プロセッコDOC探訪その3 斬新かつ華麗を競う、ボッテガ
プロセッコをあまり意識したことがなくても、ゴールドに輝くボトルは一度見たら忘れられないだろう。このゴールドボトルのプロセッコを手がけるボッテガ社は品質だけでなく「どう楽しんでもらうか」にも重点を置いた生産者で、斬新なデザインや積極的なプロモーションも行なっている。空港内のデューティーフリーショップなどトラベル・リテイルでは世界で3番目に売れているスパークリングワインだという。 かようにユニークで企画力を誇るボッテガ社は、その歴史もやや異色だ。17世紀のぶどう農家を祖先に持つボッテガ家は、1920年代にワイン商として活躍、50年代から60年代にかけてはグラッパ製造を開始、当時は珍しかった単一品種によるグラッパを手がけた。そして1983年、亡くなった父親の後を継いで、サンドロ、ステファノ、バルバラの三兄妹が経営者の座に着いた。まず打ち出したのが、グラッパメーカーとしての新機軸。アレキサンダーブランドの元、ヴェネツィア伝統の吹きガラス製の美しく繊細なボトルを採用したのがその一例だ。その次のプロジェクトはプロセッコ製造である。DOCG地区でぶどう栽培を行っていたボッテガ一族の原点を見直すべく、新しくワイナリーを建設、92年に最初のプロセッコをリリースした。 つまり、プロセッコメーカーとしては比較的若いのだが、世界への進出ぶりは目覚ましく、取引国数は123にも達する。その成功の理由の一つがボトルデザインであることはいうまでもない。中身がいくら良くても凡庸なデザインでは埋もれてしまう。一見、キワモノに見えても、中身がしっかりしていれば印象は好転することを社長を務めるサンドロ・ボッテガはよくわかっていた。また、トータルでの品質維持のため、ワインの自社製造は言わずもがな、ボトルやパッケージも全てボッテガ社内で作る。だからこそ、3度も塗装を重ねるゴールドボトルや、一つずつ手作業で3000粒ものクリスタルを貼り付けるスターダストボトルといった、破天荒な仕事が可能となる。「アルコール業界のフェラーリになる」がサンドロのモットーというのもうなづける。 現在、ボッテガの本拠は、ヴェネツィアの北50キロ程のトレヴィーゾ県ビバーノにあり、本社屋は17世紀に遡る農園邸宅を、オリジナルの雰囲気はそのままに機能的に改築したもので、ワイナリーとディスティラリーも併設されている。周囲にはぶどう畑が広がり、北側はプレアルピと呼ばれるアルプス前山岳地帯がすぐそばまで迫っている。平野だが山からの清涼な空気があたり一帯を通り抜け、なんとも気持ちがいい。しかも、アドリア海からの温暖な空気と豊かな水流、ミネラルを含んだ粘土質の沖積層土壌がグレラ種など原生品種の持ち味を存分に引き出すという。 プロセッコ及びスプマンテは全部で19種類あり、フラッグシップはヴィーノ・ディ・ポエティ・プロセッコDOC Brut。きめ細やかなペルラージュ、ゴールデン種のりんご、桃、洋ナシといったフルーティな香りとアカシアなどのフローラルな香りが華やかで、プロセッコらしさが際立っている。この傾向はボッテガ社のどのプロセッコでも顕著で、パーティなど晴れの場での食前酒にふさわしい。特に、ゴールドボトルのゴールド・プロセッコDOC Brutは、華々しさもさることながら、フレッシュフルーティな香りとシルキーな飲み心地は秀逸。ぶどう果汁をベースワインに加工せず0度で保存し、ボトリングの40日前に一気に二次発酵まで持っていくことで、プロセッコ本来のフレッシュさを最高に引き出し、しかもそれを安定的に提供することを可能にしている。 どれもが華やかさを競い合う、まるで大奥のようなボッテガ・プロセッコだが、その中で少々毛色が異なるのが、フンダム・プロセッコ・フリッツァンテDOC。フンダムとはフォンドのことで、イタリア語でいうコン(またはコル)・フォンド、フランス語のシュール・リーである。瓶内二次発酵後、澱引きを行わない方法で、トレヴィーゾ界隈では19世紀末以来、農家の伝統的なプロセッコとして親しまれてきた。ドライな飲み口、ナチュラルな酸味、なんとも言えぬ複雑な香りは、プロセッコの隠されたたくましさを感じさせる。プロセッコの奥深さを味わいたいという向きにお勧めである。 プロセッコやスプマンテ、グラッパの他にもヴァルポリチェッラ、アマローネ、さらにトスカーナでキャンティ、キャンティ・クラシコ、ブルネッロといった赤ワイン、フラゴリーノやリキュール、ヴェルモット、ウォッカ、そしてジンまで、ボッテガ社の手がける世界は幅広い。そして、どれもが“ボッテガらしさ”、他にはないオリジナリティに貫かれている。 Bottega S.p.A. www.bottegaspa.comSAPORITAをもっと見る
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