアの伝統料理にして、豚の王様の洗礼。続くプリモは豚のラグーのリゾット「マヨーレ風」とスーゴのラヴィオリ。ラグーのリゾットは北イタリアで食べる優雅なリゾットは全く正反対の豚肉を食べるためのリゾットで、ラヴィオリのスーゴはいわゆるミートソースではなく、豚の角煮がごろりと乗っている。これはイブレイ地方の古い郷土料理で、ピアットウニコにして肉を食らうためのパスタである。セコンドはオーブンで脂を落としながら焼いたパリパリのサルシッチャと、コスタータと呼ばれるゆで卵を詰めた豚ロース。特にこのコスタータは食通の故ルイジ・ヴェロネッリが「多くの店が模倣してきたが、これまた多くの人がいうようにマヨーレのコスタータこそが本物である」と言ったことでも名高いスペシャリティである。とにかく徹頭徹尾豚肉にはじまり豚肉に終わる。イブレイ地方の骨太な伝統料理体感するにはマヨーレを訪れてみるに限る。

また、マヨーレはレアなオールド・ヴィンテージのシチリア・ワインがこれまた衝撃的な値段で飲めることも特筆に値する。この日飲んだのはレガレアリ2001年とフェウディ・デル・ピショットのチェラスォーロ2011年。値段はご想像におまかせしたいが希望者には店のカンティーナを案内してくれるので、レアなシチリア・ワインを購入することも出来る。