1つ星シェフ、マルコ・スタービレが鳥取産どんこ椎茸に挑む

去る2018年10月10日(水)フィレンツェのミシュラン1つ星オーラ・ダーリア Ora d’Ariaにて、シェフ、マルコ・スタービレ Marco Stabileと鳥取県菌興椎茸協同組合による、どんこ椎茸を使ったスペシャル・コラボ・ランチが行われた。これはポルチーニやトリュフなど、キノコに関して深い食文化を持つイタリア人シェフに是非鳥取県産のどんこ椎茸を使ってもらいたい、という鳥取県側の願いがかなったもので当日は2名のイタリア人フード・ジャーナリストも招待。鳥取県産の日本酒も登場するなどサプライズに満ちた会となった。この日登場した料理は以下の通り。

Tartara di manzo marinato con lime e pere con DONKO SHIITAKE
 ライムでマリネした牛肉のタルタルと洋梨、どんこ椎茸
Risotto di terra e terriccio
 大地と土のリゾット
Tortellini di vitello al salsa di lemonglass
 レモングラス・ソースのトルテッリーニ
Gambero marinato, puree di patata bianca e SIITAKE
 エビのマリネ、白ジャガイモのピューレ、どんこ椎茸
Gelato di cioccolato bianco e olio, polvere di cacao, SIITAKE e sale
 ホワイトチョコレートとオリーブオイルのジェラート、カカオとどんこ椎茸と塩のパウダー

ポルチーニやトリュフなど、イタリアではキノコ類がメイン食材として存在感を発揮する料理が多いが、果たして日本のどんこ椎茸はそうした主役を張る存在となれるのか?その命題からスタートした今回のテーマ・ランチにマルコ・スタービレはこう答えた。

「椎茸はそのままでももちろん独特の質感があるが、あえて水で戻さずにパウダー状にしてみたのはそのほうがより空気に触れ、アロマを感じられるから。わたしは椎茸のパウダーから森の息吹を感じた」

そのコンセプトから最も印象に残ったのは「大地と土のリゾット」だった。これは極力マンテカーレを控え、米の食感を残したリゾットにモリーカと椎茸のパウダーを土に見立ててトッピング。大地に見立てたリゾットを食べ進めるうちに中から大きなどんこ椎茸が出てくる演出は、あたかも土中からトリュフを見つけ出したかのようなサプライズだった。

同席したAgrodolceのジャーナリスト、ラッファレッラ・ガラミーニ Raffaella Galaminiは「イタリア料理における可能性を感じさせる食材だった。例えばポルチーノ代わりにタリアテッレなどのパスタにも合うだろうし、アルピーニ風のようにグリルした肉の上にそのまま載せることもできる。スライスならばピッツァのトッピングでボスカイオーラにすればかなりいけると思う」とコメントした。もうひとりのジャーナリスト、Il Forchettiereなどに執筆するマルコ・ジェメッリ Marco Gemelliは「おそらくイタリアでもうけるとおもう。ポルチーニとは違う食感だし味も香りも違う。日本では高級食材ということなのでターゲットとしてのレストランを絞り込めば、話題の食材となるのではないか」

日本の食材が持つポテンシャルが高いのはマルコ・スタービレだけではなく、多くのシェフがすでに語ってくれていることだが、日本酒同様イタリアのマーケットになかなか浸透しないのは流通の問題だけではない。日本の食材に理解があり、またレストランとのコネクションもあるインポーターやディストリビューターと連携して食の世界でも「メイド・イン・ジャパン」を押し出す必要がある、とつねに思う。「ところでこのどんこはどうすればイタリアで手に入りますか?」とマルコの質問に、出席したどんこ生産者代表は「いまのところイタリアで販売する予定はありません」と答えた。

毎回日本食材をテーマにした食事会やイベントに出席すると思うことだが、貴重なPRの場を単なるお披露目会だけに終わらせてしまってはもったいない。真剣にイタリア料理界に日本食材を浸透させたいのならば、マーケティング、輸出、流通、メディア対策など含めた包括的かつ戦略的アプローチが不可欠だ。イタリアのワインや食材は、そうしたアプローチを長年続けてアメリカはじめ日本など、世界中に現在あるイタリア料理のプレゼンスを確立した。和食ブームを単なるブームに終わらせないためにはより広く世界の料理界から日本食材のアイデンティティを俯瞰する、そんなグルーバルな視点が必要なのではないだろうか。