トップシェフが描くセカンドレストランのビジョン

近年イタリアではトップシェフによるセカンド・レストランが人気である。イタリアは日本以上にいわゆるグルメ番組が多く、特にひと昔前の「料理の鉄人」のような「マスターシェフ」は誰もが知る大人気グルメ番組となっているが、同番組レギュラーの「リストランテ・クラッコ」シェフ、カルロ・クラッコはテレビからの引退を表明した。その理由はというと、2017年秋オープン予定の新しいレストランのオープニングに集中するためだ。

イタリアでは近年トップシェフによる2号店、あるいはプロデュースが流行っているがこれは様々な理由がある。没落気味の他店を救うため、あるいは市の再開発の一助であったりと、どちらかというと人のため、という傾向も強い。 カルコ・クラッコの新しいレストランはミラノのシンボル、ガッレリア内に2017年秋誕生予定だが、1階がカフェ・ビストロ、2階がリストランテ、3階がイベントスペース。年中無休の大型複合施設で床面積は1000平米を越え、家賃は年間約100万ユーロ(約1億2200万円)という巨大契約だ。

一方ローマの一つ星「グラス・オスタリア」の女性シェフ、クリスティーナ・ボウアーマンは奇抜な髪型でも知られるが、この3月ローマにジェラテリアとピッツェリアなどからなる複合施設「ロメオ・エ・ジュリエッタ」をオープンした。こちらは下町テスタッチョの一画で、以前に自動車工場があった2000平米を超える巨大スペース。近年テスタッチョは市場のリニューアルなど再開発が進む一方、長らくローマを代表する名店だった「アガタ・エ・ロメオ」が閉店、中国人に店を売却するというショッキングなニュースがあったばかり。新生テスタッチョはボウワーマンにかかっている。

アブルッツォ初の3つ星「レアーレ」のニコ・ロミートは、若いスタッフに実験と実践の両側面から経験を摘ませる「スパツィオ」を運営。ローマ、ミラノ、ラクイラの3ケ所で本家「レアーレ」と同じメニューもリーズナブルに食べられるなど、ディフュージョンとしての役割も担っている。
同じく3つ星「オステリア・フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラは同じモデナ市内にディフュージョン「フランチェスケッタ58」をオープン。ボットゥーラ自ら「オステリア・フランチェスカーナの妹分」と呼んでいる。

その理由は、ひとつはWolrd 50 Best世界一になって以来つねに予約がとれない状況を緩和し、カジュアルなボットゥーラの世界を提案するということ。そしてもうひとつはやはり実験的キッチンの意味合いも持つ。ストリートフードをガストロノミーに昇華させるのはボットゥーラが得意とするところだが「フランチェスケッタ58」で生まれたハンバーガーへのアンチテーゼ「エミリア・バーガー」や「バン」は今後「モルタデッラの思い出」や「5種類のパルミジャーノ」などと並ぶ、ボットゥーラのシグニチャー・ディシュとなってゆく可能性が高い。

これまでもラボラトリーでのメニュー開発を続けて来たボットゥーラにしてみれば顧客の反応がダイレクトに分かる意味でも「フランチェスケッタ58」の存在は大きい。単なる2号店ではなく、行政の思惑や再開発、新しいメニューの実験と実践など、イタリアのトップシェフにとってセカンド・レストランは「セカンド」以上の意味合いを持っており、現在それが大きな潮流となりはじめている。

Franceschetta 58
Via Vignolese 58, Modena
Tel059 309 1008
http://franceschetta58.it/
ランチ12:00〜14:00、ディナー20:00〜 日休