一夜限りのマルケージ映画「The Great Italian」
以前SAPORITAでもお伝えした通り、2018年11月26日に近代イタリア料理の巨匠グアルティエロ・マルケージの生涯を描いたドキュメンタリー映画「The Great Italian」が一夜限定、イタリア文化会館アニエリホールで上映された。これはマルケージ財団が主催するThe Great Italian World Tourの一環としてENITイタリア政府観光局が全面協力。ニューヨーク、シカゴ、香港、北京に次ぐ世界5番目の会場として東京が選ばれ、北米&アジアツアーの最後を締めくくる重要なイベントとなった。会場には故マルケージの娘であるシモーナ・マルケージとその夫でマルケージ財団CEOのエンリコ・ダンドロ、駐日イタリア大使ジョルジョ・スタラーチェらが登場。映画の中ではカルロ・クラッコ、ダヴィデ・オルダーニ、エンリコ・クリッパ、ピエトロ・リーマンといったマルケージの愛弟子たちの証言や、アラン・デュカス、ピエール・トロワグロ、ジョルジョ・ピンキオーリ、アリーゴ・チプリアーニなど同時代を生きた料理界の巨匠たちを訪ねて旅するマルケージの姿が収められ、「オープンラヴィオリ」「黄金のリゾット」「ドリッピング」など、一世を風靡した料理の数々が登場した。まだインターネットもYou Tubeもなかった時代が絶頂期だったマルケージの生の姿がたっぷりと堪能でき、マルケージ・ファンにはたまらない1時間10分だった。 上映の後、招待客は会場を銀座ブルガリ イル リストランテ ルカ ファンティンへと移し、マルケージの計作料理の数々を味わうこれまた限定パーティが行われたのだが、15台のマセラティが招待客を銀座までピストン輸送するという派手な演出も行われた。ルカ・ファンティン Luca Fantinとともに調理を担当したのは、今回エグゼクティブ・シェフとしてワールドツアーに同行しているアントニオ・ギラルディ Antonio Ghiraldiだ。会場にはマルケージの一連の伝説的料理写真が飾られ、それと同じプレゼンテーションの料理がブッフェ形式で登場するという演出。この夜登場したのは以下の料理だ。
ほうれん草とスズキのロール、マスタード・ビーンズ トマト、モッツァレッラとバジリコソース サーモンマリネのディル添え、梨の甘口ソース 帆立のサラダ、しょうがとピンクペッパー風味 エビの尾のペッパークリームソース “魚介のしずく Dripping”:ポロックに捧ぐ キャビアとアサツキのスパゲッティ・サラダ かぼちゃクリームとショウガ 金箔とサフランのリゾット “赤と黒”:フォンターナに捧ぐ グアルティエロ・マルケージの牛フィレ肉ロッシーニ風 コトレッタ・キューブ マルサラ酒のザバイオーネ、フライド・ライス・ヌードル:サーヴァに捧ぐ
今回初めて口にする料理も多かったが、当時非常にアバンギャルドだったと思われる「ドリッピング」はサフラン・マヨネーズのソース。現代アートを料理に取り入れるコンセプトはそのままマッシモ・ボットゥーラに引き継がれ、30年後にはかの名作「サイケデリック・ステーキ」へと至る流れを生み出したエポック・メイキングな料理だ。「キャビアとアサツキのスパゲッティ・サラダ」はのちに日本のイタリア料理界はじめ、世界中で模倣されることになった冷製パスタの元祖。パーティ会場で同席した日高良実シェフはかつてマルケージとともに働いた経験があるが「本当の黄金比率はキャビアとスパゲッティが1:3なんです」と貴重なエピソードを教えてくれた。「金箔とサフランのリゾット」おそらくは最も有名なマルケージの料理で、イタリア料理にない色彩と素材、そしてミニマルというコンセプトを持ち込んだ誰もが知る名作だ。しかし味付けは極めてトラディショナル、例えプレゼンテーションは前衛的でも、味付けはミラノ料理の伝統をきちんと踏襲しているところが、伝統料理に対するマルケージの思想なのではないかと思う。「赤と黒」はマルケージと交流があったアーティスト、ルーチョ・フォンターナに捧げられた料理だが赤いソースは赤ピーマンと酸味が効いたガスパチョに白味魚とイカスミのソース。「グアルティエロ・マルケージの牛フィレ肉ロッシーニ風」は「牛フィレ肉ロッシーニ風」はパリに暮らした作曲家ロッシーニが愛した、フランス生まれのイタリア料理だが、トロワグロにフランス料理の影響を受けたマルケージの料理人としての出自を象徴するかのような料理。「コトレッタ・キューブ」も多くの料理人に模倣された料理で、その後の再構築料理の元祖となったのではないだろうか。 残念ながら現在のところ「The Great Italian」は一般公開される予定がないが、年が変わった2019年にはヨーロッパツアー、そしてマルケージの誕生日である3月19日にはフィナーレを飾る盛大なイベントが用意されているのであるいはDVDなどの形で幅広く公開される機会もあるかもしれない。最後に映画の中からダヴィデ・オルダーニ、アラン・デュカス、そしてマッシモ・ボットゥーラのインタビューを紹介したい。特に印象的だったのはオルダーニの言葉で「マエストロは前衛的な料理を作り続けることでわたしたち若手料理人の防波堤となり、その後の料理表現においてわたしたちに自由を与えてくれた」と話していた。 Davide Oldani
Alain Ducasse
Massimo Bottura
また、パーティの様子も公式ビデオがYouTubeにアップされているのでご興味ある方はこちらもどうぞ。

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