サレント家庭料理の華、Le Zie@Lecce

パスタの道を辿る時に避けては通れないのがサレント半島。レッチェを中心とするアドリア海とイオニア海にはさまれたイタリア最東端の地域である。古代ギリシャの植民によって草創期は著しく発展したが、後に繁栄した中部イタリア以北のヨーロッパから半ば取り残されたために独自の生活様式がしぶとく生き残った地域でもある。このあたりでは、ラーガネと呼ばれる幅広のパスタやトリアと呼ばれるラーガネよりも細めのパスタが名物だ。ラーガネはその語音からラザーニアの語源とも言われ、トリアはユダヤ人がギリシア語で細長いパスタをそう呼んだのが始まりだと言われている。

レッチェに行ったついでに、イタリア半島で最も東にあるオートラントにも足を伸ばす。晴れた日には対岸のアルバニアが見えるオートラントは軍事上の要衝で、ヴェネツィア共和国のオリエント交易の重要な拠点の一つでもあった。15世紀末にトルコに攻め入られて以来築かれた城塞は往時の姿をとどめており、それを見るだけでも訪れる価値がある。が、しかし、それ以外の点では、オートラントは海の綺麗なちょっとした観光地に過ぎない。街並は整備され、土産物店や飲食店が軒を連ねている。安全でのどかな海辺の町。今までに数回訪れているが、残念ながら美味しいものには未だ遭遇していない。相性が悪いのか。

というわけで、レッチェに戻って目指したのはLe Zie, Trattoria Cucina Casareccia。Anna Carmelaおばさんが切り盛りするサレント家庭料理の店である。地元民も観光客も入り乱れての繁盛店で、夜は予約しなければ到底席にありつけない。メニューは通年ほとんど変わらず、前菜は盛り合わせの1種類、プリモは半分くらいが野菜料理で、手打ちパスタのオレキエッテ、サーニエ、トリアがそこに加わる。セコンドは肉が中心、名物は馬肉料理で、そのほかにイカ、タコ、バッカラの魚料理も。コントルノにも野菜料理が5種類ほど並んでいて、プーリアはやはり野菜大国であることを再確認する。

サラミやチーズが混ざる前菜はパスしてプリモから、ズッキーニやじゃがいもなど野菜のごった煮チャンボット、そら豆ピュレのファーヴェ・エ・チコーリエ、針金にまきつけて螺旋状に形作った長麺サーニエのトマトベース肉ソース、そして、細長パスタの原型とされるトリアをゆでたものと揚げたもの、そこにひよこ豆を加えて煮込んだチチェリ・エ・トリエを注文する。野菜の滋味たっぷりのチャンボットはさすがプーリアのお家芸。揚げた後にさっと煮込んだトリエの香ばしさは、あんかけのかたやきそばにも似て、ワインのつまみに最高。サーニエのソースは、ロコロトンドのLa Taverna del Duca同様、あっさりとしていてほとんど油脂が感じられないし、そら豆のピュレは乾燥豆ならではの日なたの匂いがする。つまり、どれもこれもしみじみとした家庭の味である。セコンドは馬肉のグリルとトマトソースで煮込んだポルペッティーネ。うっすらとサシの入った馬肉はグリルすると脂が適度に落ち、くせがなく柔らかい。ポルペッティーネはごく淡白で、これまたさらっとしたトマトソースと程よい相性。何をどんなに食べても疲れない、それがcucina casarecciaの料理なのだと確認した夜であった。